5.女魔法使いの力に恐怖する
『ファイアーボール!』
『雷撃波!』
『竜巻突風!』
火球が木々を燃やし、真横に飛ぶカミナリが大木を打ち倒す。
そして、竜巻に吹っ飛ばされる、はぐれ人たち。
「これが、魔法の力……」
降伏寸前で、運び屋のトキによって
「すみません。タンポポさん」
一緒に救出されたニウブが、抱えてもらっているタンポポに申し訳なさそうな顔を見せる。
それに対して、謝罪の言葉を口にする運び屋たち。
「いや、あのくらいの奴らだったら逃げずに助けりゃ良かったよ。すまんな」
「ゴメン……」
飛行特化型の二人は、危機の時には瞬時に逃げることを最優先に訓練されていたので、あのような事になったと弁明してきた。
「それにしても、すげえ……」
なすすべもなく、燃え盛る森の中を逃げ惑うはぐれ人たち。
3対30の戦いは、あっけなく終ってしまった。
「ブリザード!」
はぐれ人たちが撤退した後、戦いに参加していなかった一人が燃え盛る森林に吹雪を放出して消火している。
川岸に降ろされた僕らは、ここで援軍として来た4人を間近で見ることが出来た。
まずは、火球を連射していた燃えるような真っ赤な長髪の美女。
とろんとした紫の瞳と、大きな胸が優しそうな雰囲気を醸し出している。
隣には、竜巻を発生させていた僕と同い年くらいのスラっとした細身の女の子。
茶髪のロングボブで、切れ長の瞳が涼やかな印象を与えているキレカワ系。
3人目は雷撃使い、身長150センチほどで金髪ポニーテールなロリっ子。
ムスッとした表情で、少し近寄りがたい雰囲気を出しているが、逆にそれが萌させる感がある美少女だ。
最後は、いまだ吹雪による消火活動をしている水色がかった銀髪ツインテールと透明感のある白い肌がお人形さんを思わせる幼い妹系。
「あ、あっ、が……」
あまりに現実離れしたきれいな女の子たちを前にして、アガってしまい言葉につまる。
「ありがとうございました! なんてお礼を言っていいのやら……」
「いいのよ、無事でよかったわ。これが、待ちに待った男の子ね」
ニウブの感謝の言葉に応えた赤髪のお姉さんが、僕に近寄ってきて頬をやさしく撫でた。
「いっぱい子作りに励んでね。期待しいているわ」
「は、はい……」
僕は前かがみになって、答える。
そして、家庭教師のお姉さんに童貞を奪われる系のエロビを思い出し、頭の中では目の前の美女との妄想でいっぱいに……。
「カルミア~! 終わったんだし。はやく、帰ろうよ~」
茶髪のキレカワ系が、見た目と違って気の抜けたフニャフニャ声で赤髪お姉さんに催促する。
「また、カイリの村で会いましょう!」
そう言い残すと、赤髪のカルミアは茶髪の女の子の手を握り、
「私は、シギと帰るから。あなたたちは運び屋さんと帰りなさい」
シギと呼ばれた茶髪の女子と一緒に空高く舞い上がる。
「あー! お姉ちゃんだけずるい!」
水色ツインテ―ルの抗議をよそに、二人はすでに彼方へと飛び去っていた。
「で? どうやって4人も運ぶんだよ?」
金髪ロリっ子がめんどくさそうに尋ねる。
……結果。
「グェー……」
「大丈夫ですか? タスクさん! もうちょっとの辛抱ですぅ!!」
最初の飛行と同じく簀巻きにされた僕の上には、以前とは違って3人の乗客が
いくら軽い女の子たちとはいえ、3人は苦しい。
しかも、詰めて座るために、口には馬みたいに
「何言ってんだい! きついのはこっちだよ」
トキたちは2倍になった重量や増えた空気抵抗のため、飛行速度も半分以下になっている。
2度の途中休機を挟み、3時間ほどで海沿いの村カイリに到着したころには真夜中過ぎになっていた。
村はずれの切り立った崖の前に着陸し、僕の簀巻きも解かれる。
しかし、着いた場所には誰もいなくて、しばらく手持ちぶさたで待つことに。
「出迎えとか居ないもんなの?」
「どうなんでしょう? 開拓団の責任者の方とか……」
「じゃあな。私は寝るよ」
しびれを切らしたのか金髪ロリが離れて行く。
「待ってよキキョウ! もう……」
「おいおい待てよ! 受取人はどうした? 早く帰りてえのはこっちだよ」
「……ぬぅ」
ガヤガヤ騒いでいると、カルミアがようやく息を切らして駆け付けた。
「ごめんなさい! 遅いから家の方で待ってたの。トキさんタンポポさん! もう遅いので今日は家で休んでいってくださいな。アレクサ、案内してあげて」
金髪ロリのキキョウはすでに姿を消し、アレクサと呼ばれた水色ツインテ―ルが運び屋たちを連れて行く。
「改めまして、私が開拓団のリーダーをしています。カルミアです」
「あ、あ、ニウブです!
「あらあら、かわいらしい修道女さんだこと! 村の寺院には明日案内するから、今日はあなたも家にいらっしゃい」
二人がすでに仲よさそうに会話してる横で、なんだか取り残された気持ちに……。
僕は勇気をだして、赤髪のカルミアに声を掛けることにした。
「あのー……」
「あらいけない! 一番大事なものを忘れちゃいけないわね!」
穏やかな微笑みをタスクに向けたカルミアは、そのまま僕の腕を取り引っ張っていく。
「へへっ……」
肘に当っている柔らかな感触にデレデレしながら僕は期待に胸と下半身を膨らませていた。しかし、
「あなたは、ここね」
――ギギー、ガッシャン!!
僕はまたしても崖に掘られた洞穴に閉じ込められたのだった。
翌朝……。
「んんんむにゃ……。ん? なんか当たって……」
僕は、身体に時おり当る堅い感触に眠りを邪魔をされて目を開く。
寝ぼけ眼で格子状の柵の外を見ると、柵の間を出入りする木の枝が見えた。
木の枝の先には小4くらいから3歳くらいまでの小さな女の子の集団。
「あ! 起きた! 起きた!」
「なんだ? この子らは?!」
寝ぼけまなこで眺めていると、歯を見せて笑っている一番大きな子が近づいてくる。
「おい! 奴隷! ちんちん見せろ!」
「げっ……!!」
僕は小さな女の子の下品な言葉に絶句した。
対して、女の子たちはキャッキャとはしゃいでいる。
「なんつうクソガキども……!! 見た目がかわいらしくても下品過ぎて……」
本気で幼女にムカついてきた僕は、ホントにチンチンを見せつけてやろうかと考えた。
でもそれって、変態も変態、人としてオワコンの変質者じゃないですか……。
現世でそんなことしたら警察のご厄介になってしまう行為だし、だいたいそんな趣味は……つうか一桁はストライクゾーンじゃねえしなどと意味不明な供述を……。
『こらぁ! 何してんだおまえらー!』
「きゃー! ヒヒジジイだ! 逃げろー! きゃっきゃっきゃ!!」
この世界に来てからは聞いたことのない野太い声が響くと、幼女たちは奇声を発して逃げていった。
「はぁはぁ、久しぶりに走ったら息上がっちまうわぁ~」
目の前に現れたのは、つぎはぎだらけのヘンテコなどてらを
「え? おとこ?!」
「よう! 君が新しい性奴隷くんだね?」
「あなたは?」
「ははは、先に名乗れってか! 俺様はこの村の性奴隷やらしてもらってるノエル、元の世界での名は
顎ぐらいまでの微妙な長髪とだらしなく伸びたヒゲ、やせ形で身長は180を超えていそうな、昔はバンドでベースやってましたみたいな胡散臭い男というのが僕がノエルに抱いた第一印象だった。
「奴隷ってこんな自由に……」
「そりゃ~、俺っち。この世界で30年になるベテランだし~! 信用されてるっつかぁ~。見放されてるっつかぁ~ガハハハッ!!」
「ところで、なんで僕に会いに?」
「ほら! こっちって退屈じゃん! 自分以外の男見るなんて10年ぶりくらいだよね~。しかも、新人は初めて!! あっちはかなり超進化してんの? スマホとかさ……」
「スマホ?! スマホが登場して10年も経ってないですよね? いや有ったっけ?」
「ああ、そういうことかやっぱ……」
ノエルが目を見開いて、ひとり納得したような表情をする。
「そういうことって?」
「俺が来たのが2020年の夏だ」
「僕は2021年の2月です」
僕は、この世界と元の世界の時間が同じ速度で進んでいないこと、この胡散臭いおっさんのノエルとかいうキラキラネームや幼稚な喋り方の理由が解った気がした。
「ちぇっ……。つまんねぇな、空飛ぶ車の話でも聞けるかと思ったのに」
「なんか、すいません」
「まぁ、お前さんの
「はぁ?」
いきなり何言い出すんだ?! このジジイは……。
しかし、そんな僕の態度などお構いなしにノエルはまくし立てる。
「ここで長くやっていくには、何十何百もの女を相手にしていかないといけねぇんだぜ。自分のことをAV男優だと思え! セックスは仕事だ。勃たねぇオスはどうなると思う?」
「ど、どうなるんですか?」
「山に捨てられんのよ。だから、必死でセックスしてる。選り好みなんてもちろん出来ねぇし、俺らに選択権なんて無いんだぜ。まぁ、俺はセックス好きだし、ストライクゾーンも広いから!」
なんの自慢を聞かされているのだろうか? と思いながらも、山に捨てられるのはヤバいな、一時は逃げ出そうとしたけど、こんな世界で一人で生きていく自信は無い。
「でも、好みの人とかいるでしょ?」
「確かに、今日はラッキー! みたいな子はいるよ。でもさ、
「ああ、確かに。女同士で争ったら、例えでなくリアルに第三次世界大戦みたいな
僕は昨日の事を思い出し、震え上がる。
「おっと、誰か来るようだ! 俺と会ったのはくれぐれも内緒にな! 会いたかったら寺院に来い! おれの
ノエルがそそくさと立ち去ると、誰かやってくるのが見えた。
近づいてくるのはカルミアとニウブだ。
しかし、にこやかなカルミアと違って、ニウブの表情がいつもと違って暗いな?
「おはようございます、タスクくんだっけ?」
カルミアが柵を開けて、僕を表へ出した。
「これから、村の寺院に案内しますね。開拓団の出発まで4日ありますので、それまでは寺院での寝泊まりになります、それと……」
なんかカルミアさんが色々説明してくれているみたいだけど、付き合いは短いけど、見たことも無い暗い表情のニウブが心配で頭に入ってこない。
僕はたまらずニウブに声を掛ける。
「ニウブどうした?」
「ふぇ、あ……」
「私から言いましょうか?」
カルミアが言葉に詰まったニウブにやさしく声を掛けた。
「いえ! 自分で言います……。タスクさん!」
ニウブは顔を上げると、取り繕うような悲しい微笑みで僕を見つめてきた。
「一緒に……行けなくなりました」
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