新たな脅威、その先に
テウタテスの登場に構築技士も動揺を隠せなかった。
腕が四本あるシルエットなど、MCSが稼働するはずもない。
「テウタテスに関する資料を作成しました」
アシアのエメは忙しいコウに変わり、プロメテウスの情報をまとめていた。 コウに確認を取り、開示判断は任されている。
アストライアの戦闘指揮所からから通信で会議に参加だった。
「リュビア遠征組――プロメテウス降臨時に居合わせた連中は知っていたということか」
重要な情報が知らされず、不満げなケリー。
「惑星エウロパのサイボーグパイロットにフェンネルOSを使わない人型兵器。まさかこんなに早く私達の前に現れるとは思わなかったもの」
アシアのエメとしても動揺は隠せない。まさかヘスティアが鹵獲していて、地下試合用の見世物として運用しているなど思いも寄らなかった。
「ヘスティアが我々に見せたいもの。それはあのワーカーなどではなく、テウタテスとその次に登場する兵器ですね」
ウンランが睨み付けるようにテウタテスに視線を注ぐ。現行のシルエットより巨大なサイズ。装甲はそれなりに厚いだろうか。
危惧すべきはパイロットだ。飲み食い排泄もせず、脳まで機械化され感情を制御できるサイボーグ兵士など理想のパイロットだろう。
「この資料を見るとバルバロイとの交渉は早計だな。俺たちもこの惑星アシアで手一杯だ。過剰な情報だと判断したことは正しいぜ」
ケリーは唸る。エウロパが無人の惑星であるという事実。ヘルメス寄りのサイボーグとの交渉も危険であろう。
「ヘルメスとは戦略的互恵関係にあるというべきでしょう。共闘段階には至っていないと」
クルトも分析している。いまだ惑星アシアでテウタテスが投入された事例はない。
「それでもこのI908要塞エリアには持ち込まれていた。そしてヘスティアが奪い取ったということね。脳まで機械化している彼らにとってヘスティアの結界内では為す術もなかったはず」
「意識を機械に落とし込んだわけだろ。ストーンズとは似て非なる結論だが、フェンネルは応じない。ゆえに
A級構築技士たちの思考は一つ。
仮想敵としての兵器テウタテス。フェンネルOSを介在しないという兵器は未知の分野だ。
「プロメテウスはスプリアス・シルエットと呼称した。シルエットを参考にした兵器であることには違いないだろうさ」
「そうですね。四本腕のシルエットとどう戦うか。兵衛たちの戦闘に期待されるところです」
「クルトさん。うずうずしていますね」
「できることなら私が戦いたかった……」
ウンランがクルトを見かねて声をかける。
この三人のなかではクルトが実際にテウタテスと戦い、体験してみたい気持ちが強いのだろう。
「気持ちはわかりますが堪えてください」
「わかっていますよ。まずは三人の試合を観察しないと。彼らに勝利してもらわねば、その先も見えないでしょう」
「そうですね。エウロパにテウタテスがどれぐらいあるのか。普及しているような兵器なのか。それさえもわからないようでは……」
突如立ち上がったケリーが渋面を作り吐き捨てる。
「エウロパからあの連中が攻めてくる可能性もあるってことだな。アシア」
アシアは首肯し、ケリーの意見を認める。口に出したくはないのだろう。
「ストーンズと協力関係にあれば、ないとはいえない。プロメテウスも推測はしていたの。【エウロパによる植民地支配】と」
ウンランとケリーがうんざりしたかのように顔を覆う。
それは地球の歴史を想起させるもの――
「地球の歴史に倣うなら、当然ありうるだろうさ! ギリシャは世界を起こし、ローマは世界を支配した。ヨーロッパ各国の起原。エウロパは欧州の語源だな!」
「彼らは欲しがった。ユーラシアのみならず、他大陸も」
ウンランがいう歴史にある通り。大航海時代より先、彼らは競うように他大陸に進出して勢力を拡大していった。
「そして技術も先行しているなら。惑星アシアは魅力的でしょう。何せエウロパには人間がいないのだから。ヘスティアの警告と受け取っておきましょう。これは兵器固有の性能の話ではない。三人制。代理戦争だ」
クルトも同様の思考に至ったようだ。
欧州。地球の西暦はユーラシア大陸西方、欧州が主流だったといってもいい。功罪はともに大きく、個人の解釈によって大きく異なってくる。平和だったとは言い難い。
「フットボールのようなものですね。しかし…… これはストーンズ戦力としても未知の領域。ヘスティアに感謝しないといけない」
「確かにレポートにか書けない極秘事項だな! キヌカワとネジが飛んだBAS社のパンジャンが知ってるだけってことか!」
「せめて名前で呼んであげて……」
アシアのエメが力無く擁護する。
「今回もただの物見遊山では済みません。私もあらゆる限りのデータを取りましょう。兵器解析はケリー。戦闘面の技術に関してはクルトさんにお任せします」
「おう! 任せろ!」
「承知いたしました。四本腕。単に腕が四本あるだけなのか、効率的に作動しているのか。見極めましょう」
『エイレネはヘスティアのサポートに回り不在のようです。私も参加致しましょう』
「アストライア! 助かるぜ!」
三人の構築技士たちは、未知の危機を感じ取り緊迫した面持ちで詳細を詰めるため会議を開始した。
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