23.短い夏

 僕らが集会所に入った時には、すでに多くの住人であふれ返っていた。

 7人からスタートした村の人口は、すでに200人を超えるまで成長してる。


「遅いわよ!」


 壇上のカルミアが声を注意してきた。

 妊娠3か月目の彼女のお腹は、まだ目立つほど大きくはなっていない。

 隣に控えていたヴァナモが、カルミアに目配せして話を始める。


「大陸の修道会に教皇都から大規模な行軍をする予定だと連絡が来たんです。たぶんあと2週間で、やってくると思われます」


 僕はヴァナモに質問する。


「エルは破門になったし、なんでまた?」

「確かに、エル様の事は諦めたみたいなんですが、コハンの村の高い技術力が大陸にまで伝わり出したからじゃないかと。うちの修道会が統括する地域にも、コハンの村製のガラス製品や金属製品が入ってくるようになりましたし。とても評判になってます」


 ヴァナモの話をカルミアが引き継ぐ。


「うちの発展を脅威と捉えだしたようね。攻め込まれる前に、占領するつもりなのよ。防衛の準備を本格化しないといけないわね。グレタ! 対抗できそうなの?」

「はい、教皇都が総力戦をしてきたとしても250機。うちの航空戦力は40機ですが、ダイナマイトを使った催涙攻撃で防衛だけなら10倍の力を発揮できます。400機で攻めて来たってこちらの勝ちです。それに、教皇都は長距離の遠征で疲弊しているでしょうし、何よりもそれだけ大勢の食料を確保するのは、小さな村しかない過疎のトウゲン地方では難しいと思われます」


 その後も、役割分担や備蓄の準備などが話し合われ、僕の子作りも一旦中止ということになった。

 夜になり、集会所に集まっていたメンバーもそれぞれの家に帰って行く。

 そんな中、キキョウが昼間とは違ったどこか安堵したような表情で口を開く。 


「はぁ、当分お預けだな」

「そんなことないよ」

「何言ってんだよ。明日っから、準備で忙しくなるじゃねぇか」

「明日からね……。今日はまだ時間が残されてるじゃないか?」

「え?」

「さぁ、時間は限られてるんだ。朝まで頑張るぞ!」

「ちょちょ!」


 僕は、キキョウの手を強引に引っ張って部屋に連れ込み、夜が明けるまで寝る間も惜しんで愛し合った。



「もう、お昼ですよ! 起きて下さい!!」

「うーん、もうちょっと寝かせて……」

「何を言ってるのですか! 布団から出て来なさい! きゃあー!!!」


 翌朝、といってもかなり日が高くなってからだが、布団に潜り込んでいた僕らを、グレタが掛け布団を剥いで起こそうとした。

 しかし、彼女は中から出て来た裸で抱き合う僕らに驚いて悲鳴を上げたのだ。

 グレタは、顔を両手で覆って後ろを向いている。

 いつもツンツン真面目な委員長キャラだけど、こういうところがウブで可愛いよなと僕は思いつつ、無理やり起こされた腹いせに彼女に迫って行く。


「どうかしましたかい、グレタさん!」

「きゃあ! 変態! こ、こっちに裸のまま来ないでくださいー!」

「何を言っているんですか! 僕の部屋で僕が裸になるのは勝手でしょ?」

「ううぅ……。外で待ってますから、早く着替えてきてくださいね!」


 グレタは、涙目になりながら遁走した。

 僕は、ベッドで目を覚ましたキキョウの元へと戻る。


「グレタって、修道女なのに男の裸が苦手なんだな。ニウブなんか、お前の裸見ても全然平気そうなのに」

「エリートだから奴隷を担当した経験が無いんだろ? つうか、なんで一夜を共にしたお前が顔背けるんだよ?」

「そんなこと言ったって、怖いもんは怖いんだからしょうがねぇだろ! バカ!」

「なんだと? そんなこというやつはお仕置きだー!」

「やっ、バカ。寝起きでよく……、あん!」

「キキョウの弱点は、昨晩調査済みなんだよ! 観念しろ!」 

「くっ、バカバカ! タスクのいじわる! あっあぁうっく……」 


 そのまま寝起きの一発を済ませてから、服を急いで着替え、自分の持ち場へと急いだ。


 そして、きっかり2週間後、教皇都の大部隊が西の空に出現した。


『西の監視台からです。夕陽を背に数十の飛行隊が確認されました!』


 西の山の山頂に建てられた監視台から手旗信号で通信が入った。

 湖上にあるクマの家のサンルームに作られた司令部には僕とカルミア、グレタ、ヒナゲシが居た。

 グレタが状況を確認し指示を出す。


「西側に飛行部隊を集中。地上からの発煙弾もいつでも点火できるように! 教皇都の出鼻を挫いてやりましょう!」

「なんだか僕、緊張してきました。カルミアさん」

「みんなそうよ。でも、油断せず対処すれば、大丈夫」

『飛行隊こちらへ接近してきてます! 飛行隊の後ろから太陽以上の明るい光が広がっています!』


 それを聞いたグレタの表情が曇る。


「ルークが来ているみたいですよカーマイン」

「いい加減カルミアって呼びなさいよ」

「ルークって、光の魔法使いとかいう?」

「そう、タスクくんは知らないのよね。目つぶしをしてくるつもりでしょうけど、こちらが先に催涙弾で目つぶししてあげればいいわ」


 徐々に点が大きくなっていき、こちらの射程距離に到達しようとしていた。

 西の空には、ミュクスを中心とした20組の飛行隊が周囲に各自10個の催涙弾を展開させ待ち構えている。

 教皇都の100機に及ぶ飛行隊が西側の山脈に差し掛かろうとしたとき、半数の催涙弾が発射され、爆散する。

 催涙ガスに上空が覆われ、攻めて来た100機近くの飛行部隊が四散していく。


「さぁ、第二波の準備を!」


 その時、視界が白い光に包まれ、何も認識できなくなった。


「ルークの発光魔法です! 目を押さえて下さい!」


 グレタが、周りに向けて叫んだ。

 発光が収まると、村の上空を三角形の金属製グライダーが覆っていた。

 その数なんと………1000。

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