フェンネルOS機能拡張アップデート
話は遡る。
コウはヴァーシャとの決勝後、シルエットベースでトライレーム幹部会議を開催した。
A級構築技士から各艦艦長まで錚々たる面々が揃っている。
「彼女がフリギアだ。彼女の分霊ともいえるAIグラウコーピスがメガレウス改めアサヒの管理AIとなった」
「フリギアです。よろしくお願いします」
フリギアも今日はビジョンで参加だ。
「四人目のアシアによって生み出された最新の超AI。本来はキュベレーと呼ばれる地中海世界の東方、石の女神を倣う予定だったが、色々なことがあって女神アテナの異名としてのフリギアとなった。アシアが生み出した存在なのでアシアの側面も持つそうだが、ほぼないといっていい」
「色々の部分はしょりすぎだぞコウ」
「その色々ってヤツぁ、理由があって言えないんだ。すまねえな」
ケリーが文句を言い、兵衛が助け船を出す。
「コウ。アシアの側面がほぼないって酷くないですか」
「アシアみたいに優しい超AIになりたいっていってたっけか。ごめん。アテナはトラキアでアシアと呼ばれていたらしい。フリギアを通じてアテナともアシアとも関係が深くなった」
「アテナの存在力みたいなものが強すぎるせいもあるんです。正式名はフリギアのアテナですが、フリギアで構いません。皆様よろしくお願いします」
構築技士たちを敬うように礼をする。
「女神アテナとは……」
「とんでもないビッグネームがきましたね」
クルトが絶句し、ウンランが思わず苦笑いだ。地球にいたものでギリシャ神話のアテナを知らない者はいないだろう。
「惑星開拓時代に消滅した超AIアテナとはほぼ別人だと思って下さい。生まれたばかりなので、学習中です。無力な超AIなのであまり期待はしないでくださいね」
フリギアが無邪気な笑顔で元気よく返事をする。最初に救出したアシアよりも一回り幼い感はあるが、コウも薄々演技ではないかと疑っている。
「ほぼ別人とは、どんな根拠があるのかね」
キヌカワが思わず尋ねる。女神アテナとフリギアとの違いは把握しておきたい。
「皆さんも今やMCS基幹部分を構成している存在がヘファイトスとアテナだということはご存じでしょう。鍛冶神を模した超AIヘファイトスと戦女神を模した超AIアテナ。この二人が自らを乗り物として律しているからこそ、フェンネルOSを搭載するMCSとシルエットはある種使い捨てられる兵器、もしくは道具として成立しています」
「そうだな。本来フェンネルOSは超AIの普及型ともいうべき存在だが、我らは道具として、使い捨てとして利用させてもらっている」
「二人の望みなので。道具であれば、いつまでも人間と寄り添うことが可能ですから。はぁ……」
フリギアが溜息をついた。
「何故溜息をつくのかね……」
「あれと私は一応、同一存在を模したものであるはずなんですが。――あの頑固者、話を聞いてってお願いしても、まともに取り合ってくれないんですよね。自分なのに」
「MCSと会話する……?」
アベルが疑問に思う。乗り物であると課したフェンネルと会話可能というだけで奇跡ではないか。
MCSには当然疑似人格はある。パイロットに語りかけてコミュニケーションを取ることもだってある。それらは個々のMCSが有するペルソナだ。MCSの根幹にアクセスできるという存在というだけで別格の権能だ。
「でも抜け道があって。お願いしたら通りました。アイギスという機能がトライレームのMCSには付与されます。距離無制限タイムラグ0の同時通信です。惑星リュビアで行動していても即時に通信可能です」
「惑星リュビアでもリアルタイムで通信? 無力な超AIとは……」
マットはこれから惑星リュビアに永住する予定だった。引き継ぎはパルムに済ませた。構築技士ではないが、コウの良き片腕、そしてセリアンスロープの指導者となってくれるだろう。
惑星アシアとリアルタイム通信が可能になるなど、夢のような話だ。
「MCSの機能解放は慎重に行わないといけません。プロメテウスの火はストーンズ勢力のMCSにも同時に付与されました。そこで今回、セリアンスロープ専用のクアトロ・シルエットの機能解除を行いました。正確には制限はそのまま、より大型兵装が装備できるようになりました」
「追加装甲などなくても安定性がある四脚だからな。しかしあれは……」
「コウ? 何かあったのか」
「フリギア。頼む」
コウが説明を厭ってフリギアに投げた。
「大型兵装を装備できるようになりました。ミサイル操作と同じ要領で、肩部に追加スラスターとして機能するミサイルをコウに構築してもらいました」
「待て。クアトロ・シルエットが人馬型のまま飛ぶというのか」
「はい」
ケリーの問いに、にっこり笑い返すフリギア。
「当然欠点もありますよ。小回り、運動性はガーゴイル型のほうが優秀です。ですがこの追加スラスターはミサイルとして運用します。つまりMCSはミサイルを操作して、その推力で機体を飛ばしているに過ぎません」
「しかしそれが事実なら降下、上昇は思いのままだ。人馬型の装甲、運搬能力を維持できる」
「その通りです。ゆえに
「ペガサスはアテナ由来が多いからね。納得だよ」
ウンランが感嘆の声を上げた。
「MCSのファミリア制御系統も若干いじりました。シルエット以外の兵器全般に関する権限をアップデートしました。アナライズ・アーマーの運用はより容易になるでしょう。これも当然すべてのMCSが対象ですが、ファミリアがいないストーンズには無用の長物ですね」
少し邪悪に笑うフリギア。幼女がしていい笑顔ではなかった。
「兵器関連まで? 確かに喜ばしいが……」
「ストーンズはアベレーション・アームズやシルエットという非人道的な、フェンネルOSの悪用ともいえるものを創り出しました。ファミリアたちが対抗できるアップデートは当然必要ですよね。ファミリアたちだって、人間を護りたいのですから、私だってその願いに応えたい。それは決死の覚悟をもったプロメテウスの火ではなく、理性で制御出来る兵器であるべきです」
「アップデートとは?」
「アナライズ・アーマー以外にも車両、履帯、ホバー、航空機、宇宙機全般の操縦系統全般の拡大です。従来のMCSでは元になる乗り物に制限されましたが、これからは多少無茶な構造をした推力頼りの兵器も搭乗可能になりますよ」
「また寝る時間が無くなるようなことを言う……」
嬉しそうに微笑むキヌカワ。
「戦場にはシルエット以外に戦車や支援火力も必要です。意志を奪われた人間ではとうてい制御できない、ファミリアやセリアンスロープならではの運用を想定しています」
「なんという超AIか」
トライレームでも陸上兵器を担当しているウンランが唸る。
「人間型という形状に限り、人間の第六感第七感を制御して先読み操縦できるフェンネルOSを兵器転用した場合、処理能力は過剰ともいえるもの。その一部を解放したまで」
「おかげでラニウスDも完成の見込みだ。人間とファミリアの二機一体、復座型をイメージした機体だ」
「ようやく完成間近だなぁ」
ヒョウエがしみじみと呟く。尊厳戦争はラニウスDの試験中に起きた襲撃事件がきっかけだった。
「五番機もそうだが、D型も今までのシルエットとは違う機能がついているな? 何をした?」
「私にできる範囲でのフェンネルOSの機能拡張ですよ。MCSの機能なのでストーンズ勢力のMCSにも付与されますが、気付かれるまで時間はかかるでしょう。専用設計が必要だからです」
「その専用設計とは?」
「構築技士次第です」
構築技士たちが沈黙した。フリギアの言葉を待つ。
「五番機を例にあげましょう。コウが試験的に採用した爆轟機構は、金属水素の消費が激しく、常用には向きません。爆轟駆動は消費が激しすぎて強襲飛行型の利点である大気圏内の無限飛行も不可能になっています。何より四肢の動作を爆轟制御できるパイロットなど一握りですし、そこまでの運動性能を必要とする機体も少ないといえましょう」
「そうだな。あれは剣術特化機の機構だ」
「身体操作補助としての爆轟機構は刮目に値するシステムですね。絶対性能を要求する私には是が非でも採用したい機構です」
実際に間近で見ている兵衛とフラフナグズ強化に応用できないか考えているクルトがいた。
剣を振る疾さだけではなく、所作の隙を無くすための爆轟駆動とは考えたものだと感心している。
「爆轟駆動は装甲筋肉機ではないと制御も不可能です。爆轟で手脚を振り回していると可動部などウィスがあっても耐えられません」
「装甲筋肉機なら耐えられますが…… そこまでの性能はあくまで一対一を想定したもの。戦争では必要ありませんね。個々の性能が上がることは大事なのですが」
一対一に特化したシルエットなど、兵器としては邪道であるとクルト自身が判断している。
「爆轟機構は戦争に不要とは言いませんが、ギミックを増やすことでコストが跳ね上がります。そこで私が付与した機能の説明になります」
再び沈黙が訪れる。餓えた狼のように、構築技士たちがフリギアの言葉を待つ。
あまりの熱心さに、若干引いたフリギアがいた。この人数の構築技士と呼ばれる人種に触れるのは初だった。
コウはお兄さんのようで、ヒョウエはおじいさんのような感情がある。
「今後構築される専用部品のみに対応する機能です。MCSで制御可能なシルエット専用の
「シルエット専用のオーグメンターだと!」
あまりのことに叫ぶケリー。これで新しいシルエットを一から再構築することは決定だった。
当然オーグメンターは可変機にも搭載している機能だが、可変式の制御容易なオーグメンターとなると話は別だ。
「追加装甲の原理を交換可能な四肢や脚部装甲、腰部装甲に範囲を拡大させました。フェンネルを説得することに、とーっても苦労しましたが、頑張りました。褒めて下さい」
胸を張るフリギアに、思わず拍手するアベル。他の者も続いた。
「マーリンが装備しているパンジャンドラムにP-MAXのようなオーグメンターが……」
「可能です。どのように構築するかは構築技士次第ですから当然です」
アベルの疑問に即答するフリギア。
「無力な超AI……?」
マットが二回目の呟きを発した。
「兵装関連はアテナだろう。機体根幹はヘファイトスだったよな? よくそんな機体制御系に関わる部分にまで干渉できたな」
ケリーが疑問を発する。
「そうだな。フリギア。どうやって説得したんだ?」
「それはその…… 企業秘密です。独自ルートがありますので」
目を逸らしながら答えるフリギアに、コウはようやくアシア要素を見いだした。
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いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版後書きです。
予告通り時系列を少しだけ遡ります。
フリギアの権能はフェンネル機能拡張です。無力な超AI(自称)です。
当然ながらプロメテウスの火同様、フェンネルの新機能は、すべて平等に、ストーンズ側にも適用されます。知らされないだけで。
発見、解析、運用には時間がそれなりに必要ですし、フリギアはファミリアを中心に機能を拡張しているのでストーンズにはメリットが少ないのです。
戦車と飛行機の間、重装甲ジェットヘリみたいなキワモノも創り出すことも可能なりました。当然コストは高い兵器なので、すぐに普及とはいきませんね。
トライレーム新兵器の構築、改良、生産を急ぐので急造兵器ではありますが、ラニウスD型やドラゴンスレイヤーなど研究中のものが実用可能や性能向上したものは相当数ありますね。
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