りぞーとばけーしょん!

「はーい。ブルー。その角度で笑顔!」

 

 撮影カメラマンであるメスのウサギ型ファミリアが、透き通る海の上に立つ水着姿のブルーを撮影している。

きわどくない範囲で白のオフショルダービキニを着ている。美しい青髪に白の水着はよく映えていた。


 肩やうなじのラインが輝くように白く、胸に大きなリボン風のクロスデザイン。ポーズ指定に辟易しながらもなんとかこなす。

 ブルーは笑顔が苦手だ。なんとか口の端を笑みの形にすることが精一杯。


「ブルーに笑顔なんて無茶振りもいいところね」


 同じく水着姿にガウンを羽織り、サングラスをかけているジェニー。トロピカルジュース片手に視察していた。

 撮影に合わせるべくハルモニアで一足先にやってきていたのだ。

 人工の青空が広がり、透き通る海水。まさに理想のリゾート地といえる観光地に気分を良くしている。


「このままアー写用も確保するようにね。ベッキー」


 アー写。アーティスト写真の略。音楽媒体のジャケットに用いるためだ。ダウンロード販売ではあるが、水着姿のブルーなら売れるというジェニーの判断である。

 ブルーはこの後コンサートも控えている。その音源を用いて販売するのだ。バーンとの契約もすでに済ませてある。


「おまかせを!」


 カメラマン担当のウサギ型ファミリアのベッキーが請け負う。フェアリーブルーの撮影など大変名誉ある仕事である。

 指定事項はただ一つ。青と白のパターン背景禁止のみ。この美しい海岸沿いにそんな背景は不要。

 ビッグボスの命令により、撮影現場には女性、メス型しか入れない。もし入れる者がいるとしたらビッグボス本人のみだ。


「バーンには感謝しないとね。ここは確かに観光名所になるリゾート地になるでしょう」


 撮影スタッフはネレイスやセリアンスロープたちも水着姿で忙しなく働いている。

 これが終わればそのままこのリゾート島で休暇となるので彼女たちも気合いが入っているのだ。


「こんにちはジェニー。撮影は順調のようね」


 そういった傍からバーンのビジョンが現れた。ブレザーに眼鏡という姿は変わらない。


「おかげさまで! ブルーの笑顔が見れて嬉しいわ」


 そのブルーから憎悪の視線を送られているのだが二人は気にしない。


「はい。ブルー。今度は片手をあげてポーズをとって、笑顔ね」


 咄嗟に指示を入れるビッキー。指示通りにポーズを取ってしまうブルーである。


「手が抜けないブルーがちょっと可哀想だけどね! 良い記念になると思うわ」

「そうですね。あと一時間もすれば五番機がきますよ」

「え? それは朗報ね。あの子も会いたがってるわ。――ブルー! あと一時間程度でコウ君がくるってー」


 その言葉を聞いたブルーの表情が凍り付く。

 そして水着姿には似つかわしくない邪悪な笑みを浮かべる。同様の笑みを浮かべている撮影を終えたアキとにゃん汰に視線を送るのであった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 五番機は指定された島へ移動した。

 後部座席にはヴォイが窮屈そうに座っている。


「よくついてくる気になったな。ヴォイ」

「逃げた後のほうが怖いからな」

「それもそうか」


 ヴォイは後々のことを考えて付いてきたのだ。


「えーと。この区画からだ。もう気付いているかな」


 海岸の光景が映し出される。


「うわ」


 いささかコウには目の毒といえよう。

 水着姿の女性しかいない。


「きっついな」

「男なら喜ぶところだろう」

「女の園そのものだろ。むしろ気まずい」


 女性の中で男性一人は存外辛いものだ。

 コウが抵抗感を示したのも束の間。


 撮影中であろう水着姿のブルーが五番機を見つけ、笑顔で手を振っている。

 手招きしているようだ。


「あれ。怒っていないのかな」


 笑顔のブルーに安堵するコウ。


「罠としか思えないがな……」


 ヴォイがそっと呟くが、コウには聞こえない。

 五番機がブルーの音声を拾う。


「コウ。早くきなさいよー!」


 コウは若干悩んだが、向かうことにする。


「リゾート地でのバカンスで、機嫌が直った可能性もあるな!」

「ねぇよ」


 変なところで楽観主義のコウ。彼に訪れるであろう惨劇にヴォイは震える。

 五番機のコックピットハッチを開け、外にでるコウ。

 

 機体から下りると、手を振りながらブルーが走りよってくる。

 白い砂浜に透き通るような海。浜辺を走る美少女は絵になる。


 コウもはにかみながらブルーに走りよった。

 ブルーは一気に加速し――


「とぅ!」


 ブルーはコウに飛びかかり、腕を首に巻き付け砂浜に押し倒す。

 したたかに背面を砂浜に打ち付けるコウ。


「ぐぇ」


 突然の奇襲と背中から倒れた衝撃に呼吸が止まる。


「容疑者確保! アキ! お願い!」

「はい!」


 物陰に潜んでいたアキが飛び出し、コウの両足を掴む。

 呼吸ができないコウに為す術もない。


 アキはコウの両足を腋に挟み、ぐるぐると回転を始めた。


「ちょ…… 待っ……」

「コウが悪いんですからね!」


 アキも怒っているようだ。バンドゥビキニはこれ以上になく動きやすい。

 

「離してくれ!」

「はい!」


 笑顔で応じたアキが、全力で海に放り投げる。

 コウの体はは空中に舞い上がり、背中から海に落下した。


 水深はそれほど深くないようだ。なんとか水面に顔を出すと仁王立ちのブルーが宣言した。


「命に関わるようなお仕置きはやめてあげる。反省はしっかりしてもらいます!」


 その宣言に五番機のほうをみると、砂防対策のためハッチがコウが見ている前で閉じる。


「なっ!」


 タイミングが悪すぎた。偶然だろうが五番機にも見捨てられた気がするコウ。


「アシアのエメとアストライアのお説教も待ってるにゃ。もう逃げられると思うにゃ」


 いつの間にかいるにゃん汰がにっこり笑った。にゃん汰の水着はハイネックタイプの水着を着用している。

 隣のアキも同様の笑顔。そしてその腕の中にはいつの間にか震えるヴォイを抱えていた。ヴォイのほうが大きいにも関わらず仔犬のように震えている。


「ヴォイ!」

「引きずり出しておいたにゃ。コウも観念するにゃ」


 海中からこっそり近付いてきたネレイスの女性たちに両腕を捉えられるコウ。

 音も無く近付くその泳ぎはまさに海の娘ネレイスであった。

 公然とビッグボスにいたずらを仕掛ける機会を得てネレイスたちも張り切っている。


「うぅ……」


 岸に連行されるコウは、彼女たちの怒りの深さを知る。

 コウに逃げられないため、ブルーがとびっきりの笑顔で待ち構えるほどのものだと。

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