第三章 季節はめぐる
16.事の次第
湖畔の家に行くと、いつもより大勢の人がいた。
カルミア達が、カイリの村からの移住者を連れてきたのだ。
しかし、大広間に居る移住者たちを見て、僕は違和感を覚える。
「あの…、新しいひとたち。なんか、小さいというか。すごく若く見えない?」
「そうですね~タスクさん。どう見ても十代前半に見えます」
「つうか、二十前後の移住希望者が来てねぇじゃん! どうなってだカルミア?」
キキョウの言葉に、カルミアが答える。
「実は、適齢期の子たちには断られちゃって」
「なんだって! いったいどうしたんだよ?」
一緒に行ったシギが、カルミアをかばう発言をしてくる。
「カルミアも頑張ったんだよ~。でも、なんか~、ヒヒジジイがタスクの悪い噂流したみたいでさ~」
「ぼ、ぼくの悪い噂?!」
……ヒヒジジイって、ノエルのことだよな。
なんで、ノエルが僕の悪い噂を流すんだ?!
カルミアは、困惑する僕に事の次第を話し始める。
「どうもノエルさんが、唾を点けといた若い子を取られるのが嫌で、噂をながしたみたいなのよ。そしたら、目当ての子以外も信じちゃって、17から26までの当初の移住希望者30人は来ないことに」
「あ、あの悪い噂って……」
「とても醜悪な顔をしていて、いつもよだれを垂らしてるだとか、ぶよぶよした豚みたいな身体だとか、アソコが小さくて見つからないくらいだとか……」
「何なんですか! まったく根も葉もないウワサじゃないか!」
「そうねぇ。でも、見たことない男の人より、胡散臭くても知ってる男の話を信じちゃったみたいなの」
「クソッ! カイリの村では良い人だと思ってたのに……」
知らないところで根も葉もない悪評を流されるなんて、思ってもみない出来事に、僕はやり場のない怒りを覚えた。
しかし、ここでチョット疑問が湧いて来た。
なんで、悪評を聞いてるはずの中学生くらいの子たちはここに来たのだろう?
などと考えていると、僕の足元でもぞもぞ動く何かを感じた。
下を向くと、しゃがみ込んだ幼い女の子が僕のスカートをつまんで中を覗き込もうとしていた。
「な、何をしてるんですか!」
僕は、とっさにスカートを押さえて一歩下がる。
どこか見覚えのある顔が目を細めてニコニコしていた。
「モモじゃねぇか! おまえ来たのか?」
「あ! キキョウだ! 久しぶり!」
「思い出した!」
キキョウにモモと呼ばれた幼女。
カイリの村での最初の朝に、牢屋に入れられた僕のジュニアを見せろだとか言ってきた子だ。
「カルミアさん! なんでこんな幼女まで居るんですか?」
「ああ、モモはこう見えて10才よ。それに、この子のおかげで10人の移住者を確保できた功労者なの」
「え? どういう事ですか?」
「きっかけは、モモがうちの開拓村に絶対移住するって学校で話したのが始まりね。そうでしょ、モモ?」
「うん、そうだよー。そしたら、ヒヒジジイがあっちの奴隷は豚怪獣だって言ってたよって、みんな言うからさ。スイレンの写し絵の魔法で見せてやったんだ」
「スイレンの写し絵の魔法?」
「タスクくん。スイレンという子はどうやらモモと一緒に、牢屋に居たあなたを冷やかしに行った一人みたいなの。彼女の写し絵の魔法は、自分が見たものを他人に見せることが出来る能力。だから、本当のタスクくんを知った学生の彼女たちはこっちに来たというわけ」
今の話によれば、ノエルより僕を選んでここに来たということだ。
見た目に自信はないけど、ヒヒジジイのノエルよりは絶対僕の方が良いに決まってると言いたい。
でも、学生ということは、15歳以下ということだよな。
「カルミアさん! 他人に僕を見せることが出来たなら、大人にだって見せれば説得できたのでは?」
「そうも行かないのよ。この子たちが写し絵の魔法で見たのは、スイレンが見た当日。7歳の彼女がいつもまでもあなたの顔を覚えていられないわ」
「それで、中学生の子ばかりなのか」
この世界では、一応12歳くらいから独り立ち出来る。
使える魔法がその頃に確定することも大きな一因だろう。
なので、魔法の力は一人前だ。
だから、モモ以外の新参者は12から14歳で構成されている。
しかし、魔力が一人前だからと言って、使い方などはまだまだ習熟度を上げる余地がある。
そんなことも有ってか、寺院の学校では5歳から15歳までは一緒に学ぶのだという。
そして、10歳のモモ。
彼女は、一人前の年齢ではない。
なのに、何故ここに来れたのか?
それは、彼女がみなしごだからだ。
いくつかの家庭が一緒に住んでいるこの世界でも、やはり肩身が狭かったのだろう。
元の住んでいた家も厄介払いが出来るので喜んだのかもしれない。
ちょっと同情するが、性格に難がありそうというか、僕の事をバカにしてきそうなので注意が必要だ。
「彼女たちの魔法の力は一人前だけど、やっぱりすぐに一人で仕事を任せるわけにはいかないわ。なので、当分は私が監督者として見守らないといけないでしょうね」
「ということは、カルミアさんはまた忙しくなるということですよね?」
「ええそうね。だから、タスクくんと子作りはしばらくお預けね」
……ガーン!!
ようやく、心を整えてヤル気を出したのに……。
またしばらくは、童貞卒業はお預けなのか。
喜び勇んで、湖畔の家に来た僕はトボトボと寺院に帰って行った。
翌日からは、新住民の住宅建設が優先され、高炉建設などは中断されることに。
新たに建てるのは1軒だけで、今いる大人からシギとクマとキキョウが保護者として移り住むみたいだ。
そして、古い家と新しい家に分散して新しい女の子たちは移り住むらしい。
朝から建設が始まったが、この前と違って防音のしっかりした家に住んでいたので、部屋の外に出るまで気付かなかった。
500メートル程離れた寺院からでも、建築の様子は良く見える。
相変わらず、クマが頑張ってるみたいだが、この前とチョット違うようだ。
どうやら一階はコンクリートで作ってるようで、この前みたいに石が重ねられている様子はない。
タンポポコーヒーを飲みながら、湖沿いのデッキに出て、のんびりと工事の様子を眺めていると、キキョウが新住人を引率して寺院にやって来た。
「おっす! おはようタスク」
「おはよう、キキョウ。こう見ると、お前も大人なんだな」
背の高さでは、150位しかないキキョウを超えている子もチラホラいるが、何だろう?
身体の厚み? お尻の大きさ? やっぱり中学生とは違うんだなと感心した。
彼女らは、湖面の反対側にある入口から寺院の礼拝堂兼集会所へ入って行った。
気になった僕も、デッキから部屋の中へ入り追いかける。
ちょうどニウブも集会所に出てきていたので、彼女の横に並んで一緒に出迎えた。
「初めまして! コハンの村の司祭を務めさせていただいてます。ニウブです。みなさんの教師役も務めさせていただきますよろしくお願いします」
「ガラクタスクです。タスクと呼んでください! どうぞよろしく」
「お前、ちゃんと性奴隷だって言えよ」
――クスクスクス。
キキョウのツッコミにJCたちが笑い合ってる。
『かわいいね』
『そうだね』
元の世界では、かわいい言われるのは慣れていたけど、女子中学生位の子に言われる経験は無かった。
恥ずかしそうに、チラチラこちらを伺いながらかわいい言われるのは照れくさい。
……しかし、なんかすっごいモテ期到来って感じがする!
「なに照れてんだ? タスク」
「そりゃ、ねぇ~」
『かわいい! ニウブ先生』
「え? え? なんか照れちゃいます」
――キャッキャッ……。
『ホント、コハンの村来てよかった。ウメババア最悪だったし!』
『ねー。かわいくて優しそうな先生が絶対良いよ』
「こら、お前らちゃんとニウブの言うこと聞くんだぞ! ウメババアみたいに厳しくないからって舐めてると俺やカルミアがお仕置きするからな!」
「え?」
「こいつら、
『そこどいて!』
ニウブに集まってきた女の子の一人がぶつかってきて、僕は弾き飛ばされた。
女の子たちは、ニウブを取り囲みキャッキャ言っている。
床にへたり込んだ僕は、羨望の眼差しでニウブを見上げるしかなかった……。
数分後、女の子たちは、キキョウに連れられて出て行った。
まだ周らなければならない場所がいっぱい村にはあるのだ。
落ち着きを取り戻した寺院で、僕は呟く。
「授業があるときは五月蠅くなりそうだな~」
「授業中は大丈夫ですよ。休み時間は騒がしいでしょうけど」
「同じことじゃん!」
「でも、コハンの村が賑やかになった方が良いと思います! 今まで寂しすぎましたもん!」
「そうかなぁ~。僕は落ち着いていてる方が好きだけど。それより、さっきからコハンの村って言ってるけど……」
「あれ、言ってませんでしたっけ? 開拓村の名前がコハンの村に決まったこと」
「聞いてないよ! いつ決まったの?」
「湖畔の家が出来た翌日の朝です。ちょうどみんな休みだったので朝食を食べながら決めました」
「何で僕を呼んでくれなかったんだよ」
「だって、タスクさん朝から鉄を作りに川まで行ってたじゃないですか」
「ああ、そうだった」
そして、5日後。
新しい家も完成して、新人歓迎会を寺院の集会場で行うことになった。
そこで僕は、油断していたところを不意打ちされる形、まさに青天の霹靂という言葉を身をもって体験することになる……。
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