13.Oh!マウンテン

 その山の名前は、爺捨て山……。

 しかし、山というよりも大噴火で山頂が吹っ飛んだ山の残骸と言ったほうが良いかもしれない。

 トウゲン地域の中心付近にあり、その名の通り各地の村々から捨てられた生殖不能の老人たち住んでいる。

 それが僕が捨てられた場所。

 温情で、当座の食糧と多少の文明の利器を積んだ気球を置いて行ってくれたが。


「バーナーも無いのに、気球飛ばせるわけないじゃん!」


 そんなわけで、気球の籠の中ある物資を漁る。


「缶詰あるのに缶切りないって……」


 適当にそこらにあるものを詰めたのか、色々と問題あった。

 ともかく、気球に備え付けのナイフやナタ、のこぎりなどは使えそうである。

 食料も缶詰はひと月分くらいは有りそうだ。

 しかし、その他は毛布に多少のタオル。


「テントすらないじゃないか……」


 僕は寝床になるような場所を探しに、辺りを探索に出かけた。


「しかし、人っ子ひとり居ないな。爺だからもう死んでるのかな」


 疎らな枯れ木の荒野を歩いていくと、何やら硫黄臭がしてくる。

 臭いの方へ歩みを進めると、温泉が湧き出ていた。

 しかも、どうやら浸かっている人が見える。


「もしや混浴!……って、爺しかいないか」


 一人ボケツッコミをしながら、近づいていくと3人の老人ではなく、2人の老人と中年男性がいた。

 タスクは思い切って声を掛けてみる。


「あのーすいません」

「おおー! 新入りじゃぞ! 仙人!」

「ふふぉ?」

「あ! 俺より若いじゃん!」


 温泉からこちらを見ている3人。

 最初の一人は、中途半端に禿げ上がった頭に半分白髪交じりの長髪と長いヒゲの60代くらい。

 二人目は、頭頂部がつるピカで、河童のような完璧な白髪で仙人のような見た目の爺さん。

 三人目は、下腹だけ妙に膨らんだ栄養失調児のような小さなおっさん。

 

 一旦注意を向けたものの、3人は僕を見るために曲げた首を元の位置に戻し、何事もなかったかのように温泉に入り続ける。


「え?」


 僕は、突っ込もうかと思ったが、なんだかどうでもよくなり温泉をあとにしようとする。

 すると……。


「ちょちょちょちょ! ここは突っ込むところじゃん! もうこれだから最近の若い奴はー!」


 ……うわぁ、めんどくせぇ。

 僕は三人に声を掛けたことを後悔した。

 三人は急いで温泉を上がってくるとおせっかいを焼きたいのか聞いてもいないのに色々説明を始める。

 それによると、気力体力がある捨て人(山に捨てられた人をこう呼ぶらしい)は自力で下山して道を切り開くが、彼らのような無力無欲な人たちはここの残って、たまに空から降ってくる魔法使いたちの施しを頼りに生き延びているのだそうだ。


「ところで、あなた達だけなんですか?」

「ちがうちがう。あと十数人いるんじゃのー」

「ふがふが」

「色々散らばってるんだけどさ、結局はみんな益荒男(ますらお)に近寄りたくないからさー」

「なんですかそのマスラオって?」

「ありゃ~、ここらを、爺捨て山を牛耳ってるボスゴリラじゃ!」

「ゴリッゴリのゲイマッチョでさ。その所為で若いのに捨てられたんだ! つっても今じゃ40がらみだけど。施しを独占してっから全然衰えねぇでやんの」

「そんなのが居るんですか! それじゃ、僕も早く山降りた方が……」

「いやいや! 違うんじゃー! おぬしを……」

「ふががが!」

「生贄にして」


 僕は3人に取り囲まれる。


「「代わりに食い物恵んでもらうんだー!!!」」


 そう言うと、三人は一斉に飛び掛かってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る