第二話『馬車で何日かかかる距離でも、僕なら一瞬』

 


 僕は、僕の頭に入ったこの世界の事について部屋で思考していた。


 僕は睡眠を取らなくても充分に活動できる。


 だから今日一晩は存分に世界を救う為の順序について考えられる。


 分かった事だけど、未来視的にそう簡単には行かない世界みたいだ。


 それは、数々の王国が変に絡み合って出来てしまった世界破滅だから。


 その火中にあるのは、一つの王国。


 しかも、僕が居るこの王国らしいのだ。


 それは、リアン王国。


 大国屈指の先進国と謳われるこの国は、魔法や化学は勿論の事、さっき使った事象操作等、スキル等を併用した冒険者稼業も乗りに乗っているらしい。


 過去何回か戦争に遭っては居るけど、全てそれらを難なく跳ね除けるほどの軍事国家でもある……と。



 ……成る程。



 これは火中にもなるね。


 そして、何故か僕が見た未来視は、今までのとは違って結果だけが映し出された。


 この世界が破滅を迎える、とその結果だけの。


 僕が見たのは……酷かった。


 青かった空は黒色に染まり、綺麗な木々は全て灰となって消え失せ、緑に塗れた地面は全て燃えて、魔法か何かで削れたクレーターだけが残っていた。



 ……そして、宙に浮かぶ謎の黒い物体。



 恐らくだけど、あれは古代兵器だろうね。


 そして、世界を破滅させられそうな古代兵器が、入ってきた情報を見ていくつか見つかった。


 それは十三つあるらしいんだけど、それ以外の詳しい詳細は全く持って不明。


 ただ一つ分かる事は、リアン王国が古代兵器を目覚めさせてしまうという事。


 僕はそれを阻止するか、古代兵器を破壊すればいい。



 あの地獄の惨状を阻止する。


 それが僕の使命であり、仕事だから。



 ……なら、先ずはリアン王国首都に行って冒険者登録をしようか。



 出来れば、そこから王国の国中枢に入り込めれば尚の事いいね。


 それは『あの子達』を使えば行けるかな。



 でも、浅い川も深く渡れとも言うし、用心は必須だね。




 ーーー特に、あれには。





 ♦︎




 気付けば朝だった。


「……朝食を取りに行って、上京と行こうか……あれ?上リアンと言えば良いのかな?」


 僕はベットから腰を上げ、そう自問自答しながら部屋の扉を開ける。


 だけど、扉を開き切るタイミングで、僕の耳に話し声が聞こえて来た。


「昨日来たユト・フトゥールムさんなんですが……」


 その音源は一階の様だ。


 それは、二階にいる僕の耳にまで聞こえてくるくらいだね。


 僕が今使っている聴覚の具合は一般の人間クラスだから、かなり大きい声だという事が分かる。


 そもそも声が通りやすい建物の構造をしているから仕方ないか。


 一人はセリア。


 もう一人は……セリアのお母さんかな。


 見た事は無い。単純に、セリアの声音的にそうなのかな、と思っただけ。


「もしかしたら、フトゥールムさんは私達を導いてくれる存在なのかも知れません」


 僕はその言葉に小さく溜息を吐き、容赦無く二階の階段を降りる。


 このまま聞くのも手だと思うけど、それは面倒だからね。


「で?僕がどうしたんだい」


「!?……いえ、何でもありません」


 僕の声に驚き、セリアは咄嗟にリカバリーを取り、その母と思しき女性はいつの間にか椅子に座っていた。


 空席しかない食堂。僕含め三人しかいない。


「なら朝食、頼むよ」


 まあそれを気にする必要も無いから、僕は無視してテーブル付きの椅子に座った。



 ♦︎




「ご馳走さま」


 朝食を取り終えた。


「じゃあ、僕は発つとするよ」


 セリアに皿を渡して、僕は宿屋の扉を開ける。


「フトゥールムさん」


 と、その時に、セリアの声が僕を引き止めた。


「何だい?お金は払った筈だよ」

 そう僕が言うと、セリアは言葉を絞り出すように、


「何処へ……行かれるんですか?」

 と言った。

 僕を止まらせようとしているのか、行き先を知って何かをしようとしているのか。


 まあ、関係ないから。


 僕は軽い笑みで、答える。


「リアン王国首都だよ」


「かなり遠いですよね。行く手段はどうするんですか?……馬車を手配しましょうか?」


「いや、心配無用だよ」


「……分かりました」

 僕がそう切り捨てる様に言うと、口を噤む様にセリアは言った。


 正直、馬車なんて必要ないんだよね。



 ただ一度の飛翔で届くから。



 馬車でも何日かかかる距離でも、僕は一瞬で着く。


「じゃあ、行くとするよ。……また来れたら来るね」


「……はい。またのお越しをお待ちしております」


 セリアは、笑顔で僕を見届けた。


 閉まり行く扉の奥でも尚、満面の笑みで。



 だが一瞬。一瞬だけ。



 ーーー彼女の笑顔が……濁った。




 ♦︎




 僕は、宿屋を後にした。


 当然、彼女の表情の歪みも目にした。


 だが、わざと触れない様にした。


 その理由は……後で分かる事だから。


 そして、僕は呟く。


「報われないね……君は」


 ……僕は、飛んだ。


 足に一杯の力を込めて、地面を削る爆進力を首都に向けて。


 弾頭の様に。


 僕は村を後にした。

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