第四話『実力が分からないように本気を出す』

 

 冒険者ギルド。


 それについて彼は説明してくれた。


 まず最初に説明してくれたのは登録方法。


 意外と簡単に済むようで住所不定、身元不明だとしても、その場で住民登録をするから大丈夫なようだ。


 冒険者登録時の質問も簡単なのが多いそうだ。


 だけどそこからのステータス確認と言うのが、僕的に厳しい所。


 本来ステータス確認用の本があって、それに手を当てる事によって、スキルや魔力量、ステータスなどがランクや数字に分けられて本に写されるそう。


 そこからランク分けがなされるって訳。


 普通の人だったら、何処が厳しいの?って所だと思うんだけど、僕って異世界人な上に、魔力やスキルなどの量が凄まじいんだよね。


 自慢じゃ無いけど、恐らくその本とやらに手を当てたら、爆発すると思う。


 それかステータス不明で表される筈。


 何故そう断言できるかって言うと……。



 残念ながらこう言う経験を何回もしてるんだよね。



 前、気付かないでこう言う測定をしたら、建物一つ吹っ飛んだからね。


 だからあれ以来、赤子の吐息位にまで実力を抑えて測定している。


 でも、いつも測定不能。


 それで冒険者になれなかったり、勝手にSランクにされたり。


 もうやだ。



 だから、今回は本気で自分の能力をフル稼働させて実力を韜晦とうかいしようと思う。



 実力を悟られない様に自分の本気をぶつける。


 よく分からないけど、それが最善かなって思ったから。


 だけどこれがそれの初挑戦。



 でも、人間何事も初挑戦なんだ。



 ……さて。


 頑張るか。




 ♦︎




 冒険者ギルド真正面。


 上に『リアン王国リリエル支部』と看板がかけられている。


 彼に聞くと、リアン王国首都、リリエルにあるからリリエル首都というらしい。


 そして彼は冒険者ギルドの国家間での位置付けと冒険者ランクについて説明してくれた。


 冒険者ギルドというのは、国の政治や戦争に関わらない代わりに魔物達を倒させてねという盟約の元、国家間での冒険者の活動を認可されているそうだ。


 だから自由に世界を飛び回れるという訳だね。だけど、最低ランクの冒険者には国の承認が必要な様だけど。


 そして冒険者ギルドの総本山的な物は無く、各地に散らばる支部でそれぞれクエストや物流網を管理している様だ。(各支部のクエストの同期化などはできる様だけど)


 そして、気になる冒険者のランク訳だけど。


 最低クラスから銅ランク→鉄ランク→銀ランク→金ランク→プラチナランク→ダイヤランクと行くらしい。


 そのランク毎の内訳は忘れてしまった様だけど、一番多いのは銅ランク帯らしい。


 他の世界とは少し違ったランク分けだね。


 今までの世界のランク分けは払拭しなくちゃならない。





 とりあえず近衛兵の彼にお礼を述べる僕。


「送ってくれて有難うね」


「これが僕の出来る最高の恩返しですよ。幸運を祈ってます」


 そう言って、近衛兵の彼は去っていく。


「そっちこそ、熱中症で倒れない様にねー?」


「分かりました」と彼は手を振りながら、振り返って笑顔を見せた。


 彼の姿が見えなくなった後、僕はギルドへと入った。



 入り口を抜けると、直ぐ目の前にカウンターに座った受付嬢が座っていたので、僕は声を掛ける。


「お邪魔するよ。冒険者登録をお願いしたいんだけど」


「分かりました。登録会場はあちらです」


 そう言いながら、受付嬢は僕から見て左奥の扉を指差した。


「あそこだね。有難うお姉さん」


 最低限の感謝を述べ、僕は受付嬢が指差した扉を開けた。



 ♦︎



「うわぁ、古臭い本の匂いが凄い」


 扉を開けた瞬間に僕の鼻に飛び込んでくる、紙の匂い。


 臭くは無いが、好きな匂いでも無い。


 登録が終わったら、直ぐに立ち去ろう。


 そう思って、僕は周りを見渡した……。


「えーっと、ちゃんとここだよね?係員も居ないけど」


 誰も居ない。


 僕の目の前に有るのは本がぎっしりと詰め込まれた本棚と、部屋の中央にある椅子と机だけ。


 後赤のカーペットくらい?


「後ろには……扉とか雑貨しか無いね」


 この状況を見てもしかしたら、と察する。


「まさか、一人で冒険者登録をやれってんじゃ無いよね?」


 まさか。そんなはずは無い。


 他の世界で見た、辺境の地にある冒険者ギルドだって人は居たんだよ!?


 おっかしいなぁ。ここ先進国だよね?


 しかもさっきの受付嬢が居たフロアにも冒険者は居たし……。


 と、そんな僕の耳に大声が入り込む。



「失礼しましたあぁぁ!!!」



 そんな絶叫にも似た声が聞こえ、後ろのドアが勢い良く開いた……と思ったらそこから凄まじい勢いで人型の何かが飛び出してきた。


 なんかそれが僕に当たりそうだったのでとりあえず避けた。


「ああ……意外と不味かったかな?」


 だがそれが人間、しかも女性の受付嬢だと知った時には、もう遅かった。


 ガシャン、バタバタ。


 何かが割れた様な音が鳴り、本が崩れ落ちる。


 受付嬢は、既に本棚へダイブしていた。


 しかも、顔面から。


 痛そうだ。


「大丈夫かい?君」


「大……丈夫で……す」


 状況とは裏腹に、見栄を貼る受付嬢。


 残念ながら、言葉通りの状況に見えないんだけどね。


 四つあるうちの本棚の一つへと顔面ダイブした彼女。


 その本棚の本は全て崩れ落ち、彼女がその崩れ落ちた本を体で受け止めている。


 辞書ほどの厚みがある本を何十個と浴びたのだ。大丈夫じゃないに決まっている。


 そして、何よりも大丈夫じゃないのは……下が見えてしまっている。


 スカートがまくれ上がり、その中身が。


 ユトは直ぐさま目を逸らし、直視を避けた。


 そして心の中で溜息を吐きつつ、彼女へと歩み寄り、


「ほら、起きて」


 手を差し伸べた。



 ♦︎



「あ、あああ。本当に有難う御座いますうぅ……」


「礼には及ばないよ」

 そして、僕は今埃被った彼女を綺麗にしている所だ。


 そしてふらっと、彼女が豪快にダイビングした本棚を見る。


 すっかりと治っている。本の一冊も欠陥がない。


 まあ、あれ全部僕が片付けたんだけどね。


 一秒で。


 本当に朝から大変だよ。


「良し……これで綺麗になったよ。……早速だけど冒険者登録、頼めるかい?」


「あ、はいそうですよね!お座りください!」


 なんか彼女僕の顔を見て一瞬止まった気がするけど……まあ気のせいか。



 僕はそのまま椅子に座り、彼女がする質問に答え続けた。


 その内容は、本当に簡単なものだった。


 名前など、使う武器など。



「ーーーーふう。これで終了です!次はユトさんのステータス確認です!」


 彼女は元気良く椅子から腰を上げ、本棚から本を持ってきた。



 ……なんかそっちテンションが高過ぎて動きが遅い僕がおじいちゃんみたいな感じになってない?



 介護?介護なのこれは。



 そう僕はツッコミを入れつつも、机の上に置かれた本に気を集中させた。


 ここが正念場。


「ここに手を当てて下さい!それでユトさんのステータス確認と個人登録が済みます!」


「……了解」


 呼吸を整えーーーーーいざ。


 手を当てると同時に、自分の能力をフル活用。


 全力で、自分の実力を韜晦とうかいするのだ。



 ーーーーそして。



 本が輝き、意思を持ったかの様に開く。


「計測完了です!ユトさんのランクは……」


 彼女は本を担ぎ上げ読み込む。


 と、直ぐに彼女の顔が曇り……。


「銅ランク……です」


 悔しそうにそう告げた。


 だが、僕にはそんなの関係無い。



 銅だよ!?銅!!



 冒険者の中で最低ランクの銅!


 今までは測定不能とか計測用の水晶ぶっ壊したとかでSランクとか冒険者になれなかったのに、今回は銅。


 計測出来ている上に、目立たない銅ランク。



 よし韜晦とうかい成功!!



 僕は心の中でガッツポーズを取った。


 だが、僕のこのランクでいたたまれないのが一人いる様だ。


 それが、彼女。


「そんな……ユトさんが銅?本を片付ける時にもあんな常識外れな動きをしていたのに、俊敏性もD?おかしい……」


 やはり、本を片付けた時のあの動きの所為の様だ。


 怪しまれるのもなんなので、頑張ってはぐらかすことに決めた。


「まあそんな事は気にしないで良いよ。これが僕の実力なんだから」


「それでも!」

 口答えをする彼女の言葉を、僕は軽く遮った。


「その本の計測は絶対なんでしょ?なら計測内容は何回やっても変わらないし、変えられない。僕は銅ランクで満足しているよ」


「でも……」


 悔しそうに嘆く彼女。


 僕の言っている事は、彼女からしたら正論だ。


 だからこそなのだろう。


 泣きそうになっている。


 何故かは分からない。が取り敢えず放っておくと僕の所為で泣かせたという事になりそうだから、慰めるために。



 ーーーー彼女の頭を撫でた。


「へっ!?」


「まあ、頑張って僕もランクアップするから、見届けてね」


 そう言って、もっと泣きそうになった彼女に背を向け、部屋を去った。


 扉を閉じるタイミングで、泣き声が聞こえた。


 でも、振り返りはしない。


 それが、彼女の為だから。


 そしていつの間にか首に掛けられている銅のタグを握り締め、僕はクエストボードへと向かった。


 その所為で僕は、銅ランクを速攻でやめる事になるのだが。

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