13.材料探し

 湖畔の開拓地に着いてから7日が過ぎた。

 住まいの建築も、残すは2階の土壁のみ。

 大きな大工仕事が無くなったので、クマはカルミアと一緒に焼き窯や炭焼き窯などの制作に取り掛かっている。

 他のメンバーは、土壁を塗ったり、畑を作ったり、山に色々なものを集めに行ったりと様々な雑用に精をだしていた。

 午後になって、僕とニウブとキキョウは森に材料集めに繰り出すことになった。

 ニウブが心配そうにキキョウを見ている。


「大丈夫なのですかキキョウさん?」

「痛みも取れたし! 今日から完全復活だぜ」


 傷が癒えたキキョウは、今日からみんなの作業に参加すると意気込んでいた。


「何を取りに行くんだ? 食料は十分蓄えが出来たし」

「見つけてからのお楽しみです! って、あー! 有りましたよ!!」


 ニウブが何やら見つけたようだ。

 しかし、ニウブが拾いあげたものはタダのドングリ……。


「え? ドングリ? 原始人じゃあるまいしドングリを食べるのは……」


 僕は以前、サバイバル動画に影響されて食べたドングリがとても不味かったことを思い出していた。


「ドングリが目的じゃないですよ」


 ニウブはそう言うと、ドングリの落ちていた傍にある木の皮を剥ぎだす。


「布を黒く染めるのに使うんです!」

「食いもん以外の使えそうなの探すのが今回の目的だよ! そのしいの木の皮みたいにな」


 キキョウが、ニウブを手伝いながら答えた。

 さらに小川を北上しながら探索を続ける。


「お! たぶんそうかな? おい! ここ掘れタスク」

「僕は犬かよ!」


 文句を言いながらも、キキョウの指さした雑草を掘り返す。


「バカ! 根を切らないように掘るんだよ!」

「これ何に使うんだ?」


 僕は採取した雑草の根を見ながら質問した。


「これは茜ですね! 布を茜色に染めるのに使います。でも、もっと取らないと」

「つうことだから、籠いっぱいになるまで集めろ!」


 その他、朴葉や椋の葉などなど雑多に色々収集しながら川を遡上していく。


「そろそろお昼ご飯にしようよ」

「しょうがねぇなぁ。まぁ良いだろ、そろそろ引き返そうかと思ってたしな」


 渓流沿いでお弁当を食べながら談笑するぼくら、話はいつしかキキョウが開拓団に参加した理由に……。


「ほら! 俺ってさ、遠慮した物言いできないだろ? 喧嘩とまではいかないけどさ。なんか意見しても村の連中は笑ってごまかすだけ……。そこんとこ、カルミアは見た目と違ってズバズバ言うじゃん」

「たしかに、カルミアさんは見た目やわらかな雰囲気で優しそうだけど、ハッキリしてるもんなぁ~」


 僕は、ニウブの件で厳しかったカルミアの事を思い出していた。


「裏表が無いとまでは言わないけど、なんか俺らの分かんない深い考えをいつもしてるみたいだし。でもやっぱ、あの人の下でなら信頼してやっていける気がしたんだよ」

「ずいぶん信頼しているんですね! カルミアさんの事」

「まあな! だから、出来る事をやんなきゃな」


 カルミアの事を話すキキョウはいつもと違って、とても温和で柔らかな印象だと僕は感じた。

 そして、お弁当も食べ終わり、そろそろ帰り支度をする頃。

 

「あ! チョットだけ時間くれないか? 沢を確認しておきたいんだ」

 

 小川は、ちょうど休憩していた辺りから傾斜のキツい渓流地帯になっていた。

 鋼鉄づくりに欠かせないあるモノを採取するのに最適だと思ったのだ。

 そんな、僕の計画を察してニウブが話しかけて来る。


「あ、鉄穴流かんなながしですね!」 

「なんだよカンナナガシって?」


 キキョウが、聞いてきた。

 僕は、鉄穴流しがどういうものか説明する。


「急流を堰き止めて、崩した岩から砂鉄を集める方法だよ。もっと詳しく言えば、花崗岩を崩して比重の重い砂鉄を沈殿させ分離し、それを何回も繰り返すことで純度の高い砂鉄を収集するんだ。鉄を作るには砂鉄がないと始まらないからね!」

「なんかよくわからんが。おまえら、まだ鉄とかいうもん作るの諦めてなかったのか?!」

「最近は少し余裕が出てきたんで、ちょっとずつ小さな精錬窯作ったり、砂鉄を川で集めたり」

「よくやるよおまえら。それで、カルミアには認めてもらえんの?」

「空き時間に作業するのは認めてもらってるし、それに、前の失敗を反省して色々考えて。それに、カルミアさんは期待してるって」


 僕は、二人を残して渓流の脇から上に登って行った。 

 思ってた通り、上流の方は切り立った崖があり、花崗岩がいっぱい転がっていた。

「あとは、クマちゃんに手伝ってもらえれば……。それか、硝石のある洞窟を探してダイナマイトを作るか……」


 僕は、満足して渓流から戻り、二人と合流して帰路につく。


「どうでしたか?」

「上手くいきそうだよ。でもその前に、許可を得るには、精錬窯を完成させて鉄パイプを作らないと!」

「鉄パイプってなんだよ?」

「説明がややっこしいので、出来てからのお楽しみで!」

「えー? 教えろよ!」

「さっきだって鉄穴流し、なんだかわからんって言ってたじゃないか!」

「それはそれ、これはこれだ! だから、帰りながら教えろ!」

「しょうがないなぁ~。鉄パイプといっても、細いストローみたいな……」

「ストローって? もっと、分かりやすく……」


 僕とニウブは、ストローすら分からないキキョウに、基本的なことからレクチャーしながら湖畔への帰り道を急いだ。


 帰ってきたら、さっそく採ってきたものを倉庫にしまう。

 湖畔に建てている家はまだ完成していなかったが、一階奥にある石造りの倉庫は先に出来ていたのだ。


「もう、キッチンも出来ているし! 一階は使い始めて良いんじゃないの?」

「そうはいかねぇよ。ちゃんと全部建ててからじゃないと不公平だろ」

「そういうもんかねぇ~」


 この世界がそうなのかは分からないけど、少なくともこの開拓村では、変なところで平等意識が強いなぁと感じることは多い。

 洋服はサイズが違うので着れる人しか使わないが、誰かの所有物を貸し借りするというより、みんなの物をみんなで使う感じと言ったらいいだろうか?

 それに、食べ物も均等に取り分ける意識が強いし、お風呂に入る順番も最後に入る奴隷の僕以外はローテーションしている。


 ニウブが言うには、


「自分のモノって感じは無いですね。自分の魔法もみんなのために使うのが一番の役割ですし。性奴隷くらいですかね違うのは」

「え? なんで」

「やっぱり、数が足りないですし。妊娠出来る年齢やしやすい年齢も限りがあるから、平等にしてたら産める人と産めない人の差がもっと出ちゃいますからね。だから、妊娠しにくい人には多く機会をあげたりはしていますよ」


 ということだった。


 さて、帰り道を急いだのには理由がある。

 荷物をしまった後、僕とニウブは湖に流れ込んでいる川へ歩いて行った。

 仕事の合間をぬって、川岸に小さな製鉄用の竈、原始的なルッペ炉と脱炭や焼き入れ用の火床を作っていたのだ。


「炉の中は乾いてきましたね」

「一回、炭で焼き固めないと」


 川岸へ下る斜面を掘り、幅50センチ高さ1メートル程の筒状に作られたルッペ炉。

 その横には、似たような炉だが、横向きに吹き出し口が取り付けられた火床。

 あとはフイゴを繋げて、空気を送り込めるようにするだけだ。


「ともかく、家が完成しないことには時間も取れないし。フイゴ用の竹も探してこなくちゃ」

「竹なら取って来てやろうか?」

「え?」


 振り返ると、エルが立っていた。


「あれ? エル、内装の手伝いしてたんじゃなかった?」

「もう、終わったよ」

「ということは! お家が完成したんですか? ですか!?」 

「うん。君たちを呼びに来たんだよ」


 僕らは、急いで湖畔の家に向かった。 


 湖に面して建つみんなの家は2階建てで、南側、湖に面した真ん中にある玄関から入ると、吹き抜けの大広間があり、中央にある暖炉の奥にキッチンがむき出しでつながっている。

 その他に、寝室が2部屋と物置。

 大広間の階段を上った2階には、キッチンの真上のスペースが大きな踊り場になっていて、その両端には計4つの寝室。

 屋根は木の皮が貼ってあり、壁は1メートルくらいの石積みの上はすべて土壁になっている。

 北側は2階まで石積みの壁で、裏に背の高い煙突の付いた竈が作られていて、ガラスの溶解に使う予定だ。


 僕らが遅れてテント場に到着すると、さっそくカルミアが部屋割りを発表しだす。


「二階の東側は湖側が私で奥がアレクサの部屋、西側は湖側がシギで奥がキキョウ。一階東はエルと寺院が出来るまではニウブに物置に住んでもらうわ。そして、西の大きい部屋はクマちゃん」

「あ、あの? 僕の部屋は?」

「エルの部屋を追加したから空きが無くなっちゃった。てへっ」


 カルミアは舌を出して、ウィンクした。

 時々この人のことが良くわからない……。

 すると、エルが助け舟を出してくる。


「僕は野宿でも平気だよ」


 しかし、その提案を即座に否定するニウブ。


「エル! それはダメですよ! 物置で狭いですけど私が一緒に寝れば良いのでは? どのみち、寺院が出来たら一緒に暮らすのですし」


 今度は、キキョウが口出ししてくる。


「いや、物置想像以上に狭いぞ! ベッドも小さいし。それこそ抱き合って眠らねえと無理じゃん」


さらには……。


「クマちゃんとこ広いから、来てもええよ」

「クマは、着ぐるみ脱いだところ見られたくないんだから無理でしょ? ずっと着ているつもり?」


 それも、アレクサが横やりを入れてきた。


「ずっと着ているで!」

「そういえば、今も外で寝てるし……」

「でも、着替えるとき脱ぐでしょ? あんた、毎日着替えのときわたしのテント借りに来るじゃない」

「え? そうなの?」


 知らないところでそんなことしていたのかと僕は感心する。


「しょうがないわね……。私の部屋に泊まっても良くってよ」

「却下……」


 カルミアは即座にアレクサの提案にそう言ったあと言葉を続ける。

 結局……。


「なんか、広々として落ち着かない」


 僕はしばらくの間、大広間のソファで寝起きすることになった。

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