15.高炉建設と住民集め
小さな寺院の内覧会はすぐにおわり、住民は真ん中にある集会場に集まっていた。
カルミアが前に立ち、皆に注目するように手を叩いて合図を送る。
「はい注目! これで寺院も完成したことだし、新しい住民を迎え入れたいと思います」
「ついに、このときが来ましたねタスクさん!」
「え?」
「これで、寺院での子作りを始められるということですよ!」
「あー!!!」
ニウブの言葉に僕はおどろきの声をあげてしまった。
新しい住民がきたら、余裕のできる開拓団のメンバーと子作りする。
日々の作業におわれ、僕は大事なことをすっかり忘れていた。
しかも、僕の童貞卒業の相手はたぶん……。
僕の視線に気づいたカルミアが、遠くから微笑みかけてくる。
「あう、あうあ……」
僕は声にならない声を漏らし、全身がカチコチに固まってしまった。
夕食を湖畔の家で食べ、ニウブと二人、寺院への帰り道を歩いていく。
「タスクさん! タスクさん!」
ニウブに袖を引っ張られながら声を掛けられた。
「へ?」
「湖に落っこちちゃいますよ」
「うわぁぁ!」
僕はおどろいて飛び退く。
カルミアさんとの事を考えて、ずっと上の空だったのだ。
ニウブは、そんな僕の手をしっかり握り。
「行きますよ」
と言うと、僕を寺院まで引っ張って行ってくれた。
寺院に着くと、そのまま集会場の端っこにあるソファーまで僕を連れて行くニウブ。
「座って下さい」
僕が座ると、ニウブは隣に腰掛ける。
そして、僕の頭を持って無理やり横倒しに。
油断していた僕は、そのままニウブに膝枕されることに。
「動かないで!」
「は、はい」
有無を言わせぬ口調に、僕は起き上がるのを諦めた。
ニウブは、僕の頭を優しく撫でながら言葉を口にする。
「怖いんですね。カルミアさんとすることが?」
「怖いと言うか、こころの準備が出来てないと言うか……」
「私が傍にいますから、安心して大丈夫ですよ」
……それも、モヤモヤの一因なんだけどなぁ。
とは、さすがに今は言えない。
でも、こうされてると、不思議と安らかな気持ちになって行く。
僕は、膝枕されながらニウブを見上げる。
優しい微笑みを見つめながら、僕はニウブのためにも頑張ろうと堅く決意したのだった。
翌日。
カルミアはシギと一緒にカイリの村へ。
新住人と一緒に帰って来るということで、しばらくはあっちにいるらしい。
残った僕らは、高炉建設に取り掛かり始めた。
ただし、最初の3日ほどは、建築資材となるレンガ作りをしなくてはならなかったので、することが無くて暇な時間もかなりあった。
なのでエルに、前々から行きたかった洞窟探索に連れて行ってもらうことに。
僕らは、まだ行ったことのない湖の西側へ向かう。
最初に案内してもらった洞窟は、見晴らしのいい湖近くの崖にあった。
松明に火を点けて、中に入って行く。
しかし、僕の探している条件には適合しない。
「うーん、ダメだなぁ~」
「なんでよ? きれいだし、保存庫には持ってこいじゃない?」
一緒に着いて来たアレクサが、不思議そうな顔をして僕を見た。
「探しているのは、動物の
「糞なら、家畜のや肥溜めでも作れば良いじゃん!」
「時間を掛ければ、それも有りだけど。探しているのは硝石なんだ」
「硝石?」
「硫酸や硝酸を作ったり、爆発物を作ったりするのに必要なんだ」
「爆発? キキョウやカルミアの魔法で出来るんじゃないの?」
「うーん、もっと強力な爆発で硬い岩とかを崩したいんだ」
僕は、エルに声を掛ける。
「ねぇ、エル! 動物の糞か蝙蝠の糞がいっぱい落ちてるような洞窟ってないかな?」
「動物が住んでた洞窟なら、もっと山の上のほうかなぁ」
一人、奥の方に居たエルがこっちに振り返って答えた。
僕らは、別の洞窟めざして移動する。
崖を迂回して山を登って行くと、少し窪んだ谷底のようなところに新たな洞窟があった。
中に入ると、動物の糞が大量に堆積しているようだった。
「ちょっと、臭いがダメ! わたし外にいる」
「ぼくも、一緒にいるのは遠慮するよ」
ふたりは、鼻を押さえて洞窟の出口へ向かった。
残された僕は一人、新しく作った鉄製のシャベルを使って糞を掘り返していく。
底の方にあった土を背中の籠に満載して僕らは、寺院へと戻った。
寺院の外れに新たに作った掘っ立て小屋。
中には、ガラス瓶や色んな資材を集めて置いてある。
ここは、僕専用の
洞窟から持って帰ってきた土を水に溶かし、布を使って濾す。
それを、乾燥させると硝石の結晶が出来上がりだ。
硝石を硫黄と炭でまぜれば黒色火薬。
硫黄と硝石を混ぜて焼けば、硫酸が出来る。
出来た硫酸に硝石を混ぜると硝酸の完成だ。
「ふぅー、やっとニトログリセリンだ」
ここまで来るのに1週間かかってしまった。
僕が混酸とグリセリンの準備を進めていると。
キキョウが、研究室に勝手に入ってきた。
「よう! タスク!」
「なんだキキョウ? 見学しに来たのか!」
「そりゃ電撃みたいな発明なんだろ?。興味あるに決まってんじゃん! つうか、臭くないかこの部屋?」
「ああ、動物の糞が原料だからね」
キキョウは、鼻をつまんで嫌な顔をする。
慣れてきちゃったけど、硝石の元になる土は、何処か別の場所に保管する方が良いかもしれない。
とにかく、臭いの事は後回しにして作業を始める。
まずは、黄色くドロッとした硫酸と硝酸を混ぜて混酸にする。
「なんだか、おしっこみたいな色だな」
「二酸化窒素の影響だよ。じっさい匂いを嗅げばおしっことの違いがわかるさ」
「お前、たまにそういう子供っぽいところあるよな……」
「そうかな? これでも、まじめに取り組んでるつもりだけど」
「そういや、なんでこんなに必死になって新しい発明を作ってるんだ? ニウブは、もう追放されることなんてないだろ? 新しい住民も来るし」
「新しいモノや考えって、最初はバカにされたり受け入れられなかったりすることが多いのは事実だね。それに、今のままでも十分じゃない? って人も。でも僕は、常に新しい事に挑戦し続けるから人なんだと思うんだ。そのこころが無ければ、人は今でも木の上で猿みたいに生活してたんじゃないかな。だから僕は、人類の英知を再発明して、元の世界のその先の姿を見てみたい。それに、そのことでこの世界の謎、魔法や女しか生まれない理由が解明されるかもしれないじゃないか」
「そんなこと、お前が生きてるうちに出来るのか?」
「そこまで考えてなかった!」
いったい、僕の生きている間にどこまで文明は進歩させることが出来るのだろうか?
鉄とガラスは手に入ったし、探せば他のメジャーな金属もいずれ見つかるだろう。
硫酸も出来たし、蒸気機関をすっ飛ばして、発電機や電池でオール電化の開発環境くらいは作れるかな。
そして、もっと細かい工作機械や顕微鏡、モーター、電球……。
「タングステン見つけるのは難しそうだなぁ~」
「おい! 手が止まってんぞ」
「あ、ニトログリセリン作ってたんだ!」
キキョウの言葉で、僕は妄想の世界から戻ってくることが出来た。
次に透明なグリセリンと混ぜて行く。
「これはなんだ?」
「これは、石鹸の残りカス。グリセリンというものさ! お肌の保湿剤とかにも使えるんだ」
「俺はピチピチお肌だから要らないぜ! カルミアとかは欲しがるんじゃね?」
「カルミアさんに言いつけるぞ! さて、このグリセリンを混酸に垂らしていくと……」
「なんか、なんも変わってなくないか?」
「まだだよ、出来たものを水に少しづつ混ぜて…」
水の入った瓶の底にドロッとした液体が分離して溜まりだす。
上澄みの水を取り、底の液体をほんの少しだけスプーンですくう。
そして、石のテーブルにわずかに垂らした。
「よく見てな?」
僕はキキョウに言葉を掛けた後、はおもむろにハンマーを取り出し、垂らした液体に向けて振り下ろした。
――バン!
振り下ろしたハンマーの下から爆竹が破裂したような音がする。
「わ! すげぇ魔法みたいだ! でも、大したことねぇな」
「それは、少量だからだよ。この出来上がったニトログリセリンを粘土に混ぜて固めればダイナマイトの完成だ。出来上がってダイナマイトの爆発を見たら驚くと思うよ」
「ふふっ、せいぜい楽しみにしといてやるよ」
ダイナマイトの制作に取り掛かろうとしていると、ニウブが研究室に飛び込んで来た。
「カルミアさんたちが戻ってきましたよ!」
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