5.帰投

音声記録5-1:『おれはバグラムをもう一杯……』

 おれはバグラムをもう一杯、ワームは三匹入れてほしいね!


『殻は、DWディーウィー? 殻はてめえで剥くんだな?』


 触覚は切っといてくれよな! あれ口ン中に刺さるとめちゃくちゃ痛え!


『殻だよ殻! 殻は剥くのか剥かねえのか!』


 あー、そのままでいい。触覚が痛ぇんだ、必ず切ってくれ!


『はいよ、殻はそのまま!』


『あっ、ちょっとちょっと。これもう送信始まってんじゃないの?』


『マジすか? でもまだランプがグリーンすよ。あれ、ランプがグリーンってことは、なんだろ。録音してんのかな』


『そうに決まってるだろうトンマ! ねえDWディーウィー! DWちょっとこっち来な!』


 あーん、なんだ? 何いじってんだい、お前ら――おっほ、こいつはえらいポンコツだな。通信機? このボロ具合、航宙史以前の代物じゃん?


『そうだよ大先生。半世紀は前のアンティークだってさ。今日の獲物ン中でも一番売れなさそうなやつだったんだけど、ためしに繋いでみたら……』


『バグラム持ってけDW! ワーム三匹!』


 待ってましたァ! ヘッへ、たまらんねえ。パトロールどもと一戦やりあった日にゃあ、こいつをまず三杯は―― 


『ためしに繋いでみたらさぁあ! 面白いチャンネルがあったのよ!』


 うわっ、こぼれた! ったく、なんだよお前らときたら! 久々に大型旅客機おおもの襲ってガッポガッポってときによぉ! 騒ぐどころかバグラムも飲まずにこんな隅でガラクタいじって根暗で嫌だね、それでも宙賊ちゅうぞくかよ!


『知らねっすよ。虫入り酒なんて気色悪くて誰が飲めるか』


 なにぃ。おうおう新入り、おれァ威勢が良いのは嫌いじゃないが――


『ちょっとお! あんたが好きそうだから呼んでやったんじゃないの。このチャンネルさ、お化け話集めてんの!』


 はん? ホラー局番ってことか。あるだろ、そんなん。だからなんじゃい。


『それがさぁ。なんだっけ、ちょっと。あんた言ってやんな』


『なんかめっちゃ古い周波数帯なんすよ、こいつ。なんつうの、幽霊チャンネルってやつ』


 幽霊ねえ。おれたちだって裏回線使ってるだろ。


『そうゆうんじゃなくて、マジモンなんすよ。うちらは他人の中継機ハブをジャックして拝借してるだけっしょ。この骨董品は、たぶん自前のハブ使ってるっすよ』


 へへえ、なるほどねぇ。で?


『わかってないすね? もう誰も使ってない古い通信帯を、専用のハブが維持してるってことっす。チョー大金持ちのお遊びじゃなきゃ、存在しない類のバンドなんすよ』


『ね、幽霊でしょ。それでしばらく聞いてたらさ、幽霊チャンネルが幽霊話集めてんのよ』


『なんか、もともとは伝言用の局番だったみたいっすね』


『それであんたを呼んだってわけ。あたしらの巣穴ピットにもあるじゃない、面白いのが』


 面白いのって、えー、あれかな? ワジャジのやつが汚水タンクに落ちた話。

 それか、クランキーが真空ゴキブリ食いまくったら逆に腹食い破られて死んだ話。じゃなきゃ――


『守護悪魔の話よ!』


 アーハー、やっぱそれですよねぇ。


『え、守護悪魔ってあれすか? 船渠ドックの通路口に置いてある、ミイラの入ったヘルメット。え、あれまさか、マジモンの人間の頭だったんすか?』


『そうだよ。ほらDW、知らない子もいるんだからさ。教えてやるついでにラジオに流してみようよ。あたしら銀河で有名になれちゃうかもよぉ』


 幽霊話でリクルートかける宙賊がどこにいんだよ。あっ、おれたちか? って、いや面倒くせえなあ。

 第一よ、今までは爺さんの頭叩いてたって誰も呪われたりしてねぇが、どうする? 銀河中に話を広めたのに腹立てて、今度こそ祟られたりしたら。真っ先に爺さんの天罰受けるのはおれだぜ。うへえ。


『なによダサいね、びびってんの? 天罰ってさ、神サマが下すもんでしょ。大丈夫よぉ爺さんはあたしらの祖先なんだし』


 祖先の意味わかってる? それを言うなら先輩とか……。お前、ビリオンウィスキー何杯やった?


『いや、うちはマジで聞きたいっすけどね。あのミイラ入りメット、ヴィンテージっぽいし、ボスの悪趣味かと思ってたっす。あれいったい何なんすか?』


『おっ、DW! 久しぶりにあの話すんのか? ヘイお前ら、DWのちょっと楽しい怪談話のお時間だ!』


 はあっ、待て待て、おれはそんな――


『BGMつけるか? つけるだろ? 盛り上げてこうぜ、誰かミュージック・バルーン持って来いや!』


 くそ酔っ払いども、なにを勝手に――


『観念しなってDW。思うんだけどぉ、なんにも知らないで爺さんのメット撫でてくやつが増えるほうがさぁ、あたしら呪われちゃうと思うんだよね』


 く、くそ、わかったよ! おい、バグラム追加でもう三杯だ!

 だけど正体不明のラジオ局に流すのはナシだぜ、ナシ! 間違っても爺さんに祟られたくないからな。聞いたな、録音信号なんか絶対に送るんじゃねーぞ!

 まーったく、なんでいつもおれなんだよ。だいたいお前ら、いつだっておれ様がありがた~い話を始めたところで、も終わらんうちから無駄口叩き始めるじゃねえか。

 だぁもう、へいへい、わかりました! そんじゃあ耳の穴かっぽじってよっくお聞き、特に新入りヒヨッコちゃんども!

 これより始まるは、我らが巣穴ピットのドック出入口に奉られてる守護悪魔のお話だい。

 時は二十年前に遡る――ん、十年? 五十年だ? いや百年はねえだろ、そもそも巣穴ピットが存在してねえ! とにかく、そこそこ昔の話ってことだ。

 その頃の巣穴に、大した度胸もないシケたチンピラが一人いたと思いなよ――。

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