錯乱疑惑
コウと兵衛はバルドのもとへ戻り、ワーカー戦対策を話し合った。
「俺はお前らと違って移動拠点なんかないからな。今の機体でいくさ」
「俺たちもだよ。ワーカー相手に改修なんざできるかっての」
兵衛の言う通り、装甲材は違えどやはりワーカーである。
対策したところで違反ではないが、彼らの矜持がそれを許さない。
「対策があるっていってたな。コウ君」
「おい。俺にも聞かせろ」
兵衛に話を振られたコウは頷き、対ワーカー戦術を話すことにした。
「対策ってほど立派なものではないんですが。あのワーカーは既存のシルエットと比べても相当重いはず。未知の装甲材質ですが、見た目より質量があるんです」
「ん? どんなに重くても30トンは切るだろ?」
バルドも構築技士のはしくれ。シルエットのスペックは頭に叩き込んでいる。
「戦闘用ではないにしろ、おそらく倍はあるんじゃないか。60トンはあると見ている」
「なんでえ。装甲材質にタンタルかレニウムを使っているのかってレベルだな」
「より安価で、それらの物質以上の装甲材ということです。似たような兵器はいくつか見たことがあるので」
幻想兵器戦ではアーサーとウリエルの戦いを間近で観戦しており、コウ自身ヨナルデパズトーリを倒している。
ウリエルは圧倒的なウェイト差によって敗北したともいえる。
「剣術、剣道でも身長差や体重は影響する。体格が大きいほど有利。戦車だって技術格差なく同水準の技術なら重量があるほうが装甲は厚い」
「お前らの母国は柔よく剛を制すっていうじゃねえか。柔道だっけ」
兵衛に対抗するためとはいえ、もはや日本の武術マニアと化しているバルドである。
「よく知っているなバルド君。しかしその続きもちゃんとあってな。剛よく柔を断つ、って続いているのさ。実際ウェイト差があるからこそ柔道でも階級はある。無差別級で小柄なヤツはまあ例外中の例外だな」
「そこらへんはヴァーシャが達人だと思うが……」
システマを使うヴァーシャは格闘技への理解は誰よりも高いだろう。
「とはいっても格闘技じゃないからな。シルエット戦は」
「俺はシルエットに似た兵器同士の戦いに巻き込まれてな。DDTを使おうとした機体が相手の機体に
「DDTってプロレス技じゃねえか! 浮落は柔道だろ? コウ。お前、パンジャンドラムの作りすぎで悪い夢でも見たんじゃないのか?」
コウが錯乱したかと本気で疑うバルド。苦笑で反すしかないコウであった。
「俺もそう思う。何か悪い夢だったんじゃないかなとね」
巨大艦の幻想兵器がキャメルクラッチを仕掛けたなどと説明する気は起きない。
それこそ錯乱疑惑が強まるだろう。
「俺だって聞いたときはにわかに信じがたい話だったからなぁ……」
「しかしバルドがいった通りだ。シルエット戦は格闘技戦ではない。相手は作業機で武器としてのチェーンソーは取り回しも悪い。基礎技術や重量差があるとはいえ、俺たちは戦闘用に特化されたシルエット。そこに勝機がある」
「なあコウ。あのワーカーもどきとは戦ったんだろ? てめえらのDライフルは有効なのか?」
「あまり有効ではないだろうな。斬撃も同様だ。しかし衝撃は殺せないといえばわかるか? そしてワーカーの基本設計は変わっていない。外装厚もね」
「おう。そういうことか。色々なパターンが考えられるな」
「確かに対策はいくつか考えられるぜ」
各々が現在の機体を用いてのワーカー対策を考える。
コウの語った内容には、攻略のヒントが隠されている。
「おっといけねえ。コウ。すまねえな。ヴァーシャに報告せねばならん案件だ」
「別に大した話はしていない。大丈夫だ。通信なんて可能なのか?」
「バーンの検閲を受けたメールなら、ストーンズにも送付可能だ」
「検閲はあるんだな。どこが削除されたか不明な点が恐ろしい。ワーカーの件は?」
どのみち特異なワーカーは事前に戦ったことがあるバルドから報告がいっているはずである。
「当然送ったさ」
「検閲されてないといいな」
「そういうことか!」
開拓時代に連なるワーカーの話など、バーンが許すはずもない。
「まずいな」
「連れ戻されるか」
「違う。――ここへまた来る可能性が高い」
「うん。そいつぁ色んな意味でまずいな」
兵衛が思わず苦笑いだ。
ヴァーシャまで来たら一大決戦が始まりかねない。
「バーンがなんとかしてくれることを祈ろう」
コウもそういう返答することがやっとであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「休暇願? どういうことだヴァーシャ」
ヴァーシャから受け取った休暇願いを怪訝に思うヘルメス。
少なくとも彼と違って人生を謳歌するタイプではない。休暇願いといっても構築に関することだろうと思う。
「I908要塞エリアから再び招待状が届きました。アシアの騎士以外にもA級構築技士が集結しているとのことです。私も行かねばなりません」
「君が行く必要もないだろう。バルドと言ったっけ? どういった理由かは知らないがアシアの騎士とTAKABAの会長とチームを組んでいるんだろ」
そんなことで怒るようなヘルメスではない。むしろそのレポートに胸躍らせている張本人である。
「そこなんです。バルドからシステマの術理を概要でいいので教わりたいと」
「君の格闘術か。半神半人のポリュデウケスなら理解するところだろうが。ところで何故シルエットにシステマが必要なんだ? 君が使うならともかくバルドまで」
スフェーン大陸を掌握した半神半人のポリュデウケスは格闘術に長けているB級構築技士の肉体であった。
ヘルメス自身も肉体の補正もあって格闘術は達人の域に達する。
「アシアの騎士によるとシルエットに似た兵器が格闘技を使ったという話がでたそうで」
バルドが記載可能なことはここまでだ。DDTという意味深な言葉が一言だけ書かれていた。シルエットが使って良い技ではない。
システマを修める身としては聞き捨てならぬ情報だ。コウとの接触も検討しなければならない重大案件である。
もしこの事実をヴァーシャに隠そうものなら、バルドが物理的に殺されかねない。格闘術に関してだけは詳細なレポートを提出していた。
「格闘技の三要素。打つ、投げる、極める。シルエットで行う必要があるとも思えないけどね」
「必要な事態もあったようですね。バーンからはエキシビションマッチでアシアの騎士との試合をセッティングしたとか。当然参加します。これは私闘になりますので、休暇をいただきたいのです」
「そうか。バーンか。だいたい正体は察しがついてきたよ。ぼくも行こうかな」
「……それは駄目です! 半神半人のシステムを運用しているヘルメス様は、処理能力が著しく悪化します!」
「戦闘をしにいくわけじゃない。この体があれば十分さ。コンサートを開きたいんだ。もちろんトライレームとことを構えることはないし、偽名を使うよ」
真剣な目でヴァーシャを見詰めるヘルメス。
――ヘルメス様は本気だ。
ヴァーシャの背筋に戦慄が走る。
「しかし、名目が……」
「君の応援楽団ということでどうだろう。専属バンドだ!」
「駄目です」
「君もそういうところでは頑固だな! いいじゃないか! 知っているよ。フェアリー・ブルーがコンサートするんだって! ぼくだってやりたい!」
だだをこね始めるヘルメス。
「……どこからその情報を……」
呻くようなヴァーシャ。隠したかった事項の一つだ。
「ぼくが諜報系の超AIだってことを忘れていないか?」
呆れるようなヘルメスであった。
「失言でした」
「気にすることはない。しかし、さすがにI908要塞エリアの略奪者に関しては情報も集まってきた。名前からしてどうして気付かなかったのか。あれはヘスティアだな」
「ヘスティア? オリンポス十二神であったというヘスティアですか」
「ネメシス星系でも元、だよ。炉床の女神であり、英語にするとBurnという意味だ。ぼくとも多少因縁はある。脅威ではないけどね」
「脅威ではないという意味は? 我らからI908要塞エリアを強奪した手腕は優れていると思いますが」
「モチーフとなった女神に戦闘の逸話が一切ないからね。戦闘能力が皆無なんだよ。人知れず場所を奪うことがせいぜいだ。場の神ではあるからね」
「そういうことですか」
「というわけでぼくも行くよ! これでも構築技士なんだ。資格はあるだろう?」
「理由になっていません。おやめください!」
万が一アシアとばったり出会おうものなら一触即発どころではない。
ヴァーシャは必死になってヘルメスを引き留めるのだった。
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