TSW-R1C Block3ラニウス爆轟駆動型
エッジスイフトとラニウスD型は制空権を支配している。地表ではエイレネが爆走中だ。
五番機を中心とするSAS部隊も出撃準備にはまだ多少の時間がある。
「ラニウスCblock3の初陣か」
アレクサンドロスⅠ戦闘用に投入した試作の
パイロットはコウと兵衛をはじめとする、接近戦を得意とするパイロットが多い。C型block3も少数生産されている。
「ラニウスC型だけで四種かしら?」
「五番機のblock3はツインリアクターに爆轟駆動を採用した。block3だけでも乗り手は八人いる」
アシア大戦、尊厳戦争、そして各地の紛争。トライレームにも数多くのエースパイロットが生まれていた。
block2は五番機のみ。試行錯誤とアップデート期間に位置付けられる。
「ジェイミーはCⅡ型ね。ネレイスはCⅡ型のほうが相性がいいのかな。バリーもそうか。パイロットは二十人弱って聞いた」
「block3は剣術特化機だからね。CⅡはツインリアクターで調整を重ね、射撃兵装にも対応した近接寄りの汎用型。バリーやジェイミーならCⅡ型のほうが運用しやすいはずだ」
block3は近接戦における運動性能を比重に絶対性能を追求したものだ。爆轟駆動は装甲筋肉採用機でなければ腕部や脚部の関節機構の負荷は激しく、損耗の可能性も高い。
装甲筋肉と爆轟駆動対応の装甲でコストはラニウスシリーズのなかでも悪い部類に入るが、戦闘機との複合であるD型やクルト・マシネンバウ社のフラグシップマシンであるフラフナグズには及ばない。
C型block3の特徴は四肢の他に、左右胸部、左右腰部に爆轟駆動として連動している。外観もさほどC型やCⅡ型と変わらないのだ。以前も補助スラスターは四肢に装備されており生産ラインの転用も容易い。途中まではほぼ同工程だ。
「C型も現役、か。CⅡとの差異はどうかな」
改修を重ねたC型が開発系統図の上位となる。今なお運動性能、機動力は現役だ。
「C型はリアクターが一基だな。強襲飛行型の生産ラインをすぐ閉じるわけにもいかない」
「そして私の新たな愛機、C型block3ベースのグロウスビークね。対アンティークシルエットにも備えた能力は頼もしいわ」
カナリーの後継機はCblock3をベースの射撃運用として特化したもの。カナリーと同じアトリ科から命名された。一機しかない、ブルー専用機だ。
和名はイカル。月日星と鳴くことから三光鳥、斑鳩という名でも知られている。
狙撃機ではなく射撃戦に特化した運動性、機動力、火力すべてを兼ね揃えた機体だ。爆轟機構は反動軽減用に調整されている。コストはCblock3よりも上だ。
欠点はCblock3を上回る高コスト。にゃん汰やアキと同じく、ブルーもまたコウが理由で狙われた経緯があり、最優先で構築された機体だ。
「パイロットの技量やアンティーク・シルエットの性能でもライムンドとアスモデルの組み合わせはそうそういないはずだ」
コウがCblock3やグロウスビークを構築した時のハードルは高かった。惑星アシアナンバーⅠといわれたアンダーグラウンド・フォース【ロクセ・ファランクス】のエースパイロットであるライムンドとその乗機の高性能アンティーク・シルエットのアスモデルだ。
射撃戦から斬り合いまで、無数の実戦データを獲得できた。装甲材では劣るが、追加装甲や火力は追随している。あとはパイロットの技量のみ。
アスモデルを仮想敵としているので、光学兵器や電熱化学兵器に十分な対策が施されており、形状や機体色もCX型の面影がある。ブルーとしては空や海に溶けるようなCX型の蒼色の機体にしたかったところではあるが、封印区画の内部では目立つ。五番機と同様のカラーリングを施してある。
「さすがウーティスね。頼もしいわ」
「やめてくれ」
本気で嫌がるコウに、微笑むブルー。
「そんなことを言っていると、またライヴラジオになるからな」
「ごめんなさい」
それだけは避けたかったブルーが、悪戯っぽく笑いながら謝罪した。お互い冗談だとわかっている。
「ボス。まず俺たちが出撃だ。――大仕事が終わったら早いとこブルーを嫁に貰ってやってくれよ」
「ジェイミー!」
ブルーが顔を真っ赤にして、その様子を楽しんだジェイミーはにやりと笑いながら、ラニウスCⅡ強襲飛行型で出撃する。
「まずは大仕事を片付けてからだな」
「本当に」
否定はしないコウの反応に満足げなブルー。
そんな二人を見守るアシアのエメが向ける視線は少し怖く、二人が気付くことは無かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「五番機、出る」
アストライアから五番機とグロウスビークが出撃し、高高度からの降下を開始する。
スカイダイビングのように機体を水平にしている。戦闘機対策だ。周囲にはブレードスイフトとラニウスD型が警戒飛行を行っている。
ラニウスCⅡ型で編成されたSAS部隊も続けて降下を開始した。ジェイミーたち先発部隊、五番機とグロウスビーク、そして背後を守るCⅡ型部隊だ。
「相変わらず派手だなエイレネは」
「封印区画の入り口はわかっている。そこから何人の敵がいるかね」
「E級でも構築技士なら入場可能だ。ありったけの戦力を用意しているだろうな」
降下中、遠距離でも確認できるA009要塞エリアの破壊されたシェルター。これほどまでに大きな穴が空いてはシェルターの役目は果たせまい。戦車どころか戦闘機さえ余裕で入ることができる。
「どれだけのアンティーク・シルエットや防衛部隊は想定不可能だ。蹴散らすぞ」
「はい!」
ジェイミーの号令に合わせ、応じるラニウスCⅡ型のパイロットたち。
惑星アシアにおけるストーンズ最大の拠点、大山脈アポスのアレオパゴス評議会本部がある【A009要塞エリア】攻略作戦が始まったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「敵の抵抗が少ないな。ビッグボス。こりゃ、内部で都市防衛戦に持ち込む気か」
「おかしいレベルだな。先に作戦を開始した他地域も抵抗は激しくないそうだ。何か罠があるかもしれない」
「それにしてもだ。この場所は別格。そうだろう?」
「A009要塞エリアはアレオパゴス評議会の本部がある。今や惑星アシアのストーンズ拠点といっていい。スフェーン大陸全土から戦闘機が飛んできてもおかしくないはずだ」
アルゴナウタイの迎撃部隊は確かに飛来していたが、数が少ないとコウは思う。アシア大戦初期の海戦では、アストライア一隻に対し数千機もの戦闘機が集中攻撃を仕掛けてきたのだ。
地上はマーダー相手にパンジャンドラムが暴れている。燃料が少なくなり、爆発するマークⅢも出始めていたが、マーダーはストーンズ管理下の要塞エリアや防衛ドームには侵入しない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、だったか。パルムに聞いたよ」
「あいつ年長者に何を教えているんだ……」
「良いたとえじゃないか。地球の歴史を感じるよ」
パルムは故事も熱心に精査している男だ。今頃になって不安を覚え始めるコウだった。セリアンスロープの学習能力を意識していなかったのかもしれない。
「実際、そういうことが必要な時もある。今がその時なんだろうな」
「そうとも。ここにあるアシアだけは死守するだろうさ。何せ
「裁判所じゃないか」
「裁判所とも討論所ともいえるな。半神半人どもがアシアをどうするか、議論していたところだ。表面上は身分差のない連中だしな。さぞや不毛な議論だったことだろう」
老齢の自分が、遂に敵の本拠地に斬り込むまでになった。
この一戦は転移者が来る以前から戦い続けてきた彼自身の矜持のためである。
「A009要塞エリアはできるだけ無力化する。ボス。ブルー、しっかりついていけ!」
「わかったわ。フォローお願いね」
地表が近付いてきた。姿勢を制御し、降下姿勢に入る。
ラニウスD型が分離し、アナライズアーマーを纏う。ファミリアが乗る戦闘機編隊は先行し、大穴から要塞エリアに侵入する。
「いよいよ、か。長いようで短かったな」
コウはこの作戦に至るまでの経緯を振り返る。おそらくアストライアのクルーも同じ想いだろう。
アシアのエメは祈るような眼差しで降下するSAS部隊を見守っていた。
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いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
いよいよ救出開始作戦です。
正式採用されたC型とそのバリエーションです。
◆C型
以前の五番機と同様の構造。リアクターは一基。やや汎用型に微調整された。
◆CⅡ型
ツインリアクター採用。積載能力はC型に劣るが機動力や出力は上。近接寄りの射撃機もしくは射撃もできる格闘機という位置付け。
多少エネルギーを喰う電熱兵器や光学兵器なら装備できるように。
◆C block3
爆轟駆動型。全身が超小型のスラスターだらけ。
外装を外して爆轟高機動型になる。接近戦での絶対性能を重視した実質の剣術機なので、戦場における戦術的な貢献度に対してのコスパは良くない。
◆グロウスビーク
C blockⅢを運動性を捨てて射撃用に改良したもの。反動の強いレールガンやDライフルなどに特化。
今回は閉鎖空間用なので装備していないが惑星リュビアの幻想兵器の廃品から創り出した長距離対応レーザー砲も専用オプションとして用意してある。
今回は機動性を落として有線ミサイルなども装備してる。
副兵装はパイルバンカーと鉈型の小ぶりで肉厚なアークブレイド。C型系ではもっとも高コストで、武装も高額。光学なだけに!(黙れ)
次回から時系列が少し遡り、ヴァーシャとの決勝直後からスタートします。
アシア救出作戦を開始するまでの経緯からスタートし、フリギアによってシルエットや兵器がどのように変革されたか、舞台裏に迫ります!
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