第三話『移民貧民大感謝デー』

 

 今現在、僕はリアン王国の空を飛んでいるところ。


 速さで言うと、軽く音速の壁を超えているよ。


 保護魔法で薄い空気にも耐えられるし、乱気流によって僕の体に傷が入ることは無い。


 今なら、他の世界の戦闘機とドッグファイトができるね。


 ……まあそんな冗談はさておき、


 もう直ぐリアン王国首都に着く頃だね。


 僕は下で物凄い速度で切り替わる街並みを全て見逃さない様に見ていた。


 あ。



 ……ごめんね、僕の動体視力については触れないで。



 取り敢えず、何故下の街並みを見ていたかを説明しようか。


 その理由は、至って普通。


 この世界の街並みや文化を見ておきたかったんだよ。


 あと、セリアが居る村迄の道程とか、人種とかね。


 ほら、大体小説とかにある異世界人ってのは、その国の文化を知らされる、ないし知ろうとするでしょ?


 それは自分の世界との差異を楽しみたいから。若しくは、この世界を知って生きて行く事に不可欠な要素だから。



 ……ちょっと分かりにくかったかな。



 じゃあ、海外旅行とかで例えよう。


 先ずないだろうけど、いきなり外国に自分が飛ばされたとする。


 その国は、自分が全く知らない国、文化で成り立っている国。


 では、先ず先に何をすべきか。


 そう。


 ここが何の国か、知ることから始めるよね。


 まあ、誰だってそうなる訳じゃないけど、大体の人はそうでしょ?


 だって知らない国にいきなり、事前情報も無しに飛ばされて「お!いい国じゃん!遊んでいこ」ってなる訳ないでしょ?


 あったとしたら凄い適応能力がある子だろうけど。それはそれで尊敬するけど!


 でも、違うよね。


 大体、こう言う時のする事は決まってる。


 状況確認と情勢確認。そして、異世界人だと罵られても折れない心。


 それで、充分。


 だから僕もそれに従う。


 いつだって楽しくは生きられないんだから。




 ♦︎



 リアン王国に僕は到着した。


 厳密に言うと、リアン王国を覆っている城壁の裏側。


「よっと」


 地に足を付け、僕は屈折魔法を消す。


 屈折魔法。実はさっきから付けていた。


 これは光を屈折させて、術者の姿を見えなくさせると言うもの。


 音速異様の速度で飛んでいた僕はこれが無くて、上を見られたらそこで終了なのだ。


 雲すら割る勢いで飛んでいた僕は、ふらっと上を見られたら、その姿を見られる事になる。


 こんな初期の段階で、フライングヒューマノイドなどで有名になって仕舞おうものなら、もう顔を変えて生きていくしかない。


 だから屈折魔法で見られないようにしていた。


 昔、他の世界にいた時、屈折魔法やらで隠さずに飛行してしまって、痛い思い出を作ってしまったから、こう言う事には注意を払っている。


 羹に懲りて膾を吹く、という訳には流石に行かないけどね。


 ……兎に角。


 リアン王国の城門を探さない事には入国できない。


「取り敢えず城門城門……あった」


 案外早くに城門が見つかった。


 大きい。


 流石大国屈指の先進国だね。


 僕は城門まで走って向かった……が、あるものを目にしてしまった。


「うわ……人が多いね」


 城門の目の前に長蛇の列となって立ち並ぶ人々の群れだ。


 数百人は居ろうか。


 溜息を吐いてしまうユト。


 それは、列の入国審査の消化スピードが物凄く遅いせいだ。


 このままの処理速度で行けば、一時間は掛かるだろう。


 理由は恐らく、列の人々の殆どが貧民か移民だからだろう。


 移民や貧民は、一般人と比べて入国審査のステップが多いから。


 移民や貧民だと決めつけるのはよく無いけど、服装からして、それは分かるんだよね。


 しかも城門の近衛兵達も汗水流して処理速度に溜息しているところを見ると、やはりこれが通常という訳では無いようだ。


「僕は移民貧民大感謝デーにぶちあたった様だね」


 僕は頭に手を付け、どうしようかと考える。


「いっそ魔法で国の重要人物になりきってあれを通過するか……?」

 悪知恵が働く。


 だが、それでは色々問題が起きる気がする。


「駄目だね。……仕方ない。あの近衛兵達を手伝うとしようか」


 あの移民や貧民達も、僕も助かる方法。


 それが最善の策だと思い、僕は城門へと向かった。


 ちゃんと服を冒険者風に変えて。




 ♦︎



 移民達の処理完了。


 ついでに僕の住民登録も片手間で済ませておいた。


 三十分で終わったのは良かった。


 近衛兵の一人が、笑って語りかけた。


「ありがとな、冒険者さん」


 彼の顔は、汗にまみれて汚らしかったさっきの頃とは違い、すっかり汗は晴れていた。


「助かりました……」

 これは、彼の相棒に見えるもう一人の近衛兵。


 その子も、疲れていない様子で良かったよ。


「礼には及ばないよ。……ところで何だけど」

 忘れかけていた所だけど、僕は入国しに来たんだ。


 入国について僕が言うよりも早く、彼が察した。


「ああ、入国か?喜んで送るぜ。行きたいところがあったら、案内もする」


「なら君の良心に乗る事にするよ。冒険者ギルドって、わかるかい?そこで冒険者登録をしたいんだけど」


 僕は冒険者ギルドへの行き方を知らない。


 出来れば、この子達が知ってくれてると手間が省けて助かるんだけど……。


「あれ?あんちゃん冒険者じゃ無いのか」


 ごめんね、紛らわしいけど僕は冒険者じゃ無いんだよ。


 そうか……と頭を掻く彼の横から、彼の相棒と見えるもう一人の近衛兵が出てきた。


「冒険者ギルドへは、僕が案内できますよ」


「だってよ」


 あたかも自分が言いました、との如く言う近衛兵は置いておいて。


「なら、頼むよ」


 僕はそのまま了承し、彼の相棒の近衛兵の先導で城門を通った。




 ♦︎




 今現在、さっきの彼の相棒君と一緒に冒険者ギルドに向かっている。


 歩んで行く僕の目に入った、ある光景。


「やっぱり凄いね、大国屈指の先進国と謳われるリアン王国は」


 城門を通った瞬間に分かったのだ。


 五感に直接語りかけてくる街並みだ。これは。


 朝などにも関わらずお祭り騒ぎの通りから匂う、焼けた肉と汗の匂い。


 男女混同で踊り狂う人々。


 目線を自然に誘導させるその舞は、観るためだけに立ち尽くしてしまいそうになる。


 それを取り囲む中世風の建物からは、色とりどりの垂れ幕が掛かっている。


 そして、耳に入り込んでくる歓声。


 うるさく感じる程の音量が飛び交っているにも関わらず、不快にすら感じない。


 聞いていると内から活気が溢れてくるかの様だ。


 熱気が凄まじい。


 これ、本当に朝何だよね?


「毎日こう言う訳では有りませんが、今日は国主様の誕生日なんですよ」


「ああ、そうなんだね」


 流石に記念日か。


 こんな宴が毎日開催されてたら、国の予算どうなってるんだと心配したけど、そうなんだね。


「……無知でなんだけど、冒険者ギルドへの登録の仕方って分かるかい?」


 僕は他の世界の冒険者ギルドを知ってはいるけど、登録方法がそれと一緒な訳では無いはずだから。


 一応、知っておきたい。


「分かりました。では冒険者ギルドについて紹介しますね」

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