VS【P】

「落ち着けバルド君」

「舐めるにも程があるだろうが!」


 バルドはP336要塞エリアによって自走爆雷に相当酷い目にあっている。パンジャンドラムに弾き飛ばされ壁に叩き付けられた挙げ句、気持ち悪い形状をした蜘蛛型の地雷まで襲いかかってくるのだ。

 ヴァーシャともどもトラウマとなっている。アルゴフォースのパンジャンドムに対する忌避感は大きい。それはいまだにマルジンの賞金首が一位だということも証明している。


「恐れていた事態が……」


 パンジャンドラムが遂にコウへ牙を剥いたのだ。


「一機に付き二両のパンジャンドラムはおかしいよなぁ」

「両手にテザーをつけて兵装と言い張ったんだろうがな! 犬の散歩かよ!」


 確かに両手にテザー、二両ずつ装備しているカザークは犬の散歩に見えなくもない。


「奴らに御すことが可能なのか、アレを」

「どう殺してやろうか。対処方法はあるんだろうな? 開発者さんよ」


 コウに八つ当たりするバルド。


「開発者ではないぞ! 対処方法はたくさんあるが、あの形状はBAS社のオリジナルパンジャンドラムだからな。だいたい特性は把握している」

「欠陥兵器だからな」


 兵衛が指摘する通り、対処方法などいくらでもある。パンジャンドラムが欠陥兵器であることなど彼らとて理解している。


「歴史的にみてあれはどうなんだ……」


 バルドは蔑むように巨大な糸車を睨み付ける。


「歴史でもあれの初代はデタラメに動くんだよ。改良するたびに動きがデタラメになったとされる」

「どんな改良をしたらそうなるんだよ!」

「あの噴射する移動用ロケットを増やし続けたんだ……」

「いや、ありえねえだろ」

「事実だ。最初の試作一号のあれはロケットが18基。改良に改良を重ね最終的には66基ものロケットを搭載し、誰も制御できなかった。制御用のコントローラーはあったんだが……」

「意味ねえもん付けるなよ!」

「俺にいうな。動画も残っているんだ。視察にきた将官が逃げ惑い、全速力で逃げ出す軍用犬の姿。もともと制御できないものなんだ」


 自分で開発したものではないが、歴史的にもパンジャンドラムほど経緯がはっきりしている兵器も珍しい。


「もういい。どうやって対応するか。それだけ教えろ」


 疲れたようなバルドの声。歴史的経緯を聞いて後悔したのだった。


「まずは――」


 コウがバルドに対処方法を伝授する。

 その答えを聞いたとき、残虐な笑みを浮かべるバルドがいた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「いくぞ。ワンチャンに全てを賭けるぜ!」

「おい。あのバルドや鷹羽兵衛相手にこんなものが役に立つのか」

「……俺は知っている。さんざん煮え湯を飲まされた。突然加速して暴れ回ったり、な。クソ厄介な兵器だ」

 

アシア大戦時、メロスに弾き飛ばされた発案者パイロットが言い聞かせるように説明する。

 僚機のカザークは不安そうだ。

 満場一致でパンジャンドラムを選んだ。一か八かの賭けなのだが、その時点で彼らの敗北は必至だった。


「あのアシア大戦でカストル様の傍にいた、バルドだぜ」

「いやいや。鷹羽兵衛だろう。伝説の剣士だぜ」

「俺はあのエンプティが一番恐ろしいぜ。噂が本当なら――あいつこそカストル様を倒した男だぞ……」

「げぇ」


 そんな噂話を聞いただけで吐きそうになる二人。

 いくらカザークは優秀だといっても、ラニウスC型にヴァーシャが構築したボガティーリなのだ。

 何がどうなったらそんなトリオが誕生するのか、彼らには想像が付かない。


「やることはかわらん! スタートしたらパンジャンドラムを全力でぶっぱ、 、 、 だぜ!」

「おう!」


 そして試合が開始した。

 遠く離れた場所にいる三機。まともにやりあったら勝ち目がない、伝説のパイロットたちが駆るシルエットは――


 空に向かって舞い上がった。

 ロケットが始動するパンジャンドラムは走り出すが、地面の障害物で大きく跳ね上がり彼らに向かって走り始める。 


「げえ!」


 絶望に似た悲鳴を挙げるパイロットたち。

  跳ね回るパンジャンドラムに早速吹き飛ばされるカザーク。

 彼らは両手にパンジャンドラムを装備した。つまり射撃武器はない。

 

「やべえ!」


 パイロットが悲鳴をあげた。

 パンジャンドラムは質量兵器でもあり、金属水素を内包する爆弾でもある。

 大きく弾き飛ばされ、自分達の選択ミスに今更ながら気付くカザークチームであった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「あいつら自分のパンジャン相手に逃げ回ってやがるぜ」

「瓦礫サイズの石一つで大きく跳ねる。ジャイロセンサーをついていない、オリジナル軌道のパンジャンドラムだ。BAS社のパンジャンドラムだな。どう動くか誰にもわからない」

「おっと。高度を取るか」


 三機は上から眺めているだけだった。逃げ惑う三機のカザーク。

 観客達は大笑いしている。


「これはあれだ。ウサギ枠だな」

「なんだそりゃ?」

「古代ローマのコロッセウムの見世物だよ。剣闘士相手にウサギやキリンがでてきたらしい」

「なるほど。これなら弱くても観客が盛り上がるな。バーンってヤツぁ良い興行主だぜ」


 決して対戦相手たちは弱くないのだが、相手が悪すぎたといえよう。


「そのまま無残に轢き殺されろ」


 憎々しげに呟くバルド。


「介錯してやろうぜ。時間の無駄だ」

「一応爆雷だから燃料が切れる前に爆発するはず。バルド、相手にぶつかったあとパンジャンに向かって撃ってやれ」

「時間の無駄といわれたら確かにそうだ。仕方ねえ」


 ボガティーリ・コロヴァトが衝突して跳ね飛ばされるカザークに向かって発砲した。

 轟音とともに大きな爆発が発生した。金属水素に引火したのだ。

 

「は?」


 トラクタービームが発動し、今や残骸になったカザークが回収されていく。


「おい。なんだありゃ。普通安全装置が発動するだろうが」


 動きを止めるための発砲だったバルドの予想を超える結果となる。

 パンジャンドラムの衝突と爆轟により、カザークは見るも無惨に爆散していた。


「BAS社に安全装置を取り付けたパンジャンドラムなどない。俺は付けているが」

「まじかよ。あの噂は本当だったのか! 安全装置もジャイロセンサーもねえ爆雷をよく運用してたな」


 呆れる表情を隠そうともせずバルドが吐き捨てた。安全装置が付いていないという噂はアシア大戦時から噂として伝わっていたのだ。

 もしそれが事実なら自軍で誘爆する危険が一気に高まる。


「BAS社にいってくれ」


 コウも苦虫をかみ潰したような顔で回答する。心苦しいのだ。


「カザーク二機か。短時間なら飛べるだろうによぅ」

「強襲飛行型相手には無駄な抵抗でしょう」

「あの様子じゃ観客からミシオも無理だな」


 降参は認められないということだろう。

 兵衛は軽くため息をついた。


「介錯してやるか」


 さすがの兵衛もこれ以上は時間の無駄だと断じた。


「はい」

 

 コウも同意見である。

 荒れ狂うパンジャンドラムをDライフルで撃破したのち、舞い降りた二機のラニウスが同時にカザークの胴を斬り裂き、両断した。

 カザークの上半身が地面に落下すると同時に試合終了を知らせるブザーが鳴り響いた。


「なんていうか……毒気も抜けちまったぜ。哀れな連中だな」


 自ら放ったパンジャンドラムに翻弄されたカザークたちをみて、バルドも憐憫の情を覚えたようだった。


「ものの哀れといういうやつだなぁ」

「奴らもパンジャンドラムの被害者なのかもしれねえな」

「そうだな」


 バルドが気付かないうちに、そっと同意するコウ。


「怒りも冷めたかい? バルド君」

「なんていうかな。――それでもやっていいことと悪いことがあるんだよ。違うかい?」

「ああ」


 コウは相槌を打つ。


「決勝リーグまでいったらあいつらだって黒字だったんだ。予選リーグ敗退ってことはしばらく連中も赤字だ。食うにも困って、そのうち叩き出される」

「勝負の世界だ。厳しいわなぁ」

「そこは可哀想だと思う。奴らも俺等相手に運が悪かった。そこでだコウ。質問だ」

「なんだ?」

「聞きたいことが一つ…… いやいくつかあるな。教えてくれ――」


 コウはバルドの質問に絶句し、彼の怒りが頂点に達していたことを思い知る。


 その後カザークのパイロット三名に、元上官バルドからの温情という報を受ける。I908要塞エリアにいる間はバルドが食事代を負担するという。

 しばらく彼らにはバーンからを二十、 、 世紀後半の味を忠実に再現された伝統料理が提供された。

 それはかの国の料理。オートミール、ライ麦がふんだんに入ったトーストにマーマメイト、ハギス、スターゲイザーパイ、生のニンジン、フィッシュアンドチップスetc――そして週一回必ずウナギのゼリー寄せとパイとマッシュが饗される。

 三名は残すことも辞退することは許されなかったという。




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いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版後書きです。


ウサギ枠です。いやオチ的にはウナギ枠です。

閉所に強い兵器ですが航空機には無力です。低空飛行しているヘリ……無理ですね。対空地雷使ったほうがましなはず。

彼らは同じ理屈なら対艦ミサイルでも用意するべきだったのです。

しかしトラウマからPを選んでしまった……!

アシア大戦は多くのトラウマをアルゴフォースの兵士たちにも残しています。


独兵が英国料理を提供された際、のちに捕虜虐待として訴えられた伝説?がありますね。

バルドはおそらく第三者を装って彼らの様子を肴に飲んでいることでしょう。

ちなみにうなぎのゼリー寄せが週一なのは温情だからではなく、現在人気もなく、地方でほそぼそと売っている程度。作っている屋台はもう一店しかないそうで。英国でもあまり食べられないとか。

うなぎのゼリー寄せはパイとマッシュでこのマッシュもまた…… しかも追加の調味料はお酢系が多いとか。黒胡椒もありだそうです。

というわけで登場頻度が少なめ。やったねカザークのパイロットたち!

うなぎのゼリー寄せに詳しいSFを追求します!


フィッシュアンドチップスは日本のものは美味しいそうで、友人がフィッシュアンドチップスの金剛カレーを食べたときの感想です。


告知として4月15日で連載三周年となります! そこで週連載を続けるためにも更新速度を落とし、毎週金曜日週一連載に変更予定です。

もし余裕が戻ったら週二に戻したいと思いますが、週一になってもメカとロボの世界から離れません。いずれ何か公表できる日がくるまでお待ちください。失敗したらしたらで報告します!

ご迷惑おかけします。少々リアルで多忙になり申し訳ございません。今後も応援よろしくお願いします!


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