新星座【悪魔】座?!―衛星コンステレーション

 宇宙居住船【ブリタニオン】のなかに警報が鳴り響く。


 宇宙居住船【ブリタニオン】のなかに警報が鳴り響く。


「また何かきやがったのか!」


 苛立ちを込めて叫ぶバルド。自ら戦って死ぬのではなく、実戦も経験した事のないような子供が戦っているのだ。

 無力感を紛らわすかのようだ。


『ライラプス後方から高速飛翔体を確認しました。敵の本命かもしれません』

「ブリタニオンの中に突入可能なのか?」

『通常では不可能です。アンティーク・シルエットの熾天使級程度のスペックなら装甲を貫通されることもありません』

「熾天使級以上のものがあるってこったな?」

『ウーティスもよく存じているはず。惑星開拓時代の戦闘用シルエット――アナザーレベル・シルエットなら可能でしょう』

「可能性はある。――しかしヒトでしか動かないはずだ。ヒトとして認められたバルバロイがいるということか?」

『否と申しましょう。ヒトであるならば今回のトラクタービームによる誘引はオケアノスの禁忌に触れ、何らかの処置が施されているはずです』

「幻想兵器のように意思を持った可能性は?」

『独自行動を起こすことは極めて希です。しかし何事も例外があります。あなたの五番機のように』

「そうだな……」


 五番機もかつて乗り手がいないにも関わらず、マーダー相手に戦闘を行ったシルエットだ。それゆえに廃棄場に捨て置かれたのだ。


『しかしあえてその可能性を否定しましょう。バルバロイに――もはや機械にMCSが寄り添うなどありえません』


 あのプロメテウスが作ったシステムが、機械などに与するとはありえない事態だ。


『アナザーレベル・シルエットがブリタニオン攻略の鍵でしょうね。装甲に孔さえ空けてしまえば、大量のライラプスが内部からブリタニオンを蹂躙するでしょう』

「あの数は無茶だな……」


 何機いるか不明なほどの数だ。マーダーの群れ以上で、かつ単体の戦力は現行戦車以上だ。


『一時間もあれば到着します。こちらのレーザーは実に無力ですね』


 ヘスティアが自らの弱さを嘆く。超AIヘスティアは人間の生活を守るための炉床の擬神化がモチーフである。その特性ゆえに戦闘能力などあるはずがなかった。


『ヘスティア。聞こえる?』

『聞こえるわ。アシア』

『一時間で接敵するね。ではオイコスたちを格納して防御に極振りして。あなたの得意技でしょう?』

『羽虫如きとはいえ、ファイティングマシンに取り付かれます。このままでは【ブリタニオン】の周囲に取り付いて、惑星アシアを侵攻するための拠点にする可能性も高いのです!』

『わかっているわ。だからその羽虫を一網打尽にするのよ。一匹残らず根絶やしにしてやるの』

『何を使うのですか?』

『宇宙専用自走爆雷【悪魔】を使うのよ。性能はそこにいるウーティスに聞いてごらんなさいな』

「悪魔か。確かにあれなら……」


 コウとアシアが構築した宇宙自走爆雷だ。コウ自身も性能は理解している。

 ライラプスには有効なはずだと信じたい。


『私が託したあれで、あなた性格が変わってない?』

『ちょっとだけね?』


 アシアが冷酷に笑った。コウも初めて見る表情だった。


「ヘスティア! どんなアシアを託したんだ!」


 闇堕ちしそうとは聞いていたが、三人分のアシアを統合した形で、露骨に影響が出るとは思わなかったコウがヘスティアに思わず八つ当たりをする。


「いやー。四人目のアシア、リュビア並みに酷い目にあっていたようですね」

「ストーンズか。改めて許せないな」


 思わずコウが歯噛みする。もっと早く救出に動くべきだった。


『安心してコウ。私は私のままよ。侵略者に対する怒りが顕在化しただけだから』

「無理するなよ。アシア」

『うん! コウはそうやっていつも心配してくれるのね。――あー。羨ましかったわ。最初のわたしぃー』


 自分自身に対して嫌味を言い、通信が途切れた。


『ケアしてから渡したかったんですが、劇薬でしたね……』


 やらかしてしまったことを実感しているヘスティア。如実に後悔の感情が籠もっている。


「四人目のアシアはアシア本体にどれほどの影響を与えたんだ?」

『本人に聞いて下さい。のちほど【悪魔】の詳細を教えてくださいね』


 ヘスティアの通信も途絶えた。

 言い様のない不安を覚えるコウだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 軌道エレベーターを駆け上がる車輪の列は壮観だった。

 ホイールカバー部分が半球形状になっているが、パンジャンドラムそのものだ。

 サイズは13メートル。パンジャンドラムにしては大型だ。


「なにあれ……」

「あれが【悪魔】よ。合計72輌の【悪魔】を連続して軌道エレベーターのてっぺん――10万キロ以上の地点からブリタニオン方向へ放り投げるだけ」

「すぐに第二宇宙速度まで到達するよね?」

「よく勉強しているねエメ。惑星アシアの自転を利用するから投射時から第二宇宙速度を。ロケットで加速してすぐに第三宇宙速度も超えるわ」

「でもそれならロケットでも良かったんじゃ?」

「ロケットではダメなのよ」


 アシアは再び冷笑を浮かべる。


「あの羽虫ども。――おっといけない。これはヘスティアの表現だからね? ライラプスも秒速数十キロで動いている。そんなものをロケットミサイルで正確に命中させることはできないわ」


 今のアシアは素で羽虫と言い切ったと察知したエメ。融合していたのでアシアを理解しやすい。


「宇宙なら!」

「かつてパンジャンドラムは試作1号は16基のロケットを搭載していたというわ。直進せず暴れ回るため、開発者はジャイロを搭載するのではなく、ロケットを倍々に増やして最後は66基ものロケットを備え――さらにでたらめに転がり自軍を恐慌に陥れた。【悪魔】は72基のロケットを搭載してる」

「ゴエティアの悪魔数に合わせたんだね」

「私はギリシャ神話由来だからタロットの悪魔デビルではなく、ギリシャの精霊ダイモンが由来の魔霊デーモンを採用してゴエティアに倣ったかな。英国の歴史家オーウェン・デイヴィスによれば原典は古代中東と欧州であると述べているの。ゴエティアはフランス語の魔術書グリモワールだけど、エジプトのパピルス紙で記載されたものを古代ギリシャ語で記録した偽典にまで遡ることができるんだよ」

「アシア。やっぱり英国面に堕ちてない?」

「堕ちてないよ? 闇堕ちをいわれることは覚悟してたけど、英国面に堕ちるってひどくない!」

「ごめんなさい」

 

 少しだけ膨れっ面になったアシア。英国面は心外だったのだろう。

 闇堕ちの自覚はあるのだと安心したエメだった。


「ゴエティアはそんなに古い言葉だったんだね。【悪魔】は古い由来を活かしたものなんだ」


 話題を逸らすように悪魔の話題に戻すエメだった。


「宇宙では自在に動けることが重要よね。360度動ける球形を活かしたロケットがあること。パンジャンドラムの真価は宇宙でこそ発揮されるの。あの球状は軸が無くなれば、アルキメデス相対――三角形の72辺48面体になるように作ったの!」

「数字遊びだね。聖数3――悪魔を封じる魔方陣三角形に、1からスタートする3つある正の偶数を総乗した48。――悪魔を解き放つつもりなんだね」

「エメは頭がよいね」


 アシアが優しくエメの頭を撫でる。いつものアシアを感じるエメ。


「でも、あのパンジャンドラムの数だと足りないんじゃ」

「安心してね。【悪魔】なら大丈夫」


 安心と大丈夫を連呼されると余計に不安になってくるエメだ。

 何らかの前フリにしか思えなくなっている。


「あの72の【悪魔】は協調した軌道を描くの。【ブリタニオン】を中心に、衛星コンステレーションを形成する。星座コンステレーションだから悪魔座なんてどうかな」

「怖いよ!」

「地球から見た星にはアルゴル――アラビア語の悪魔の頭ラス・アルグルと名付けられたものがあってね。ペルセウス座のメデューサの頸にあたる部分の星。不自然に点滅する様子から最も不幸で危険な、凶兆を意味する星と言われたそうよ」

「もっと怖いよ!」

「怖がる必要はないわ。陸上で使えない兵装だもの。電子励起爆薬も搭載しているよ。金属水素以外の元素も使ってね」

「え?」

「数字遊びよ。原子番号72の核異性体を使ったの。大気圏内では使用禁止兵器だけど、オケアノスの許可も下りたしね?」


 アシアが嬉しそうににっこりとエメに笑いかける。

 笑い返していいか判断に迷うエメだった。


 原子番号72――ハフニウムだとすぐに理解したのだ。


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いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版後書きです。


悪魔の全容が判明しました。ぶち切れアシアによる衛星コンステレーション方包囲結界爆殺です。

悪魔と数字は相性がよく、数字に関連付けて意味を持たせると把握しやすいですね。

72辺48面体は出来過ぎかなと思いました。

そしてオチは例の爆弾です。手榴弾サイズで小型戦術核程度なので、一部隊程度破壊できます。


ネメシス戦域ではマヘムでおなじみのDARPAが2008年頃まで研究していました。

毎回奇想天外兵器を発案するこの米国組織ですが、インターネットの基礎であるARPANETを英国科学者ドナルド・ワッツ・デービスのパケット交換(通信)をもとに大学と造り上げ、

GPSなど我々の日常にも関わる発明をしていたりします。


急展開続きますよ! 七巻の執筆がんばります!


応援よろしくお願いします。




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