20.問題山積
コハンの村に帰ってきた僕は、さっそく銀塩カメラの制作に取り掛かった。
まずはフィルム用のセルロイドを作る。
材料は、クスノキから蒸留した樟脳と綿に混酸を混ぜて作るニトロセルロース。
この樟脳とニトロセルロースを混ぜるとセルロイドになる。
これに硝酸銀をゼラチンで定着させて写真フィルムの完成だ。
レンズは、以前に双眼鏡を作ったことがあったのでそれを転用。
完成したカメラで星空を撮影した。
現像した星空の写真は、星の残像が円を描くことで北極点を推測できた。
ニウブに書いてもらった星の地図と比べることで、やはり、今は元の時代から約1万年後くらいか、もしくはそれに何回か二万六千年を足したものだろうということがわかった。
そして、六分儀を使って緯度を計測し、地球上の同じ緯度にある島から考えて、たぶんここは日本、それも箱根の辺りだろうと推測できた。
これで、仙人の言っていたことを証明できた。
つまり僕たち奴隷は、異世界に召喚されたのではなく、タイムスリップさせられたと考えられる。
ということは、ここは魔法の世界ではなく超科学の世界なのだろうか。
物理法則に反した魔法と言われるものは、時空の歪みから発生するダークマター。
それとも、目に見えないナノマシンが作り出す物理現象なのか。
単純に魔法と思っていた方が、解明できないものとして良かったのかもしれない。
しかし、解明可能な科学だとすれば、どのみちもっと技術を革新して文明を進歩させないといけない。
そのために必要なものとしては……。
「石油と天然ゴムじゃと?」
僕の話を聞いた爺さんは驚いた表情をした。
隠れ里から救出した老人たちは、今のところ寺院の集会所で寝泊まりしている。
その中でも、初老の爺さんはまともな方だったので僕の相談相手になっているのだ。
「いい加減ジジイばっかなんだから、爺さん呼びは止めんかタスク?」
「確かに、分かりにくいですよね。てか、名前を教えてくれないのが悪いんじゃないですか!」
「いやさ、この歳になってキラキラネームは恥ずかしいんじゃよ~」
「爺さんキラキラネームなんですか?」
「ポムタ……」
「え?」
「島田歩夢汰(たなかぽむた)だよ」
「プッ……!」
「コラッ! お前! 笑うんじゃない!」
「はは、すいません。でも、苗字の島田さんで呼べば良いんじゃないですか?」
「うちの村は島田ばかりじゃったからのう~。その発想は無かったわ!」
島田さんは瀬戸内の離島出身で、中学を出てからずっと祖父の農業を手伝いしていたみたいで、島の外に出たことが修学旅行くらいという最近ではたいへん珍しい人だった。
つうか、見た目からは想像つかないが中学生の時からMMO廃人だったらしい。
その所為なのか、一応は通信制の高校に入りながら農業をしていたらしいが、勉強はすぐに有耶無耶になってしまったみたいだ。
「話し戻しますが田中さん。とりあえずゴムは欲しいんですよ。圧力容器を作るためにはシーリング用のゴムが不可欠です」
「東南アジアは遠いぞ。気球で行くのは無理じゃろ? となると、大型船を作らにゃならん。石油にしたって、昔みたいに新潟で採れるとは限らんし、中東まで遠征しなくちゃならんかもしれん」
「となると、海辺に造船所を作らないといけないのか……」
僕らが、この先の計画に頭を悩ませていると、おっちゃんが近づいてきた。
「んなことよりさぁ~。いつまで床で寝泊まりしなきゃなんないの?」
「男のみんなは暇なんだから、自分たちで家作れば良いじゃないですか?」
「えー! 年寄りばっかなんだぜ。ちっとは労われよ~」
「おっちゃん一番若いんだから、頑張ってくださいよ!」
本来ならクマに手伝わせて、さっさと老人ホームを完成させているところだが、頼みに行っても、クマは首を縦に振らなかった。
何でかと言うと、僕とユキの関係に嫉妬しているのだ。
今のところ、ユキは寺院にある僕の部屋で一緒に暮らしている。
妹のハルはニウブと一緒だ。
村に帰ってきた時、寺院にはミュクス、グレタ、セシルそれぞれの部屋が増築されていたが、どの部屋も6畳くらいの簡素なものだったので、二人住むには狭かった。
コハンの村に不慣れな二人を傍に置いておきたかったのもあって、今の暮らしに落ち着いた。
本当なら、姉妹の家もすぐ作りたいところだが、クマは手伝ってくれないし、僕も忙しくて手が出せないでいた。
それに、身重のユキが心配で傍に置いておきたいというのもあるけど。
そういう訳で、ユキの事ばかり気にかけている僕をクマは気に喰わないのだ。
夕食時、山に捨てられる前はニウブと二人っきりだった食卓が、今では7人の大所帯だ。
超絶可愛い女の子に囲まれて、昔の僕だったら目のやり場に困って挙動不審になっていただろうけど、もう童貞だった頃の僕ではない。
「ユキ、それ美味しい?」
「どうだろう? アーンして!」
「はい、アーン。パクッ! ユキが食べさてくれるものは全部おいしい」
「もう、それじゃ何でも良いみたいじゃない」
「ぐふふ……」
二人の世界に入っている僕らに周りの美少女など眼中にないのだ。
そんな僕らに、グレタが注意してくる。
「ちょっと、そこのバカップル! 修道女たちの食卓なんですから、少しは慎みなさい」
「えー、関係ないだろ。大体が、お前らの方が居候じゃないか!」
「何を言うのですか。純潔の誓いを立てた我々は、寺院に住むのが掟です! そちらの姉妹が住んでいるのがおかしいのです」
そんな委員長キャラのグレタを、ほわほわしたセシルが諭す発言をしてくる。
「グレタは堅いよー。良いじゃん、面白いしー。村で初めての妊婦なんだし大切にしなきゃ」
「私も安定期に入るまでは我慢しないでもないですが……」
「それに、いろいろな生態が判って面白いよ。この前なんか聞き耳たてたら、妊娠してエッチ出来ないから、お口でチュパチュパ……」
「コラッ、夫婦の夜の営みを盗み聞きすんな!」
それを聞いたニウブが、いきなり立ち上がって、僕の襟首を掴んで来た。
「はわわぁ、何ですって! タスクさん! 大切な子種を無駄にして! そんなことするなら、早くカルミアさんと子作りしてください!」
「でも、ユキたちの家が……」
「クマちゃんが手伝ってくれないのなら、私たち修道女が寺院に作ります! それで、文句ないですねタスクさん?」
「は、はい……」
ニウブの狂気に満ちた目で迫られて、僕は同意の返事をしてしまった。
あまり気が進まないが、仕方ないだろう。
確かに、以前だったら絶対に拒否していたけど、今の僕は子作りをそれほど重く考えてはいない。
何故なら、童貞を捨てたのみならず、冬の間にユキと毎日子作りしていたことで、性交が日常の一部になっていたのもあるだろう。
ユキとも話しあって、他の人との関係を持っても構わないと言ってくれていた。
僕の元の世界では考えにくいが、この世界では常識として受け入れてくれるのが普通みたいだ。
そしてなんと、当初はカルミアだけだった子作りの相手が月日を追うごとにどんどん増えていった。
例えばカイリの村では、僕が山に捨てられた噂が流れると、村の奴隷のノエルがコハンの村に若い女性を取られないと安心したのか、本当はアイツは良い奴だったと以前自らが流した流言を否定した。
それが、僕が帰還したことにより、当初予定されていた移住者が30人大挙してやってきたのだ。
その他にも、交易相手の村々からも少しずつ噂を聞いた女性たちが村に移住してきた。
結局、夏までの3か月間、カルミアの妊娠が判って以降は、毎日違う50人の相手と子作りをし続けるという、まさに重労働を課せられたのだった。
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