20.怠惰

 開拓開始から2か月が過ぎ、コハンの村も50人近くの大所帯になっていた。

 湖沿いの住宅地には、はぐれ人たちの家が新たに3軒建てられていた。

 しかも、初めての鉄筋工クリート造3階建てで、3軒がコノ字型に並べられることで出来た中庭には、プールが併設されていて、さながらオシャレなプチリゾートみたな造りになっている。

 牢獄みただった僕の部屋も、フローリングの床を敷いたり、木のパーテーションを作ったりしたおかげで、大分見栄えもよくなった。

 そして、人が増えたことで暇になったクマちゃん。

 本来なら、僕との子作りに勤しむはずなのだが、超がつくほどの恥ずかしがりやなのでカルミアも最初から候補に入れていなかった。

 そんなクマは、一人暮らしの方が性に合ってるらしく、新たに自分の家の建築を開始していた。

 しかも、湖に突き出た50メートル程桟橋の先に……。

 一応水中建築の方法を僕がニウブの魔法で引き出して、手伝っている。

 このために、とんでもない量の鋼管を湖底にぶっ指して型枠みたいに使い、コンクリートを流し込んでいった。

 徐々にコンクリート製の柱を増やしていく手順で行うので、完成はまだまだ先の事になりそうだ。

 川の上流にある高炉脇に作っている水車も、クマの鋼管や鉄筋に材料を取られて建設に手間取っていた。

 これが出来れば、カルミアとシギも手が空くはずなのだが、完成は夏ごろになりそう。

 ということで、最近の僕は童貞卒業のことはあまり考えず、ひたすら怠惰な生活を送っていた。


「起きて下さいタスクさん」

「まだ眠い」

「もうお昼ですよ! 起きて下さい」

「うーん、手引っ張って起こして」

「しょうがないなぁ。うんしょっと!」


 ニウブが僕の手を取り、引っ張って上体を起こさせる。


「ボタン」

「はいはい」


 ニウブが僕のパジャマのボタンを外していく。

 僕は、パジャマを脱ぐ。


「はい、バンザイしてくださいタスクさん」

「バンザーイ」


 ニウブが僕の腕に服の袖を通していく。

 そして、ボタンを着けていく。


「お口あーんして」

「あーん」


 ニウブが僕の口に歯ブラシを突っ込み磨いていく。

 ニウブが洗面器を持ち上げ、そこに僕は吐き出す。

 最後に口周りをタオルで拭ってくれる。


「お前、恥ずかしくないのか?」


 部屋の入り口付近の壁に寄りかかっていたキキョウが言ってきた。


「タスクに言っても無駄だキキョウ。ニウブのお世話好きの方が問題なんだ」


 キキョウの隣に立っていたエルが呟いた。

 二人ともまっ白な真新しい服を着ている。

 電気分解槽で出来た塩素を使い、まっ白に漂白された生地の服は、最近の村の流行なのだ。


「何しに来たんだよ?」

「タスクお前さ、最近何にも発明してないだろ? ダラダラしてないで、何か新しいもの考えたらどうだ?」

「無理無理! これ以上文明レベル上げるには材料が無いと無理なんだよ」

「だったら、探せば良いだろう? 気球も3機も有るんだ! 色々探しに行けるだろ?」

「そんな簡単に見つからないよ。この辺の山を散々探したけど、黄銅鉱くらいしか使えるもの見つけられなかったろう? 鉛や亜鉛とか電気文明に役立つモノを探すなんて何年かかるんだか」

「キキョウさん、少しタスクさんを休ませてあげてください。クマちゃんに子作り拒否されて落ち込んでるんです」

「こら! それ言っちゃダメ。ニウブ!」


 クマちゃんの湖に造る家のために色々尽くしたのに、あっさり拒否されるなんて!

 落ち込まない方がおかしいだろうが!

 そう思っていても、人から言われるのは恥ずかしい。


「なるほどねー、シギも無理だろうし。残るはカルミアか」

「なんでシギが無理なんだ? エル」

「それはだね……」


 キキョウに質問されたエルが耳打ちをする。


「マジか!」


 キキョウは、驚愕の表情でエルを見た。


「なんですか? なんですか? 私も気になりますぅ!」


 ニウブが、コソコソ話をしている二人の方へ駆け寄る。


「ニウブにはまだ早いよ」

「そうだな、お子様には刺激が強すぎるな」

「えー! なんで、なんで!」


 3人はそのまま部屋から出て行った。

 そのまま、しばらく待ってもニウブが帰ってこない。

 仕方が無いので、布団から出て食堂へ。


「おーい、ニウブどこー?」


 寺院の中をくまなく探すも、姿が見当たらない。


「クソッ。あいつら拉致していきやがったな」


 エルたちの僕を外に出そうという策略にそのまま乗っかるのは気に喰わないけど、ニウブが居ないのは困る。

 ニウブが居なかったら、誰が添い寝をしながら僕の頭をナデナデして寝かしつけてくれるんだ?

 僕は、久しぶりに寺院から出て、コハンの家を目指す。

 

「はぁ、日差しがキビシイ」


 雨の多い季節の束の間の晴れは、焼けるような直射日光を降り注いでくる。

 キラキラ光る湖の先では、鋼管を打ち込んでいるクマの姿が彼方に見えた。

 岸の方へ眼をやると、住宅地の奥に広がる畑が見える。

 湖畔の家にたどり着いて、玄関を開けるが誰もいない。

 1階2階とくまなく探した後、そのままキッチンを通り裏口からガラス炉に出たが、そこにも居なかった。


「めんどくせ~」


 寺院に引き返そうかと思ったが、ここまできたんだからと隣の新しい方の家に歩いていく。

 途中で、はぐれ人の新居の方から黄色い歓声が聞こえてくることに気づく。

 

「これは……」


 僕は、はぐれ人たちの家へ向かって駆け出す。

 そして、たどり着いた中庭の光景に打ち震えた。


「ここは天国か?」


 目の前に広がる景色、そこでは、スク水姿の女子学生たちが、プールで水遊びをしていたのだ。

 その中には、キキョウとエル、そしてニウブまでもが同じ格好をしている。

 普段から薄着のキキョウとエルはまだしも、長袖のスモッグ姿が板についてるニウブのまっ白な素肌が眩しい。

 僕は吸い寄せられるように、プールの際まで近づいていく。


「きゃっ、水を掛けないでくださいキキョウさん!」

「何言ってんだ! 水を怖がってたら泳げるようにならねぇぞ!」


 プールの中ではニウブがキキョウに水をバシャバシャ掛けられている。

 たまらずニウブはエルの背中に隠れた。


「あ、やったなキキョウ! おかえしだー!」

「わっ! 手加減しろよ! エル!」


 キキョウとエルの掛け合いになり、的を外れたニウブは、僕の姿を発見すると、パっと目を見開いてからこっちにやってきた。


「来たんですねタスクさん。一緒に泳ぎませんか?」

「え? う、うん。でも、水着ないし」

「水着なんて要らないじゃないですか。タスクさんにエッチな気分にさせないために水着を着てるんですから、タスクさんが裸で泳げば良いでしょう? さあさあ早く!」


 そう言うと、ニウブはプールから上がり、僕の服のボタンを無理やり外しにかかる。

 いつもと違う、水にぬれてピッタリと身体のラインが出たスク水姿のニウブを見て、最近はそういう目で見て無かったのに、久々に下半身を固くしてしまった。


「あ、わぁ、あわ!」


 咄嗟に、僕はしゃがみ込んで勃起を隠そうとするも、体勢を崩して後ろに倒れ込んでしまう。


「大丈夫ですか?」


 上から覗き込むように、ニウブが心配してくる。

 しかし、その体勢は逆に、僕にとって、下から見上げる形ということだ。

 太陽を背に立つ、彼女の姿を舐めまわすように見上げる。

 膝小僧の上には想像していたよりふくよかな太ももが水にぬれてピチピチしていた。

 脚の付け根に開いた三角形の上にある、ぷっくりした部分からこぼれ落ちる水滴。

 あまりの神々しさに見てるだけでイキそうだ。


「おい、何処見てんだ? 変態」

「イタタタタタッ!!」


 キキョウが、いつの間にかプールから出てきて、僕の耳を引っ張り立ち上がらせる。

 そして、二人がかりで脱がされる。


「パンツは脱がすな。ブラブラすると泳ぎにくいからな。後で着替えもってくれば良いだろ?」

「そうですね! キキョウさん、やっぱり経験者は男性の身体の事、良く分かってますね!」


 いや、たぶんそれは、こいつがおチンポ恐怖症だから脱がせたくないんだろ。

 まぁ、パンイチならまだ恥ずかしさも少ない。

 遠慮なく、プールに入らせてもらうぞ。


 僕は、プールに飛び込んだ!


 ―ピ――!!!


「なんだ?」


 僕が飛び込んだ後、すぐに笛が鳴り響いたかと思うと、可憐な女学生たちは一斉にプールから出て行った。

 キキョウたちもタオルに包まっている。


『交代時間です!』


 学生らとニウたちが建物な中に引っ込んだかと思うと、今度は、マッチョなはぐれ人たちがわらわらと出てきてプールに飛び込んで来た。

 そして、馴染みのマッチョ姉さんが肩に腕を廻してくる。


「タスク! エルたちに頼まれた! 今日は徹底的にしごいてやんぞ!」

「クソッ! 図られた!!」  


 イワに捕まった僕は、マッチョなはぐれ人で満載のプールの中、彼女らのハードトレーニングに強制的に付き合わされる羽目になったのだった。

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