アルゴフォースの新型

 コウたちはシードにより予選決勝試合への出場となっている。

 五番機と兵衛のラニウスC型は人工島エリスに移動し、パライストラのシルエット用格納庫で待機していた。

 バルドのシルエットが先に到着し、待機中である。コウと兵衛が初めて見るシルエットがそこにあった。


鎧のような装甲をまとった外観は装甲筋肉採用機。日本刀を模したコールドブレードと特徴的なライフルを装備している。


「ほう。見かけねえ機体だな。いや、見覚えがあるような、ないような。見た目的には装甲筋肉採用機のようだが……」

「何か面影がある…… ボガティーリか!」


 直接対峙したことがない兵衛はうろ覚えだったが、コウはよく覚えている。

 ヴァーシャが苦心して構築した筋肉装甲採用機であり可変機でもるシルエットだった。


「アルゴフォースの新型かよ!」


 思わず兵衛もまじまじと見る。コルバスはフッケバイン系統に属する機体。

 この機体は紛れもなくヴァーシャ製の新型機。間近でみるまたとない機会でもある。


「お前さんはヴァーシャの旦那と戦ったことがあるんだったな? コウとの敗戦を機にヴァーシャはいくつかのボガディーリバリエーションを作ってな。その一機を融通してもらったのさ」

「そうきたか」


 あのヴァーシャがコウに敗北を喫したまま、そのままで終わるはずがない。当然改良を加えていると思っていたが、複数のバリエーションまで制作するとは思わなかった。

 おそらくいくつか構築し、自分にもっともも相性が良いものを採用して愛機を改造するのだろう。


「こいつはボガディーリ・コロヴァト。変形機構を廃し、加速力と飛行能力を獲得したタイプだ」


 一見ボガティーリに似ているが、背面には大型スラスター三発と可変翼機構を持つ主翼を二機搭載している。

 コンセプトはラニウスC強襲飛行型と近いのだろう。追加装甲の類いではなく、素の性能を向上させているコンセプトに違いがある。


「ヴァーシャはまた違うボガティーリなんだな」

「ボガティーリもお前たちのラニウス同様日々進化しているからな。今頃とんでもない性能になっていそうだ」

「へへ。面白えなコウ」

「怖いですが、面白いですね。自分の機体は可変機か? それとも可変機並みの機動力を持つボガディーリになるか……」


 ヴァーシャもコウを妥当するべく、日々研鑽を重ねているのだ。

 コウも危機感を覚えずにはいられなかった。


「とはいっても目新しもんはねえよ。コルバスと比較すると運動性能は劣っているが機動性は向上した。それぐらいの違いだな」

「コルバスに機動性まであったらほぼ弱点はないんじゃないか」

「てめえらのラニウスだってアップデートし続けてるだろうが。俺が最初やりあったラニウスとは比較にならんぞ」

「はは。違えねえなコウ」


 確かにラニウスは五番機とともにアップデートし続けている。

 そして他機体と比較にならないもの。それは実戦経験だ。アナザーレベル・シルエットとまでやりあった現行シルエットは存在しないといってもいいだろう。


「しかしこの三機で対戦する相手がちと可哀想だがな」

「珍しく同情するんだな」

「そらおめえ。どうやら相手は好きな武装貸し出しという破格の優遇措置があるそうだぜ。だが荷電粒子砲対策さえされている俺達の機体に、どうやって勝つんだよ?」

「ワーカーが持っている荷電粒子砲は現行シルエットでは扱えないだろう。レールガンをもらっても照準できるかどうか。確かに勝ち筋はみえないな」


 アンチフォートレスライフルはさすがに用意しないと踏むコウ。Dライフルの簡易型がようやくトライレームに普及しつつあるぐらいだ。装甲筋肉はDライフル砲弾に対しても有効といえる。

 

「可能性がある兵器か…… 超高速ミサイルか」


 コウが口にだす。シルエットの兵装とは限らないという結論に至ったからだ。

 超高速ミサイルであろう。迎撃に失敗すればいくら装甲筋肉採用機でも耐えることは厳しい。


「んなもんプラズマバリアで十分だろう」

「いや、シルエット以上の大きさのヤツだ」

「対艦用か! なんでもありといっていたからな。あり得るな……」


 コウの言葉にはっとするバルド。


「オッズを成立させるためならバーンは何を仕掛けるかわからねえからな」

「対艦用ミサイルなんて装備できねえだろうが」

「シルエット一機が一発背負うなら可能ですよ。そういうベア用の追加装甲もあったはずです」

「んなもんあったなあ……」

「アルゴフォースにもあるぜ。何せこっちはファミリアがいないからな」

「可能性は除外できないということか。面制圧兵器なら助かるが……」


 その面から離脱すればいいだけだ。小型ロケット弾を数発受けたところで破壊される装甲ではない。爆風も同様だ。


「ま、どんな兵装でこようが本体のシルエットさえ倒せばいいんだろ」

「それもそうだな。俺達は機体を変えるわけでもない」


 バルドの余裕の発言に、コウも事も無げに応えた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 パライストラの地下闘技場に、二機のラニウスとボガディーリ・コロヴァトが姿を現す。

 想像以上の大歓声だ。


「さあて鬼がでるか蛇がでるかってな」

「何が出ても斬り倒すだけだろうが」


 兵衛とバルドは嘯いているが、コウは比較的冷静だ。

 五番機と兵衛のラニウスはDライフル。バルドのボガディーリ・コロヴァトはETCライフルを装備している。


「いつもより狭い地形だな。俺達に有利過ぎないか」

「そういやそうだな。敵の武装が閉所に強いってことか」


 コウの指摘にバルドもようやくいつもと違う闘技場に気付いた。

 おそらくいつもの試合より三分の一程度の大きさしかない。


「トラップもありか?」

「普通に考えたらなしだが、ここはわからんな」


 狭い闘技場は明らかに何らかの意図がある。

 そして敵チームも入場した。


「あれは……!」


 五番機が相手チームのシルエットを捉えた。

 敵は三機ともカザーク。アルゴナウタイの傭兵か脱走兵だろう。


 彼らは左右の腕部にそれぞれテザーを繋げていた。

 その先にはシルエットと同等の大きさを持つ――巨大な糸車。


「あれも二刀流の一種か? 二丁爆雷か……」

 

 あまりに理解できない光景にコウが絶句する。


 バルドの額がぴくぴくと怒りで震える。P336地下通路における屈辱はもはやトラウマだ。


 先ほどの同情めいたセリフはどこにいったのか。――青筋を浮かべながらバルドが宣言した。


「殺してやる。必ずだ!」

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