三光[トリアフォタ]

 身を屈めた五番機を先頭に、背後にはぴったりと同じ姿勢のグロウスビークが追随する。

 ローラーダッシュでソロネ四機編隊は反応する。


 大広間に入った瞬間、ローラーダッシュから爆轟移動に切り替え、床に派手な火花が散った。ローラーダッシュは即座に停止させたのだ。

 ブルーはまったく同じ動きで続く。五番機が盾のようにして移動している。


 すかさず二機が斜め上空に跳躍する。ソロネの右肩からレーザービームが照射開始されたからだ。シルエットの構造上、仰俯角や旋回包囲の移動には限界がある。高速移動する二機にはわずかに反応が遅れてしまうのだ。


 グロウスビークはDライフルを変形させていた。背後から三本の、細長い砲身がせり出している。


三光トリアフォタ展開」


 高速移動しながら、背面の砲身を取り付けるグロウスビーク。

爆轟が止まり、スラスター噴射が途絶えた。停止する直前、爆轟を最速にしてフェイントを入れるブルー。わずかでもソロネ型のレーザー照射時間を短くする工夫だ。


陽光ヘカトス


 攻撃に備えて盾を構えるソロネだったが、構えた盾は大きな孔が空き、慌てて投げ捨てる。


「二重盾を貫通しただと!」

「向こうもアンティーク・シルエット級のレーザーを使っているぞ! 現行兵器じゃ無理だろう!」


 不可視のレーザーはMCSが着色して表示する。禍々しいほどの赤いレーザーがその威力を物語っていた。

 再びスラスターを噴射し、軌道を変えるグロウスビーク。


「あのような高出力レーザーは連射不可能。フェアリー・ブルーはお前達が始末しろ。俺はアシアの騎士をやる」


 その間にも五番機は大きく弧を描いてガルガリンに接近している。

 おそらく連射対策ぐらいはしているだろうが、と思うポリュデウケスだったが口には出さない。ソロネ級三機を与えたのだ。たかが現行シルエット一機ぐらい撃破できるだろう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 グロウスビークはすでに盾を破壊したソロネの背面に回り込んでいた。


「想像以上に装甲が厚い。照射は2秒が限界。砲身が持たない」


 機関部から砲身をパージし、別の砲身を構える。


「砲身はもとより使い捨て。ポジトロニウムを使ったガンマ線レーザー兵器。それがトリアフォタ」


 床に転がった溶けた砲身ヘカトス。あまりの熱に耐えきれず、パージされウィスを喪った瞬間から溶解し始めたのだった。

 再びスラスターが停止する。爆轟機構のすべてが停止した。

 膨大なエネルギーを消耗するため、推力に用いている金属水素を燃料にトリアフォタ機関部内で電子と陽電子を併せ持ったエキゾチック粒子であるポジトロニウムを生成。レーザー発振に回している。

 ポジトロニウム自体は反物質ではなく、陽電子砲と違って電磁場や大気の干渉を受けることもない。


「砲身に多重レンズを駆使し、威力を極限まで高めた20ギガワットレーザービーム。1秒なら40センチ、0.5秒でも20センチの合板を貫通するわ」


 レーザー砲トリアフォタにおいて爆轟停止状態による推力消失は最大の欠点ではあるが、ブルーは慣性とわずかな推力停止時間を巧みに使い分けていた。


月光セレニア


 現行シルエットとは比較にならぬほど強固なソロネの装甲を容易く貫通するレーザービーム。

 リアクターごとMCSを貫通し、胴体に綺麗な風穴が空いていた。強固なカレイドリトスも耐えきれなかった可能性が高い。


「あんな威力ありなのか!」

「こちらのレーザーだって!」


 ソロネのレーザービームも、普通のシルエットなら瞬殺できるはずなのだが、三次元行動を駆使するグロウスビーク相手では機体が捕捉しづらい。

 盾を構えてお互いを背にするソロネだったが、グロウスビークは彼らの真上にいた。


「思った通り。あなたたちは肉体が構築技士なだけ。戦闘は素人ね」


 構築技士のみが封印区画に入場できる。一般人も構築技士が搭乗する機体に付き添えば一体程度は可能だが、半神半人にそんな連携が取れるわけがない。

 

明星フォースフォロス


 最後の砲身を取り出し、ソロネを頭上から撃ち下ろす。ほんの僅かな時間、自由落下状態時8に照準を合わせ、発射する。フェアリー・ブルーにとっては十分すぎる狙撃時間だ。

 ソロネが多少回避行動を取ったところで頭上のグロウスビークは狙いを外さない。頭上からだと円錐状の攻撃範囲。逃げ場はない。

 レーザービームは頭部から貫通し、ソロネを完全に貫通した。照射時間はきっかり二秒――


「何故だ。どうして現行シルエットの技術しかないお前達が、そこまでのレーザーを出せる?」


 半ば絶叫するかのようにフェアリー・ブルーに問いただす、最後の一機となったソロネのパイロット。


「アンティーク・シルエットは当時の生産性と補給の簡略化が最優先でしょ。レーザー砲はリアクターからの給電。このトリアフォタは金属水素を燃焼させそのエネルギーを宇宙艦の幻想兵器、、、、の残骸から回収した発振機で増幅。砲身内の複数のレンズで収束しているの」


 破壊した幻想兵器から回収した光学兵器類は宝の山だ。現行技術では制作不可能であり、そして幻想兵器から回収した部品は技術制限を受けていなかったのだ。

 トライレーム内でも研究用として構築技士に分配された。需要が少ないものでも高額で取引された。そのまま武器への転用は極めて困難。現行で解放された技術では小型化は容易ではない。シルエット用でも艦載用に転用しなければ構造的にも厳しい。


 コウはブルー専用のグロウスビークのために幻想兵器から回収した部品を惜しげもなく使い、専用兵器トリアフォタを造り上げた。本来なら電子励起爆薬並みの禁忌兵器だが、根幹部品は代替の部品もなくコウ自身が構築することも不可能なオーパーツ。鹵獲されても転用の恐れは少ない。

 兵器開発系超AIが一同に揃ったあの場があったからこそ完成できたという、曰くつきの光学兵器だ。コスト換算できない代物だが、アストライア曰く、現行技術の空母程度と同等のコストはかかっている。


「幻想兵器だと! 惑星リュビアの技術を何故お前達が!」

「それは内緒」


 半神半人なら幻想兵器の存在は知っている。惑星リュビアのストーンズは彼らによって壊滅されたからだ。

 会話している間にも、ソロネが両肩のレーザービームでグロウスビークを狙うが地面を蹴り、空を駆ける機体を捕捉し続けることは困難だった。


「そんなものは連射できないはずだ!」

「だから砲身を捨ててるの。見たらわかるでしょ?」


 からかうように答えるブルーに、苛立つ半神半人のパイロット。

 トリアフォタの砲身はアルゲース製で、これだけは消耗品だ。


「はん! だったらお前はもう武器なしだ!」

「残念」


 腰のラッチに備えた砲身を付け直すグロウスビーク。これで通常のDライフルとして運用可能だ。

 後退しながら盾を構え、流体金属弾をやり過ごすソロネ。


「Dライフルを防ぐか」


 最後は戦車型シルエットとして設計されたアンティーク・シルエットだ。素人が乗ってもそれなりの働きをする。


「いくぞ! 貴様は狙撃手だろう。もう打つ手はない!」


 レーザー照射しつつ、手甲を右肩あたりまで引いて構えるソロネ。

 相手の高威力レーザービームは尽きた。新型砲弾もソロネには効かない。あとはアシアの騎士のように斬るしかないはずだ。


「死ね!」


 腕を振り抜こうとした時には、すでにソロネは膝を付いていた。

 胸部には巨大な孔。

 グロウスビークの左腕が突き出され、二本の巨大な杭が突き出ていたのだ。


「私は格闘戦も得意よ? 結構有名な話だと思うけど、半神半人はラジオはお嫌いだったかしら? 残念ね」


 ソロネが振り下ろすよりも早くパイルバンカーを装備してカウンター攻撃を行ったグロウスビークが、ソロネの胸部を穿ち抜いていたのだ。

 爆轟駆動による、動作の高速化と振り抜く速度。合わせて同様に射出方式を爆轟方式と電力、機構に関しては切り替え方式を採用している。


 細長い二本の杭も幻想兵器、つまり惑星間戦争時代の産物だ。幻想兵器の牙を回収し、その用途に選ばれたものがこの新型パイルバンカーだった。巨大な牙に使い道はないが、細くて長い牙を杭に見立て二発同時発射する方式として採用した。

 幻想兵器同士の抗争に使われる戦闘用の牙だ。威力も強度も極めて高い。


「レーザー媒質と励起装置は無事だけど発振器がもう持たない。トリアフォタは対アンティークか戦略運用しかできないかな」


 小声でトリアフォタの状態を確認する。レーザー砲の部品は主に三つから構成される。励起されると光を発するレーザー媒質。レーザー媒質にエネルギーを与える励起装置。共振器という鏡でレーザー光を増幅させ、半透鏡で外に放出する発振器。この装置から生み出されるレーザー光が高エネルギーの光線となり目標を破壊する。

 肝心のレーザー媒質と励起装置は宇宙艦に搭載されていたレーザー兵器のなかでももっとも小型だった一式を幻想兵器から回収したものだが、発信器は現行技術を工夫してコウが構築したものだ。

 三回しか使用できず、複雑な機構のレーザー砲機関部を戦場ではいちいち換装などできない。コスト的にも戦略兵器が妥当だろう。


「伏兵は確認できないけれど、油断はできない。ガルガリンはコウ次第」


 五番機とガルガリンが対峙している。一対一の対決に割りこむほどブルーも野暮ではない。

 彼女は周囲に神経を尖らせて、ストーンズの援軍を警戒するのだった。




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いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

申し訳ありません。グラウピーコス(フリギア)とグロウスビーク(ブルー)を混同していたので、修正しました。


今回分量は普通ですが、三話分ぐらい労力を割いた気がします。

破壊を目的にしたレーザー兵器は本来砲身もなく、音もしない、不可視なので地味になりがち。ギミックを駆使して描写しましたが、どうだったでしょうか。

作中では音も可視化もMCSが補完しています。


グロウスビークは文字通りの採算度外視兵器。価格換算不可能で、おそらくは現行空母なみのコストがかかっているというのはアストライアの試算です。

幻想兵器から回収した小型宇宙艦のレーザー兵器の機関部に、アルゲースしか製造できない威力上昇のための砲身。しかも使い捨てなので、三本しか携行できません。

宇宙艦なみのコストがかかる兵器で有名なのはプロトガン○ムマークⅡですね。ゲームオリジナル機体でしたが、その後何回かゲームでは登場しています。


ポジトロニウムを使ったガンマ線レーザーは、金属水素で絶えずポジトロニウムを精製し最大数秒の照射時間を可能にしています。

多少減衰したところで、アンティーク・シルエットの装甲は抜けます。惑星間戦争時代の宇宙艦は場所によっては抜けます。アナザーレベル・シルエットには効果ありません。

コウはポジトロニウムの精製中、動きが停止することを厭い、五番機に載せることは一切検討していません。


ソロネ級は壁が役割の持久戦型なので相性が悪かったですね。これが高威力レーザー複数持ちの高速機動機ならブルーも戦い方を変えたはずです。

当然、グロウスビークのコストに関してはアストライア内でも極秘です。要らぬやっかみを生む可能性が高いので!


三光は古ギリシャ語から。桜、梅、松で考えたかったんですがギリシャに桜はなく断念。ケラソスという言葉があるそうですが、これはさくらんぼだそうです。

さくらんぼは確かにサクラ亜科ではありますが、日本に伝わったのは明治元年です。

原種はネパールのヒマラヤ原産。温帯の樹木なので西に行くことはなかったみたいです。

上記の理由で花札ネタは諦めました。格闘ゲームで五光! と叫ぶサムライがいましたね。

ちなみにコウの剣術のほうの流派には「三光ノ利剣」という技がありますが、どのような技だったかは不明です。


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