17.初夜
集会所での歓迎会に集まった18人の村人たち。
ビュッフェ形式で並べられた、豪華な食事。
いつもならニウブと一緒に食べるのだが、彼女は学生たちに囲まれてる。
僕は久々に、賑やかな場所でのボッチ気分を味わう。
部屋の隅っこで壁に寄りかかり、ビュッフェからとってきた食べ物をつまんでいると、キキョウとエルが近づいてきた。
「よう! なにたそがれてんだ?」
「キキョウ、タスクはニウブを取られて寂しいんだよ」
「な、なにを言い出すんだよエル! 僕はただ騒がしいのが苦手だから……」
図星をエルに突かれて、僕はアタフタしてしまう。
でも、こうやって冷やかしでも傍に誰か来てくれてホッとしたのも確かだ。
「ところで、新人の狩りの腕はどうなんだい?」
「みんないい子たちだよ。なぁ? キキョウ」
「雷撃専門の奴は居ねえけど、飛行とのミックスや火炎とのミックスの奴らと、飛行と冷却のミックスなんかが居るんだが。元々カイリの村でもやって来たやつらだから、場所さえ覚えりゃ問題なくやってけそうだよ」
「じゃあ、キキョウはお役御免で暇になるな」
「んなことあるか! 飛べる奴も増えたから、俺は海まで魚を取りに行くさ!」
「ああ、最近は川魚か干物ばっかだったもんなぁ。久々にお刺身やカルパッチョ食べたいわ」
そんな感じでふたりと話していると、カルミアが食器を叩いて注目するよう合図を送る。
みんなの注目がカルミアに集まり、静かになったところで彼女は話し出した。
「新しい家も完成して、新しく来た人たちも生活に慣れてきました。これからどういった生活になるのか、私はここ数日色々考えてました」
カルミアは息を溜めて、周囲を見回す。
それから、こちらの方に視線を向けた。
「キキョウ。最近はエルや新しい子たちもいるし、毎日狩りに忙しいわけじゃないわね?」
「え? まぁ、そうだけど」
「タスクくん。私とシギはあの子たちの監督をしなくちゃならないから当分あなたの相手は出来ないとは話したわよね?」
「え? 何のことですか?」
「子作りの事よ」
「ああ、そうでしたね」
「それで、新しく来た女の子たちが、一人前になるには時間がかかると分かったの。それならいたずらに時間を消費するより、手の空いてるキキョウに権利を譲る方が良いと考えたのよ」
いったい何の話をされてるんだ? キキョウに譲る権利って……。
カルミアが何を言いたいのか測りかねていると、彼女がみんなの方へ向き直り衝撃の発言をする。
「キキョウとタスクくんに子作りしてもらいます!」
「「「「「「ええええぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」
カルミアの言葉に、開いた口が塞がらないとはこういうことかと実感した湖畔の村の住人。
「あ、あ、あ、あの……」
僕が震えて言葉が口から出てこない。
「何? タスクくん」
「心の準備が……」
「何を言ってるのタスクくん! もうこの世界に来てどれくらい経っていると思ってるの?」
「それは、そうなんですけど……。まだずっと先だって……カルミアさんが」
「それは、私が相手ならね。でも、キキョウなら手が空いてる。タスクくん、キキョウが相手だと嫌なの?」
カルミアは僕の前に来て、前かがみになり眉をひそめて聞いてくる。
「そんなことは……」
最初はツンツンしてて口も悪い女の子だなとか思ってたけど、最近は一緒に行動することも多くて、実は真っすぐな性格の頑張り屋さんで、見た目も金髪ロリで、薄着で無防備な太ももとか、胸ちらを思い出して夜のオカズに……。
妄想しているうちに、アレ? 良いんじゃないかと僕は思い始める。
「キキョウはどうなの? もちろん! 一番乗りなんて名誉なことよね」
「あ、あ、あ、あったり……まえだよ! い、いつかは……子作りしなくちゃならねんだし。そのために開拓団に来たんだからな!! 今夜からでもバンバンできるぜ!」
キキョウは明らかに強がっているのがバレバレな態度で答えた。
他のメンバーはクマですら視線をそらしてモジモジしている。
そんな中、ニウブが嬉しそうに近づいて来て、
「良かったですねタスクさん! キキョウさんといっぱい子作り頑張ってくださいね」
と祝福の言葉を掛けてきた。
「あ、ああ……ありがと…う」
彼女の屈託のない笑顔に、僕は魂が抜けたような気分にさせられた。
心から祝福してきている分、質が悪いよと僕は思う。
「さ、さぁパーティーも終わりね。さっさと片付けて自分の部屋に引っ越しましょう」
アレクサの言葉とともに、皆が動き出す。
「さっさと、引っ越し~!」
「クマちゃん、持ってくもの無いねん」
「あんた、建設初日に荷物移してたでしょ?」
「あーそうやったわー」
アレクサとクマが食器を持ってそそくさと集会所からキッチンへ出て行く。
「二人とも頑張ってね」
カルミアは、そう言って微笑んでくる。
「あ、あの。カルミアさん! いつから子作りを……」
「今日からでも始めなさい」
「あわわわ……」
カルミアの言葉に僕が絶句していると、キキョウが、俯きながら呟く。
「片付けや引っ越しがあるから、今夜は無理……」
「じゃあ、明日の夜にタスクくんの部屋を訪れなさいキキョウ」
「あ、ああ……。分ったよカルミア」
「それじゃあ、ふたりとも頑張ってね」
そう言い残すと、カルミアは去って行った。
「明日の夜……、行くから」
「う、うん」
僕とキキョウはお互いに目を合わせることなく言葉を交わす。
その後、僕はパーティーの後片付けに集中することで気分を紛らわした。
片付けも終わり、みんなが帰った後。
「タスクさん、お話があるので部屋に……」
ニウブに促されて、僕は一緒に自分の部屋へ行く。
そして、座るよう促され、僕とニウブはベッドに並んで座る。
「なに? ニウブ」
僕の横にチョコんと座り、顔を向けて話し始めるニウブ。
「この度は、初夜を迎えるにあたっていくつかのアドバイスをしたいと思います」
「な、な、なんですと?」
「一応、マジカ教教則第70項召喚されし者の義務。通称性奴隷はじめてガイドパート2に
「確かに初めてだけど……」
「はい、なので童貞のタスクさんに子作りのヤリ方をレクチャー……」
ニウブの言葉に驚いてベッドから転げ落ちた。
僕は、すぐに立って咄嗟に言い返す。
「ど、ど、童貞じゃねぇし!!」
「え? そうなんですか!! びっくり!!」
「なんで、そんなに驚く! (いや、ほんとはゴリゴリの童貞だけど)」
「タスクさんって、学校で習った童貞の特徴まんまだったので、つい……」
なんかショックなんですけど! こいつは、俺の事どんな目で見ていたんだ?!
僕は、突然の精神攻撃をお見舞いされて頭がクラクラしてきた。
「ともかく! アレについては大丈夫だから! 知識も豊富だし!」
経験が豊富と言わないところが、僕なりの無意識の童貞性の現れかもしれない。
エロ動画やエロ漫画やエロ同人! オナニーマスターの僕の知識量は半端ないぜ! だからと言って、そのとおり激しくしちゃいけないのも知ってるぜ! でも実際の現場では緊張してしまうんだろうし、思った通りに行かなかったらどうしたら……。
「良かった。手取り足取り子作りのヤリ方を教えなきゃいけないの心配だったんですぅ~」
「それは、ぜひ教えろください!!」
とは、チキンな僕は言えなかった。
その後、心の中で号泣したのは言うまでもない。
「はぁ、緊張するなぁ~。でも、あの様子だと、僕がリードしてあげなきゃ」
ニウブが帰った後、部屋にある湯船につかりながら、僕は考えていた。
……ニウブは、望んでるんだよな。
僕は複雑な気持ちになりながらも、ニウブのためにもちゃんとしようと決意を新たにする。
案の定、緊張と妄想でなかなか眠りに付けなかった僕は、次の日は何もヤル気が起きず、食事時以外は一日中ベッドの中でゴロゴロして過ごした。
ニウブとふたり夕食を食べ、食器を一緒に片付けた後、重い足取りで部屋へと戻る。
なぜか、その後ろをニウブが付いてきて、一緒に部屋の中まで入ってきた。
「な、な、何?」
「タスクさん緊張してるようなので、一緒に居てあげようかと! 落ち着けるように頭をナデナデしてあげましょうか?」
「い、いいです! ひとりにして!」
「では、上手くいくように、扉の前でお祈りしてますね!」
「絶対ダメ! ニウブは自分の部屋に戻って!」
「そうですか。では、自分の部屋で上手くいくようにお祈りしてます」
そう言い残すと、ニウブは去って行った。
「はぁ、たまに分からなくなるよニウブの事……」
僕は溜息と共に言葉を吐く。
そして、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸した。
もう一回、さらにもう一回、ついでにもう一回……。
「ゼーハー、ゼーハー…。ゲホっゲホっげほ……。やべ! 過呼吸になっちゃう」
――トントン。
僕が咳き込んでいると、部屋のドアがノックされた。
またニウブか? と思って、僕は声を掛ける。
「どうぞ、何か忘れ物?」
しかし、扉を開けて入ってきたのは、キキョウだった。
ポニーテールは解かれ、胸の辺りまで髪がかかっている。
いつもと違い、着物のようなローブのようなゆったりとした絹の服を羽織り、細い帯一本が腰のあたりで簡単に縛られている。
緊張の面持ちでずかずかと部屋の中に入ってくると、突っ立っていた僕の腕をとり、ベッドへと連れて行かれる。
キキョウはベッドに登り、壁の方へと進んでいく。
僕も後についてベッドの上へ。
すると、彼女はいきなり帯を解き、羽織りが下に落ちる。
薄明りの下、ベッドに腰掛けた一糸纏わぬキキョウの背中が見えた。
その背中に、いつもは束ねられている美しい金髪が腰の辺りまで波打っている。
その美しい背中に吸い寄せられるかのように、僕はベッドの端までゆっくり近づいていく。
……なんて小さな背中なんだろう。
揺れるランプの光に照らされた優美な曲線に波打つ影のグラデーション。
幻想の世界に現れた妖精を見ているような、そんな気分で僕は立ち尽くすほかなかった。
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