第八話『男になりたい少女』
クエストを完了させた。パンも食べた。
僕はやる事も終わったので、セリアの村にでも帰ろうかとギルドを背にした。とその時。
「あの!ユトさん!」
聞き覚えのある声が僕を止めた。
僕は振り返り、言う。
「なんだい?ガレーシャ」
彼女はガレーシャ・ミリア。
僕の冒険者登録の時に担当してくれた受付嬢だ。
ほら、本棚に豪快に突っ込んだあの。
僕の名前を教える時に、さり気無く名前を聞いておいたのだ、
そして彼女が貴族だと言う事も、彼女の同僚に決闘の前に聞いた。
そんな彼女が、何の用で僕を引き止めるのか。
「……何処へ、行かれるんですか?」
「……そんな事。僕はただ美味しいパンを毎日食べれる所に行くだけだよ」
そう言って、僕は踵を返した。
後ろでガレーシャが騒いでいたが、そんな事は後でいい。
ーーーいずれ彼女も、こっちに来ることになるからね。
♦︎
翌日の朝。
僕は久しぶりに寝た。一ヶ月振りくらいか。
宿泊場所はセリアの宿屋。
宿泊費用のお金は生成した。方法は聞かないで良いよ。
そして僕の寝耳に、騒がしい子供の声が入りこむ。
それで、僕の安眠は妨害された。
しかもその子供は、昨日の夜僕に『小さい』と言ったあの少年の声にそっくりだった。
僕の耳は確かだ。僕のセルフ声紋認証に狂いは無い。
って、何のためにこっちまで来たのさ……。確かに君の村からセリアの村からは近いけど。
直ぐにその少年は僕の部屋の扉を問答無用で開け、息を切らしながら何かが入った袋を持ってきた。
ほんっと、プライバシー。
怒髪天を突く様な呆れが僕の中でこみ上げる時に少年は、
「これ!」
言葉足らずに少年は袋を渡した。
仕方ない、と開けると。
それは、パンだった。
焼きたての、昨日食べたパンとは少し違うテイストの、美味しそうなパン。
「良し、非礼を許そう。褒めてつかわす」
僕は少年の頭を撫でつつ、パンを朝ご飯代わりに食した。
もの凄い手の平返しを披露した後に、少年は赤く染まった顔で、
「師匠になって下さい!」
「は?」
情報量がパンクしてる、やめて。
♦︎
少し落ち着いて、僕は少年を外へと連れ出した。布切れの様に。
「……で、君の名前は?」
ベンチに座り、さも面接官の如く問いただす僕。
「アンビ・リワーズ。十二歳」
「性別は?」
「……男」
流れ作業かの如く聞いていたユトの動きが止まる。
「……それ、本当に?」
少年は目を伏せる。
「……男」
そして、意見を曲げない。
(この子、嘘ついてるね)
今分かった事だけれど、この子は女だ。
以外と見たら分かる。
下、完全に無いもんね。
僕は座っていたベンチから腰を上げ、威圧する用に彼女を見つめる。
「女、でしょ?」
「……」
彼女は遂に答えなくなった。図星だ。
ここで僕は今立てた推察を彼女にぶつける。
「……女だからって、僕が君を弟子にしないと思ったの?もしかして、元から女だと隠していたのかな?」
「くっ……」
彼女は、後者の方で反応した。
男になりたい女も居るから、否定は出来ないね。
逃げ出そうとする彼女。
だがそれをセリアが止めた。
チャンス。
「げっ……姉ちゃんなんでーーーー」
「別に、女の子だろうと僕は弟子に取るけどね」
「!!え……?」
驚くアンビ。
僕は、ちゃんと本心で言ったよ。暇だしね、この子を育ててもバチには当たらないでしょ。
僕はそう言う考えだ。目標の古代兵器破壊も、ちょっと後になりそうだし。
「だから、君の師匠になっても良いよって事だよ」
「……っっ!!有難うございます!師匠!」
こうして、アンビ・リワーズは僕の弟子になった。
♦︎
アンビから提示された習いたい武術と言うのが剣技だった。
聞くと、カッコイイ剣士に憧れているんだと。
いやはや。子供らしく無い目標かと思ったら、カッコイイ、か。
僕は遠距離とかを専門としてるんだけど、一応剣技もかじってるから教えられない事も無い、として教えている。
今現在は、彼女の体格と骨格に一番あった練習方法を使って成長させている所だよ。
その効果はある様だ。僕の召喚魔法で創り出したゴブリンとギリギリにだが渡り合っている。
しかもあの歳なのに、ゴブリンや魔物に対しての恐怖感なども皆無。
昨日ゴブリンに村を襲われたのだからトラウマを持っているかと思ったら、全くなし、しかも逆に闘争心を盛らせた所から戦士の筋はありそうだ。
魔法も少し位なら使えるとさ。
結構な逸材を見つけた様だね。僕は。
僕はゴブリンと頑張って戦っているアンビを楽しそうに見つめるセリアに聞く。
彼女がセリアの手によって止められた時に、彼女の口から出た『姉ちゃん』という言葉を真意について聞きたいから。
「ねえセリア、君とアンビって、どんな仲なの?」
やっぱり聞いてきますか、と一瞬顔を曇らせた後、彼女は言った。
「アンビは、捨て子なんです。森で一人布に包まれて落ちている所を見つけて、私が拾ったんです」
「……なら、今のアンビの両親は?」
「子供を育てるなら、と言う事で引き渡したんですよ。元々仲が良かった人達なので、育てて貰っています」
「そうなんだね。じゃあ姉ちゃんと言うのも?」
「アンビは何回か遊びに来ていて、そしたらいつの間にか、って感じですね」
「君はアンビを女だと認識していたの?」
「はい、拾った当初からですね。両親の前では男の子として通っていて、私の所に来た途端に女の子らしい仕草をするんですよね」
そう語る彼女の笑顔は、曇りないものだと察した。
本気で、アンビを家族だと認識している感じだ。
そう言う訳で色々頭の中にあったモヤモヤも消えたので、僕は弟子の稽古へと注力した。
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