パンジャンドラム48―災厄の具現3456
『接近物体を確認。アナザーレベル・シルエット【カラヌス】です』
『超AI用ではありません。人間用に製造された量産型の一種といえましょう。
「神様の血は引いているレベルにあるってことだな」
『ご明察です。かのモチーフはヘラクレスのひ孫である、小アジアの王が由来ですね』
「ヘラクレスの末裔だと!」
『超AIゼウスに、もしくは反逆した超AIに選ばれし者に与えられたアナザーレベル・シルエットは王たる素質を持つ者。すなわちギリシャ神話に由来する王の名を冠しています。その戦闘力は惑星開拓時代の宇宙戦艦を上回ります』
「知っているとも!」
アナザーレベル・シルエットであるアーサーは、携行型陽電子砲で宇宙戦艦の残骸が元となった幻想兵器セトを破壊した。
『本来の能力なら【ブリタニオン】さえも破壊可能でしょう。減速し、外壁に攻撃を仕掛けています。ヘルメスが持ち込んだ遺宝が目的だと思われます』
淡々と状況を詳細に報告するヘスティア。もはや感情豊かな超AIではない。
『カラヌスは表面装甲突破。第一内壁破壊中。表面装甲の緊急隔壁展開。内部防御隔壁及びトラクタービームで対処――時間稼ぎにしかならないでしょう。目的地はおそらくブリタニオン中枢付近の広場、あなたたちがいる場所です』
「闘技場に来るってか!」
バルドが悲鳴を上げた。宇宙戦艦を破壊するシルエットなどはどう考えても対抗できない。
「コウ君。正直に答えてくれ。万に一つでも勝てる可能性はあるのか?」
兵衛が切り出す。
「俺が倒した相手は人間が搭乗しておらず半壊でした。その上、五番機の追加装甲も光学兵器対策に全振りしたものであり、攻撃が通った部位も半壊した部分を狙ったもの。通常なら勝ち目はないでしょう」
「無理か」
「しかしパイロットがバルバロイであり、何らかの抜け穴を使用していた場合、万に一つぐらいならあるいは……」
希望的観測としかいえないが、何か手はあるはずだと信じたいコウ。
『ブリタニオンを破壊しないよう手加減はしているようですね。もって一時間程度でしょう』
「そこまで持ちこたえることができるのか。ブリタニオンは……」
『シルエット一機も防げない無力な居住船ですよ。穴が空いた部分は、羽虫たちが突撃してきますね。侵入は時間の問題でしょう。ですが私は諦めません。オイコスたちのためにも』
悲愴な決意を固めるヘスティアに、アシアから通信が入る。
『ヘスティア。あと少しだけ持ちこたえて。【悪魔】をそちらに飛ばした。じきに到着するわ』
『パンジャンドラムで何ができるというのですか?』
怪訝な様子を隠そうともしないヘスティア。自走爆雷といえば、トンデモ兵器だ。いくら惑星アシアで活躍したといっても、宇宙では無力であろう。
『まだコウから聞いていなかったのね。殲滅するんだよ。まずは周囲の掃除。そのあと宇宙要塞をぶっ潰すわ!』
『宇宙要塞をぶっ潰す? 何を言っているのですアシア!』
『問題はコウたちをどう救助するかだね』
『質問に答えなさい!』
『今から【悪魔】をコントロールするから。またあとで』
『もう! アシアったら!』
もったいぶるアシアに苛立ちを隠せないヘスティアだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
72基のロケットを備えた【悪魔】が宇宙空間を連なっている。転がってはおらず前進するのみだ。
ブリタニオンがある宙域に到着すると、同時にロケットが噴射して、拡散する。
惑星アシアから飛来するパンジャンドラムに気付いたライラプスが迎撃を試みるが、彼らの予測を上回る速さと不規則さで宇宙空間を飛び回る【悪魔】を補足できない。
「みて。エメ。ライラプスも戸惑っているわ!」
「うん。追い切れてないね。あの程度の出力しかないレーザー砲も効かないし」
ネメシス戦域でパンジャンドラムが実用化された理由こそが高次元投射装甲の採用だ。
多少のレーザーは跳ね返し、質量兵器としても作用する。
「今からブリタニオンを中心とした衛星コンステレーションを形成する。マーリンシステム――今の私だと実に馴染むわ」
迂闊にも近付いたライラプスは【悪魔】に跳ね飛ばされ、必死に姿勢制御を行っている。
『ヘスティア聞こえる? ブリタニオンを中心に衛星コンステレーション【悪魔】を72辺に配置。48面体形成完了。一掃するわ』
アシアがブリタニオンにいるヘスティアに通告する。
『なんですか! このアルキメデス相対を形成した魔方陣じみた六方八面体は! ウーティス。【悪魔】は本当に大丈夫なんでしょうね?』
ブリタニオンを中心に不気味な48面体が生まれたのだ。動揺を隠せないヘスティア。
「宇宙用の
『何故パンジャンドラムが六方八面体48面体を形成する必要があるのですか?』
「【悪魔】は破片調整弾を応用した爆雷だ。球形を形成し、内部にいる外敵を攻撃する。ブリタニオンなら平気なはずだ」
『本当にそれだけですか?』
ヘスティアが問いただした瞬間、ブリタニオンが大きく振動した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
連続で点灯する
星の煌めきを一箇所に集めたような――
そんな幻想的な光景だった。
「綺麗でしょ?」
アシアが隣に座るエメに笑いかける。
「綺麗だけど…… 爆発は72個どころじゃないよ? どんな悪魔だったんだろう?」
「一輌につき48個もの電子励起爆薬が同時に炸裂しているからね。電子戦対策は施されているとはいえ膨大なガンマ線でライラプスの制御中枢も破壊して破片の速度は秒速200キロを超える。たとえウィスが通っていなくてもファイティングマシンなんて瞬殺だよ」
「3000個以上の電子励起爆弾が秒速200キロ超えでライラプスを襲ってるの?」
「これが72×48の【悪魔】。口に出してはいけない災厄の具現3456――連番になるんだよ」
エメは虚ろな瞳でモニタに映し出される宇宙空間をみた。
同時に爆発は起きていない。時間差で爆発が起きている。そうなるように今のアシアがマーリンシステムで操っているのだ。
「一網打尽、か」
「ブリトマルティスの別名ディクティナは網の女神。アルテミスの別名として神格化されたのね」
「ギリシャ尽くしだね。マーリンというよりはソロモン王みたい」
「ソロモン王いいよね。動物を話す指輪を持つソロモンならファミリアがいる私達にはぴったり。ソロモン王が神から託されたといわれる
「でも電子励起爆薬入りのデブリを撒き散らすことになるんじゃ?」
「大丈夫。時間経過で爆発するから塵一つ残さないわ。対小型幻想兵器用自走爆雷【悪魔】を解放したんだもの。当然だね」
無数ともいえるライラプスが、ほぼ姿を消していた。
直撃を受けなかったものも融解、もしくは発生した爆発に吹き飛ばされたのかもしれない。
「ライラプスが壊滅した?」
「そうなるといいね。討ち漏らしはあると思うよ。計算はしているから、そんなにないはずだけどね」
「そ、そうなんだ」
声が震えるエメ。一切の容赦がないアシアだった。
「エメ覚えている? 3456が暗示する数字はナッラヴィー――スコットランドの水妖を模した化け物という創作もあるみたいだね」
「覚えているよ! 異様に気持ち悪いアレ…… 英国かぁ」
「スコットランドだよ。どうでもいいかな。問題は――」
宇宙からみたブリタニオンがモニタに映し出される。
「侵入中のアナザーレベル・シルエットか。これだけは私も手出しできない。ヘスティアの力がどれほど残っているかにかかっている」
「え?」
「ヘスティアだって万全にはほど遠い。意識があるだけで、最悪ヘパイトスの残骸――ポリメティス以下かもしれない。超AIの権能が残っているなら私に隠れてブリタニオンを降下なんてさせていない」
「何故だろう……」
「今の惑星アシアが見ていられなかったから、かな。人々の生活を守る役割を持つ超AIヘスティアには耐えられなかったのかもね。パイロクロア大陸の人々もアシアに見捨てられたって口々に言っていたでしょう?」
「でも囚われたアシアは放置されていて! 助けようともせず見捨てられたなんて!」
「彼らにとって超AIは縋る者、祈る者であって、救済するべき存在ではないんだよ。その解釈なら囚われた時点で私に存在価値はない。――でも転移者は違う。彼らを呼ぶことに同意したオケアノスの真意はそこにあったかもね。さすがは人々の生活を守る女神を模した超AIよ」
アシアにアベルから通信が入る。
「例の宇宙機が完成したようですな。私が乗り込みますぞ」
「何を考えているのアベル。無茶よ」
「私が構築したものです。かの方々は私の大切な友人なのですよ」
穏やかに微笑むアベルに、アシアはそれ以上反論しなかった。
「頼んだわ。【悪魔】が消滅後、貴方を宇宙に飛ばせます」
「お任せあれ」
こんな非常事態でも優雅に紅茶を楽しむ紳士であった。
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カクヨム版あとがきです!
アシアの数字遊びもこれでおしまいです。3456は有名なシークレットファイル財団の共同創作が元ネタです。
48は…48面体になったのでとくに意味はありません。
『もしあなたに突然、挙動不審(物理)で個性溢れる48のパンジャンドラムが突如現れたなら……!』
これ以上書けない……! 私には無理……!
そろそろカクヨムコンにも備えないといけないですね。読者選考を通過したことがありませんので頑張らねば!
そして新たな脅威である完動品のアナザーレベル・シルエット。本来バルバロイは稼働させることすらできないはずですが……
敵パイロットの名前は次回明らかになります!
次回、ブリタニオンの襲撃者が明らかに!
応援よろしくお願いします!
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