11.年下の母と名無しの少女
確かニウブは16歳だったよな。年下の母って、有りえないだろ。
なんかオタ友が言ってたような? こういう設定――バブみ――に萌えるのが今の流行りだとかなんとか。
……アホらしい!
だいたい、平たい胸族のニウブより、年上で豊かなおっぱいのカルミアの方が甘えたいタイプだよな……。
夕食の後、たき火に当りながらそんな妄想に浸っていると、
「タスクさん、寝る時間ですよ!」
「わっ! は、はいー!」
ニウブに虚を突かれる形で声を掛けられ、みっともない返事をしてしまった。
……って、何処で寝れば良いんだ?
テントは合わせて3つ建てられている。
「どのテントが僕専用?」
「違いますよ! 私と一緒に寝るんです」
「え?」
「さぁ、早くしてください」
……ええええええええ!!!
驚愕している僕のことなどお構いなしに、ニウブは僕の手を引いて端のテントへと連れ込む。
畳2畳分も無い狭いテントの中に一枚だけ布団が敷かれていた。
ニウブは掛け布団を捲ると、
「さ、入って下さいタスクさん」
と僕を促してくる。
僕が布団の中に納まると、ニウブはテントの入り口を閉めてから同じ布団に入ってきた。
薄暗がりの中でも、目の前にニウブの顔があるのが判る。
しかも、僕を見つめてニコッと笑顔を見せたかと思うと、すぐに目を瞑ってしまった。
……あの、こっちは心臓バクバクなんですけど!!
目を瞑っていても、そのカールした睫毛、小ぶりの鼻、薄くて小さな唇、そして整った輪郭。
どれを採っても、見とれてしまう。
その距離、約30センチ。
僕は段々と、小さな唇に引き寄せられそうになる。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
気がつくと、僕の荒くなった息が彼女の頬に掛かった髪の毛を揺らしていた。
……ヤバい! 欲望を抑えきれないよ。
その距離が10センチを切ろうとしていた時、いきなり彼女の手が伸びてくる。
そして、僕の頭はやさしく彼女の胸に抱きかかえられた。
「眠れないんですね……」
「うっ……」
一瞬、息はどうやってするのか分からなくなる。
頭に血が上るのが判る。
めまいで視界が
しかし、彼女がそっと僕の頭を撫でだすと、すべてが治まっていったのだ。
ずっと昔に忘れてしまった感覚を呼び起こされたような、不思議な気持ちに
「大丈夫……、眠れそうだよ」
安らかな気持ちで、僕は言葉を返した。
そして、夢の世界へと落ちていこうとしていた。
しかし……、
「あら? もう、寝ちゃったの?」
……え? カルミアさん?
カルミアの声がテントの中に響いたかと思うと、衣擦れの音が聞こえてきた。
そして、僕の背中側を柔らかな感触が襲う。
「用心のため、私も一緒に寝るわ。それにしても、この服チクチクするわね。脱いじゃいなさい!」
カルミアは布団に入っていたかと思うと、僕のチクチクする麻のワンピースを脱がしに掛かった。
「ちょっちょっ! いきなり何するんですか!」
布団の中、カルミアの方に向き直ると、そこには布団の中から見える範囲に何も着ていない素肌が……。
ふくよかな無の谷間にくぎ付けになっていると、すぽんっと脱がされてしまった。
「あっちを向いて、事故で入っちゃうかもしれないでしょ?」
「はぃ?」
「うふふ、冗談よ。パンティは履いてるから」
冗談と言いながら、有無を言わさず反対向きにされる。
しかも、後ろから腕を廻され、ガッチリ身体を固定された。
目の前には、すでに寝息を立てているニウブの顔。
後ろからは、素肌に感じるカルミアのふくらみ。
「眠れるわけねぇ~」
僕は下半身をギンギンにしながら、この生殺しの状況に涙した。
そして、明け方になるまで眠ることなど出来るはずもなかったのだ。
翌朝、目を覚ますと布団が剥がされていて、僕はテント内の床に直で横たわっていた、全裸で。
「どどど、どうなってんの?」
もちろん、ニウブもカルミアもすでに居ない。
僕は意識がはっきりしてきた所で、自分のワンピースを見つけて着用する。
外に出ると、すでに朝ごはんの準備が出来ていた。
みんなが食事している所に行くと、いつもと違ってフリフリなピンク色の服を着ているニウブ。
「あれ? ニウブどうしたの? おしゃれして」
「これは……、アレクサさんに借りたんです」
僕の問いに、ニウブは恥ずかしそうに答えた。
そして、僕に近づいて来て耳打ちしてくる。
「タスクさん、オネショ癖があるなら言ってくださいね」
「え?」
「ちょっとだけでしたけど、わたしの服とシーツがチョット汚れちゃいました」
「え? 昨日は水飲み過ぎたとかもないし、だいたいオネショなんかしないよ」
「恥ずかしがらなくて良いんですよ? 洗う時、ちょっと不思議な臭いがしましたけど……」
「あ――! うあああああああああああああああああああ!!!」
……ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいー!
僕は膝を着いて、頭を両手で抱え、天を仰いだ。
寝ている間に夢精して、ニウブの服にブッかけたのだ!
しかも、濡らしたシーツも洗ってもらった……。
なんという辱め。
なんという屈辱。
栗の花の匂いをニウブが知らなかった事だけがせめてもの救いか。
僕は偽りのオネショを受け入れるしかなかった。
朝食後、僕とニウブはキキョウに付いて狩りと山菜取りに出かけた。
東に聳える山に分け入り、獲物を探す。
先頭に立つキキョウは、地面に動物の痕跡が無いか探っていた。
「なかなか最近の足跡が見つからないなぁ」
「みてみて! 凄い火の勢い! さすがカルミアさんたちですね~!」
「へぇー! こんな遠くからでも魔法の火炎が見えるなんて」
ニウブが興奮して指さした方向には、点にしか見えない人影を頂点に放射状に広がる火炎の海。
まるで、人工的なショーを見せられているような壮麗さがあった。
山の中腹で野焼きを眺めているのは、睡眠不足と朝のトラウマで疲労困憊の僕にはちょうどいい休憩になった。
しかし、すぐにキキョウが追い立てる。
「グズグズしてねぇでさっさと行くぞ!」
「はぁ、はぁ、ちょっと待ってくださいよ!」
「なんだよ? 使えねぇ奴隷だな。男ってのは体力あるんじゃないのかい?」
「昨夜はえろえろ……じゃなかった! いろいろあって眠れなかったんですよ!」
……って、なんでこんな年下の生意気女に敬語使ってるんだ俺?
クノイチ風の動きやすい生足や肩の露出した服装は、胸元も大きく開いていて無防備な白い肌が眩しい。
ある意味、一番ドキドキさせられる格好を見せつけられているし、あどけなさの残る顔も黙っていれば見惚れてしまうほど可愛いのだけれど、少しは僕にも優しさを見せて欲しいよ。
しかし、彼女は電撃魔法使い。ビリビリを喰らわせられるんじゃないかと思うと、召喚後に受けた電撃のトラウマが、彼女に対して逆らう気持ちを萎縮させるのだ。
そんな複雑な思いを抱きながら、山道を進んでいると、
――バリバリバリバリッ!!! ドッシーン!!!
突然、近くから何かが割れる大きな音とその後の衝突音が響いてきた。
「なんだ?! なんだ?」
音は、斜面の下の方からだ。
皆が音のした方を注視していると、直径1メートルは有ろうかという横倒しの大木が姿を現す。
次にその大木を右肩に担ぎ、さらにアレクサを左肩に担いでいるクマが斜面を登ってくるのが見えた。
「こらっー! クマ! 獲物が逃げるじゃねぇか!!」
クマの姿を確認したキキョウが叱責の言葉を浴びせる。
「キョウちゃんやん! こんなところで何してるん?」
「キョウちゃんやん! じゃねぇよ! こっちは、肉を狩ってるんだよ! 肉を! お前みたいに川魚だけ喰ってりゃそれで良い奴とは違うんだよ」
「まあまあ、落ち着きなさいよ。ちょうどいい木を探してたらここまで来ちゃったのよ」
自分の方が目上だとでもいうような大人ぶった態度でアレクサが
「あ! ニウブ! クルミはいっぱい取れたん?」
「ハイ! クマちゃんが言ってた通り、いっぱい落ちてました!」
すでにキキョウを無視しニウブと話し始めるクマ。
「さっさと! 山降りろよ! 邪魔なんだよテメェらはよー」
「おー、怖っ! オババがヒスってるわ。早く拠点に戻りましょクマちゃん」
終始、キキョウを見下していたアレクサがクマにも自分が目上のようにな言動で命令した。
「ほな! さいならキョウちゃんニウブと、あれ? 何て呼べば良いん?」
「タスクさんですよ! クマちゃん」
「たすく? めんどいわー。じゃあ、ターくんで。……ターくんさいなら~」
「さいならー」
……ああ俺もクマちゃんの肩に乗って帰りてぇ。
山歩きにうんざりしてきた僕は、そんな妄想で自分を慰めるしかなかった。
また、3人でしばらく獲物を求めて山の奥へと足を進めて行くと……。
――ガサガサ。ガサガサ。
頭上の木の枝葉が擦れる音が聞こえてきた。
キキョウが、静かにしろというジェスチャーを示した後、注意深く音のした木々の辺りを見つめる。
そして、
「そこだ!」
キキョウの雷撃が一本の木に命中し火柱を上げながら倒壊する。
すると、倒れゆく木から他の木へ飛び移る人影が僕たちにもはっきり見えた。
「待て! 誰だおまえは!!」
キキョウは人影を追いかけようと飛び出すが。
「誰って? 君の方こそ誰だよ?」
いきなり、飛び出してきたキキョウの目の前に降り立つ人影が聞き返してきた。
「うわわっ!」
予想外の出来事に、大きく転倒してしまうキキョウ。
「うっ…。痛ったぁ……」
「大丈夫ですか! キキョウさん」
二人が駆け付けると、キキョウは自力で立ち上がれないでいる。
「おい、大丈夫か?」
応急手当をしている二人に声を掛ける人影。
「すぐテントに戻った方が……って、君」
見上げると、心配そうに見つめる緑の瞳の少年……、いや少女か。
真っ白な短髪に小麦色の肌、動物の皮で出来た服は粗末な軽装で、ほっそりとした腕や脚がむき出しになっている。
「君は誰?」
「ふつう、自分から名乗らないか?」
少女は、ムッとした表情で人差し指を僕に突き付けてきた。
「え? あ、はい! 僕は、タスク。我楽匡です」
僕は慌てて答える。
「タスクさん! 早くキキョウさんを!」
ニウブの言葉に、やらなくてはならないことを思い出し。
「ああそうだ。荷物は置いて……」
僕らはキキョウを両肩で抱えて戻ろうと……。
「そっちの小さい子大変そうだけど? 手伝ってやろうか?」
「え?」
僕との身長差で重心がかかっていたニウブから、気がついた時には謎の少女が肩を担ぐのを引き継いでいた。
謎の少女は、僕より少し小さい程度だったのでニウブよりバランスが取れた。
「さ、行くぞ」
「う、うん」
事の成り行きで、僕たちは謎の少女とテント場に戻ることになったのであった。
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