決勝トーナメント8チーム制

 アストライアの一室。

 神妙な顔付きの鷹羽兵衛がいた。モニタの前で正座している。


「会長。今回のことは本当に反省してくださいよ」

「わかったよ。反省しているっての」


 幾度となくやりとりされた問答。

 TAKABA社長川影に説教を受ける兵衛だった。


「ええ。これ以上、私からは申し上げません」

「本当かい!」


 兵衛が顔を上げ、喜色を浮かべる。

 川影にしては珍しい短さの説教である。


「はい。それはもう」


 川影がにっこり笑う。


「私以上に物申し上げたい方々がいらっしゃいますからね!」


 扉が開いた。

 兵衛の顔がひきつる。


「よぅ! ヒョウエ! 無茶してんな!」

「さて、何から話しましょうかね? で、いつ私と試合します?」


 ケリーとクルトが先陣を切る。


「キヌカワ氏からも伝言というか、お小言があるからね」

 

 ウンランが苦笑しながら宣告した。


「では私はこれで」


 川影が無情にも通信を切る。


「て、てめえ! なんだこれは!」

「なんだではありませんよ。一人で勝手にこんな場所に飛び込んでおいて。ああ、彼も連れてきました」


 クルトの視線の先ににゃん汰とアキに連行されてきたコウがいた。悲しそうな瞳で兵衛に視線を飛ばすコウ。

 背後にはジェニーがいる。


「トライレーム幹部として私が出席ね」


 アストライアたちとは別系統の事案ということであろう。幹部二人無断外出、失踪は重大案件だ。方や組織トップ、方やA級構築技士なのだ。

 立場をわきまえさせるべく、一同が集結したといっても過言ではない。


「お二人にはたっぷりと自覚してもらわないとね」


 法廷の裁判官はクルトであった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 数時間にも及ぶ説教の後、二人はようやく解放された。

 ジェニーと三人の構築技士は兵衛の身柄に関して協議する

 結局のところ兵衛はアストライア預かりということで落ち着いた。罪人のような扱いであるが、神妙にする兵衛。この上エイレネにまで連行されたら針のむしろである。


「だ、誰だ。こんな恐ろしいどっきりを仕掛けやがったのは……!」


 思わずぼやく兵衛。どっきりというところが加齢を感じさせる。

 心臓に悪いどころではなかった。


『アベルとエイレネです』


 モニタにアストライアが現れ断言する。


「相変わらず容赦ないな! あの二人!」


 コウが唸る。あの二人なら然もあらんとは理解するが、本当に効果的なサプライズを仕掛けてくる。


『バーンの結界内で良かったですね。本来ならバリーとリックが参加するところです』

「そ、それは……」

「アストライア。結局のところバーンの正体に関してはヘスティアということでいいのだろうか?」

『そうだよ姉さん。接触したんでしょ?』

『そうですね』


 アストライアは何かを諦念したかのように宣言した。


『皆さんの背後にいますよ。本人が』


 一同がびっくりして振り返ると、伊達眼鏡にブレザー姿のヘスティアがそこにいた。

 奇妙な出で立ち、そしてまさかの本人登場に一同が硬直する。


「皆様おいでませ! 高名なA級構築技士を私どもは歓迎いたします! 私がバーンことヘスティアです。以後お見知りおきを!」


 唖然とする一同に、正体を知っているコウとジェニーは苦笑するだけだった。


「遂に我々がオリンポス十二神レベルと接触することになるとはね」


 感慨にふけるウンラン。ネメシス星系の成り立ちに関わる存在が、彼らの眼前に姿を現した意味は大きい。


、 なのでお気になさらず。エイレネちゃん、こっちにいらっしゃーい」

「私、なんでビジョンで呼ばれてるのかな?」

 

 ヘスティアの隣にエイレネがビジョンで出現した。


「ヘスティアとエイレネ、ウェスタとパクスはいわばセットのようなもの。いわばバディですね! 初対面ですが!」

「勝手にバディにしないでね?」


 阿吽の呼吸とはまさにこのこと。二人の息はぴったりだと思う一同。


「まずは皆様とはご歓談をば。エイレネちゃん、サポートよろしくね!」

「一方的な情報共有はやめてね、ヘスティア!」


 どうやら今までの経緯を無理矢理流し込まれたらしいエイレネ。

 処理能力ではまったく敵わない。


「平和に関することだし? 確かに悪い超AIヒトではないから協力はするけどね。サプライズ大好きみたいだし」

『あなたたち、本当に似たもの同士です』


 うんざりした顔を隠そうともしないアストライア。


「とりま、現状をお話しましょう!」


 ヘスティアとエイレネの超AIによる構築技士への経緯の説明が始まった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ヘスティアの説明が終わり、彼女は忽然と消え失せた。

 事前にアシアのエメやアストライアと話したことが中心であったが、新たな情報もあった。


「これからヒョウエたちはヘスティアの用意した試練と戦うことになる、と」


 ヘスティアからもたらされた新たな情報とは、コウたちが参加する闇試合に関してだった。


「本決勝トーナメント進出5チームと、ヘスティアが用意した兵器との対決をしてもらい、決勝トーナメントの8人チーム制。ごく普通のルールではあるんだが……」


 コウもその内容に困惑した。


「俺達は一回戦を勝ち抜き、他チームが全員あのワーカーに敗北しちまったらしいからな」


 本来なら八チームが優勝を目指してトーナメント式に勝ち進む形式。

 ベスト4にでも進出すれば莫大な賞金が貰えるはずであったが、開拓時代のワーカーに対抗できるチームはいなかったようだ。


「最初の試練であのワーカーですか。ならばトーナメント上位には何がでるやら」

「オレはてめえらに賭けるからな。負けるんじゃねえぞ!」


 ウンランが唸り、ケリーがコウにハッパをかける。


「一点張りはよくないですよ」


 コウは苦笑するしかない。機体もそのまま。あとは相手の対応次第だ。


「しかしおかしな話だ。バルドによると前回まではバーンが用意した機体は三回戦以降という話だぜ。棄権して確実に賞金を取るヤツもいたらしいからな。今回は俺たちだけ同じ予選通過同士の対戦。異例尽くしだし、何より容赦がねえ」

「参加チームのほとんどが一回戦敗北など、興行的には盛り上がらないでしょうね」


 ヒョウエがバルドからの情報を話し、ウンランも興行的に奇妙な点に気付く。アシアのエメも同意した。


「あれほど興行を盛り上げることに命を賭けているバーンが、あえてコウたちのチームだけを戦うようにしたのかな。構築技士招待も合わせて、その可能性は高いね」

『ヘスティアが構築技士たちに見せたいものこそ、地下闘技場の結果、その先にあるのでしょう。私達も観戦ではなく、より詳細な分析を行う必要がありますね』

「見せたいものって何だろうね。開拓時代のものまで引っぱり出して」

『そこは元十二神。単なる余興の類いではないことは確かです。バルドも構築技士。彼を含め構築技士チームに、トライレームのA級構築技士が勢揃いの状況を作り出したのです。何らかの意図が隠されていると思って良いでしょう』

「俺達が組むことになった経緯は本当に偶然でヘスティアから文句を言われたんだが。その偶然さえも仕組まれていた可能性も?」

『ないとは言い切れません。そしてあのワーカー対策ですよコウ』

「そこは抜かりない」


 コウが断言する。アストライアは満足そうに頷き、それ以上言葉はなかった。


「なんでぇ。コウ君。俺は聞いてねえぞ!」

「あとで話しますよ」


 兵衛が口を尖らせるなか、コウは苦笑して返すのみだった。



 

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いつもお読みいただきありがとうございます! 


ネメシス戦域の強襲巨兵⑤『アシア大戦後篇・都市殲滅侵攻に決死の徹底抗戦!』が5月27日に発売決定いたしました! 来週には予約開始となります!

皆様のおかげでアシア大戦も後篇まで続刊が出来ました。そしてもう一点お詫びです。

分量が厚すぎて最後まで収まりきらなかったのです……! ここはいにしえのジュヴナイル小説に倣い最終刊は「完結編」とし、鋭意作業中です!

ここまで続刊できたこと、読者様、購入者様に心より御礼申し上げます!


本編はA級構築技士たちとコウ兵衛が合流しました。

ヘスティアが構築技士を集めて何かを画策していることは確実。当然の如く巻き込まれるエイレネ。パクスとウェスタはセットだからね! 仕方ないね!


応援よろしくお願いします。




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