9.旅立ちの前に

 その日の夕方。

 寺院では、盛大に開拓団のお別れパーティーが開かれていた。

 野外の屋根付き広場では、大人も子どもも村人全員で飲んだり食べたり踊ったりと盛り上がりを見せている。

 寺院の中では、僕とニウブの二人だけが外の騒ぎに耳を傾けながらゆったりとごちそうを味わっていた。


「うわっ! これ凄くおいしい」


 今まで、不安や心配で味もろくにわからなかったからなぁ。

 僕は、しみじみ料理の味を嚙み締める。


「そうですね! カルミアさんの作った料理、ほんとおいしいです」

「あら、うれしいこと言ってくれるじゃないの」


 ニウブの感想に目を細めるカルミア。

 

「このタイのカルパッチョも、スズキのアクアパッツァも絶品です!」

「うふふ、素材が良いだけよ。カイリの村は新鮮な魚が豊富に取れるから」


 僕の言葉に謙遜しているが、普通に高級なイタリアンでも食べているような気分だ! 僕自身は行ったことは無いけど…。

 

「そんなことないですよ。このトマトのスープにモチモチしたもの入ってるのなんて、こんな美味しいものいままで食べたことないです!」


 ニウブが、ジャガイモのニョッキを頬張りながら、ニコニコ顔になっている。


「確かにこの辺じゃ珍しいかもね」

「カルミアさんは、この辺の出身じゃないですよね?生まれ故郷の料理ですか?」

「教皇都市の近くよ」

「ねぇ、ニウブ! 教皇都市って?」

「教団の本部があるこの世界の中心都市のことです。でも、すごいですね教皇都市って世界の反対側にあるんですよね?」

「反対かどうかは分からないけど、真っすぐ飛んでも20日以上かかるわね」

「そんなに遠いんですね! でも、なんでわざわざトウゲンまで?」

「トウゲンって何?」

「この辺りのことをトウゲンって言うんですよ」

「ここに来た理由は、世界の東の果てが、どんなところか見てみたかったの……」


 遠い目をしたカルミアの横顔は何処か哀しさをたたえているように感じた。

 そんな雰囲気を察知し、僕は話題を変えることに。


「そういえば、開拓団って参加者あんなに少ないんすか?」

「それは、先発隊だからよ」

「先発隊?」

「家一軒、畑一つ無い荒地に一斉に移住しても生活が成り立たないわ。まずは、能力のある少数精鋭の魔法使いだけで開墾して、徐々に人を集めて行くのよ」

「あ! 私も気になってたんですが。それだと忙しくて妊娠している余裕無いですよね? なのに子作りするための奴隷は最初から必要なんですか?」

「理屈で考えれば要らないわね。でも、村が大きくなってから奴隷が確実に貰える保証はないでしょ? 人集めのためにも奴隷が居るっていう事は重要な事なのよ。人口が少なければそれだけ子作りのチャンスも回って来やすいしね」 


「あの、子作りっていつ頃から……」

 

 僕は、気になっていた。

 新しい土地に移ったら、すぐにでも性奴隷の役目を与えられると期待していたのに……。

 もしかしたら、かなりお預けを食らうことになるとは考えもしていなかったのだ。


「3か月先か、半年先か、進み具合によってよねー」

「はぁ、そんなに先なんだ……」


 僕は期待していた童貞卒業がかなり先のことと分かり、ガクッと頭を垂れる。


「でも、開拓団って大変ですね! 新しい開拓地に後乗りする方が一番良い感じがします」 

「うふふ、それはね……。奴隷の権利は先行者にあるから、余裕が出来たら最初に奴隷を使う事が出来るのよ。それも、たっぷりとね」


 ニウブの感想に、意味深な笑みを湛えて僕を見つめながら答えるカルミア。

 僕は、全身に電気が走ったかのようにぞわぞわした感覚が駆け巡った。



 出発の日。


「ババア寝かせてくれよー。昨日の接待で飲まされすぎてグロいんだよー」

「なーに言ってんだよ!おまえさんが、いい顔して飲みまくったのがいけないんだ!最後の別れくらいピシッとしな!」


 出発の朝、見送りに来ていたのは村の司祭とノエルだけだった。

 もちろん、他の村人に僕を見せられないからである。

 開拓団のメンバーは、昨日のパーティーで村人には別れの挨拶をすでに済ませていた。

 カルミアが代表して、修道女に挨拶する。


「シスターウメ。今までありがとうございました」

「短い間だったけど、あんたがいろんな事を教えてくれて……。もっと居てほしかったんだけど、しょうがないね」


 しわの多く刻まれた顔をしかめっ面のようにしながら笑顔をみせる修道女ウメ。

 そんな二人の会話に、ノエルが割って入る。


「ホントに残念だ。君を抱くのが僕の夢だったのに……、あの坊やが不能だったらいつでも戻っておいで!」

「ふふふ……。ありがとうございます。でも、タスクくんは若いし心配いりませんわ」

「このイロボケヒヒジジイ! チンポちょん切るよ!」


 ノエルを全力でしばくシスターウメ。

 そんな茶番が繰り広げられている中、ニウブが一歩前に出る。


「この前は、ありがとうございました! あなたのアドバイスのおかげで、こうして無事に開拓団の一員になれました」

「いいってことよ! 俺っちはカワイイ女の子には親切なだけさ!」

「ほんとにありがとうございました! イロボケヒヒジジイさん!」


 あんぐりと口を開けて、間抜けな顔をさらすノエル。

 僕は恩人なんだし正しい名前を教えようかと思ったが、ニウブに恥かかせるのもなんだし、確かにイロボケヒヒジジなんだからしょうがないよなと思うことにした。


「さぁ、出発の準備するぞ!」


 運び屋のトキの声が響き、出発の準備が進められる。

 目の前には、見覚えのある革製の大きな一枚布。


「また、これですか……」


 僕は、いつものように簀巻きにされてニウブ、キキョウ、アレクサが背中にまたがった。


「大丈夫ですか、タスクさん?」

「ふがふがふあふがふぁ!」


 さらに轡を嵌められしゃべることすらままならない。


「私たちは軽いんだから平気平気」

「このくらいでへばってるようじゃ、役に立たねぇもんな!」

「そうですね! がんばって我慢してくださいねタスクさん!」

「ふがが!」


 こっちの身にもなってみろと、言い返したいところだが、ふがふが言っても疲れるだけなのであきらめた。

 僕の背中の上で談笑する3人組。

 どうやら、ニウブは開拓団の仲間とは打ち解けているようだなと安心する。


「他に荷物は無いのか?」

「クマちゃんが、ほとんどの荷物担いで先に行ってるから大丈夫だよ~」


 トキの質問に、シギが気の抜けた声で答える。


「それじゃ、出発すっか!」

「さようなら~!」

「達者でなー!」


 飛び立つときに衝撃が来た他は、それ程苦は無く飛んでいく。

 運び屋たちはシギとカルミアを追って海岸沿いを西に飛ぶ。

 途中1回の休憩を挟んで、湾が南に逸れ出したところで内陸に進路を変える。

 そして、緑深き山間部に差し掛かった。

 さらに進むと噴煙が微かに見える活火山が見えてくる。

 その火山の先に大きな湖が見えてきたところで、トキが叫んだ。


「さぁ、開拓地が見えてきたぞ!」


 僕は、眼下に広がる湖、平原、森を見つめる。


「ここから、すべてがはじまるのか……」


 僕はワクワクしていた。

 性奴隷の身分に一時は絶望したものの、己の知恵と英知、そしてニウブの助けがあれば、この世界を自らの力で変えていけるんじゃないのか?


 そんな思いと、もう一つ……。


 きれいなお姉さんから可愛い妹系まで、選り取り見取りの美少女ハーレムに期待と下半身を膨らませていた……。

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