第四章 終わりの季節

22.三度目の……

 梅雨明けて青空広がる季節。

 北からの川が流れ込む湖畔近くの広場で、完成したグライダーの試験飛行が行われようとしていた。

 今回完成したものとは、違う形のグライダーは既にこの世界には存在しているらしく、飛行専門の風魔法使いが扱う三角形の洋凧みたいなもので、速度は遅いが一人の風使いで最大10人まで運べるらしい。

 今から飛ばそうとしているものは、もっと現代の飛行機に近い形をしていて飛行速度も時速200キロを目指している。

 コックピットにミュクスが乗り込む。

 トレードマークの白い長髪はヘルメットに収まっていて、見た目では誰か見分けがつかない。

  

「それでは、試験開始します! ミュクス準備は良い?」


 グレタの言葉に、コックピットの中から右手でジェスチャーを送るミュクス。

 すると、グライダーの尾翼が持ち上がり機首がつんのめるように下を向いたと思いきや、今度は機首が持ち上がるという風に、不格好な飛び立ち方を見せる。


「ミュクス、前に進んで! 翼の揚力を使うのよ!」


 不安定な挙動を見せていたグライダーが、グレタのアドバイス通りに前に進むことで安定し始める。

 時々失速したり、変な挙動を見せたりしながらも、やがて操作に慣れて来ると湖の上空を優雅に舞だした。

 僕は、気になることをグレタに助言する。


「安定はしているけど、主翼を短くしても良いんじゃないかな? 翼の空気抵抗で速度が出てないよ」

「そうですね。ただ、グライダーは軽いので揚力が余り無くても良いですけど、もっと大きくて重い飛行機では、風魔法使いの力がどうなるか……」

「重り載せて試すのも良いかもなぁ……っと、僕はもう行かなくちゃ!」

「もうですか! まだ、相談したかったのに。あの、ニウブさんに少しは子作りの回数を減らしてもらったらどうですか?」

「考えとくよ! じゃあ、また今度!」


 僕は急いで電動カートに飛び乗り、寺院へと向かった。

 子作り生活も3か月が経ち、一応希望者50人への種付けは一巡している。

 成功率は4割くらいだから、一年後にはいきなり20人以上の子持ちになるわけだ。

 グレタには言ってなかったが、2巡目になり少しペースを落として、一人一人にじっくり対処していく方針に変更になってはいた。

 しかし、僕が何で急いているかというと、それは、今日の相手が特別だからだ。

 僕は電動カートを湖畔の家、つまりは村で最初に建てられた建物の前に止める。

 玄関を入って、階段を駆け上がり左側に進んでドアをノックした。


「迎えに来たぞ、キキョウ!」

「ひゃっ! どどどうして?!」

「入るぞ!」


 部屋に入ると、ベッドに座っているキキョウが目を丸くしてこちらを見た。

 僕は構わず近づいて行く。


「今から寺院に行くところだったのに、なんで来たんだよ? 時間にだって遅れてないし」

「お前は特別だから」

「ひぇっ?」

「また僕とする気になってくれて嬉しかった。それに、臆病風吹かせて来なかった困るからね」

「そんなこと……、わわ! 何すんだ!!」


 僕は、キキョウを無理やりお姫様抱っこして、部屋から連れ出した。

 彼女は僕の腕の中で顔を赤らめて縮こまっている。


「恥ずかしいよ。誰かに見られたら……」

「大丈夫、みんなグライダー見物に行ってるよ」


 階段を降りて玄関前で扉を開けるためにキキョウを下ろす。

 彼女の手を引いて電動カートに乗り込み、寺院へと急ぐ。

 寺院の扉を開き、ニウブに声を掛ける。


「ニウブ! キキョウを連れて来たぞ!」

「はい、ただいま行きます!」

「いいよ、このまま僕の部屋に行くから」

「でも、カウンセリングをまだしてませんし」


 ニウブがトテトテ小走りに近づいて来た。

 僕は手を前に出して、彼女を制止する。


「大丈夫。キキョウと僕の仲だから」

「それは……、でも、キキョウさんは大丈夫ですか?」

「え、ああ……」

「キキョウとは、昔やったんだから大丈夫だよ!」

「でも、一年以上前じゃないですか! 久しぶりなんだし、心を整えてからの方が……」

「良く知った仲だから大丈夫だよ! とにかく、昼ご飯とか呼びに来なくていいからな!」


 僕は強引に話を遮ると、スタスタと自分の部屋へキキョウを導いていった。

 ベッドに彼女を座らせて、声を掛ける。


「何か、飲みものいる?」

「要らない」

「じゃあ、目を閉じて」

「え?」


 僕は、そのままそっと唇を合わせにいく。

 強引に舌をねじ込んだりはせず、優しいタッチでキスを繰り返す。

 キキョウも、次第にリラックスしてきて僕を受け入れる。

 ゆっくりベッドに押し倒し、首筋やアゴのラインを責める。


「きゃぅ! はぁはぁ……うぅ、くはぁ」


 僕は、一年以上前のキキョウとの失敗に終わった初夜や、初めてユキとした夜のことを思い出し、また同じような愛しさの感情を持って女の子に相手出来ることの喜びを嚙み締めていた。

 キキョウが僕の事を好きなのは何となくわかっていたし、僕だって憎からず思っている所はある。

 ここ3か月の感情のない労働としての子作りじゃなくて、ユキとしてた頃のように、互いを想いあって出来ることが僕は嬉しかったのだ。


「少し、激しすぎたかな?」

「そんなこと……、分かんないよ! でも、お前、変わったなタスク……」

「どこが?」

「前は、もっとぎこちなくて、自信も無いチキン野郎だったじゃん」

「あの頃はまだ童貞だったし、女の子をどう扱えば良いかも分かんなかったからな。今じゃ半年で400発52人相手してきたんだから、そりゃ変わるさ」

「そっか……。お前は色々経験積んだものな」


 キキョウが遠い目をして、過去に思いを馳せているような表情をしだした。

 リラックスさせようとして声かけたんだけど、もっと行為に集中してもらわないと。

 僕は、そう考えて、キキョウに声を掛ける。


「なぁ、服脱いで良いか?」

「うん……」


 意味を察したのか、キキョウは顔を赤らめ、こっちを見ずに肯いた。

 僕は上着を脱ぎ、ズボンのベルトをカチャカチャさせていると。


 ―ドンドン! ドンドン!


 扉を乱暴にノックする音が聞こえてきた。


「タスクさん! 大変です!」

「何だよニウブ! 後にしろよ!!」

「ダメです! 緊急事態だから入りますよ!」


 ニウブが、誰かと一緒に部屋に慌てた様子で入ってきた。


「お前は……」

「きゃあーーー!!!」


 既に降ろしてしまったズボンとパンツの下に隠れていた僕のイチモツを見て悲鳴を上げるヴァナモ。

 ……またこいつかよ!

 以前も、カルミアとあと少しで童貞卒業というところで駆けこんで来やがった。

 こいつが大陸から来たということは、ロクな知らせじゃないことだけは確かだ。

 僕は、また面倒ごとかよとウンザリしながらも、質問することにした。

 

「なんだよいったい?」

「教皇都が攻めて来るって、ヴァナモさんが! なので、カルミアさんが緊急招集を……、キキョウさんも来てください!」

「うぅぅ……」


 ニウブに声を掛けられたキキョウは、ベッドの中で丸くなっていた。

 こうして、邪魔をされた僕らは、そろって寺院の集会所で開かれる緊急会議へと向かはざるおえなかった。

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