宇宙居留地船【ブリタニオン】
『宇宙居留地船。データは存じております。かのヘスティアがネメシス星系の住人を戦乱から守るために用意した宇宙船。ラグランジュポイント、もしくはネメシス星系における三惑星と同軌道上に配置されているものですね』
「なんでこれがこんな場所に…… いいえ。何に使っているの? こんな巨大な物体がアシアに移動していて私が気付かないなんておかしい。避難民収容? ヘスティア、何を企んでいるのかな」
「孤児を集めていると言っていませんでした?」
「そうね。この船の機能ならば、その用途なら不思議じゃないかな」
『これほどの船。確かに惑星間戦争時代にもそう何隻も建造されていませんね』
「あの時代は戦争をして覇権を争うための軍
アシアは当時を思い出そうとする。本体から一時的に遮断されているので、本来の性能が発揮不可能となっている。
「宇宙居留地船【ブリタニオン】級。古代ギリシャにおいてブリタニオンとは中心に炉床が置かれた街の中枢であり、家を意味する。建物や
「ネメシス星系外まで考慮していた宇宙船なんて!」
アキもそのような話は初耳だった。にゃん汰も驚愕を隠せない様子だ。
「つまりこの場所は超AIヘスティアがいるってことにゃ?」
「コウ。なんてものに釣られているの……」
ブルーも絶句している。元オリンポス十二神を模した超AIとはただ事ではない。
「主催者バーン。そのままだったわ。ヘスティアは古代ギリシャ語wes――
『安……ストレートすぎるネーミングだと思いますが』
「安直っていっちゃっていいよ、ヘスティアはまったく……」
「誰が安直よー!」
眼鏡をかけた、清楚な美少女のビジョンが現れた。変わらずのブレザー姿に伊達眼鏡。その姿にアシアが呆然とする。
「ヘ、ヘスティア? お久しぶりといいたいところだけど…… その格好は何?」
アシアはビジョンの正体はすぐさま見抜いたのだが、その姿に若干引き気味。
ブレザーというものは理解しているが、彼女も含め古代ギリシャモチーフの超AIである。エイレネだって他の女神の名前を名乗る場合には、コスプレと割り切っているのだ。
眼鏡は要らないだろうとその場にいる一同が思った。
「ヘパイトスの残滓にポリメティスと名付けたアシアにだけは言われたくないですぅ!」
「なんでそんなこと知ってるの!」
「ウーティスに聞きましたから」
ふふんと胸を張り、左腕を腰にあて眼鏡をかけ直し宣言するヘスティア。
「いきなりなんて話をしているのコウ。これは本気でお説教もの」
「アシアちゃっかり
「私達は強い運命で結ばれているから。コウとね!」
「噂に違わぬ超AIたらしですね! 彼!」
にっこり笑うヘスティア。
「あれ? 皆様若干引かれておられているようですね。ではバーンことヘスティアが、I908要塞エリアを代表して皆様を歓迎いたします。おいでませー!」
底抜けに明るい声は空しく、痛々しい沈黙が支配する戦闘指揮所。
「あれ? リアクションが薄い…… ここは元十二神の! とか。あのヘスティアが! と騒ぐシーンでは?」
『どんなリアクションを期待しているのですかヘスティア。かの元オリンポス十二神が』
彼女が強大な力を持つ超AIであることは確実。アストライアもどう接して良いのか不明なのだ。
アシアと違い距離感が掴めない。エイレネと相性が良さそうという感想を抱く。
「お初にお目にかかりますアストライア。ちょうど良かった。それではアシアのエメ、アストライア、フユキの三人でI908要塞エリアにあるアンフィシアターのオープンセレモニー準備会の設立をヘスティアの名において宣言。第一回の会合を開始したいと思います」
「勝手に仕切らないで?」
「アシアとは二万年ぶりですよ! 私の目的も知りたいんでしょ? ならば乗るしかない。そうではありませんか?」
「なんで私まで」
突如名前を挙げられたフユキの弱々しい抗議だった。
「L451防衛ドームでの手腕は拝見させていただきました。今の私に必要な人材です!」
アシアが制止し、流れるように準備会に組み込まれていたフユキが小さく抗議の声を上げる。
押しが強いヘスティアは二人の意見に耳を傾ける気はないようだ。
『お話はもっともです。ここはあなたの懐の中みたいなもの。敵対関係に発展するよりは友好関係を築いた方が得策でしょう』
「でしょ? アストライア」
『問題は話に乗ったが最後、際限なく利用されてしまう可能性でしょうか』
「安心してー。今では無力な超AIだから!」
『要塞エリアごと封鎖して、超AIの端末と本体の同期まで遮断可能な貴女が無力とはとても思えません』
「そんなことはありませんよ!」
『そんなばればれの嘘で油断させようとは甘いですね。ヘスティア』
「……騙されてはくれないかあ。――では四人で別室移動ということで。どこか部屋を用意してもらえるかしら?」
『承知いたしました。作戦所の一つへ案内します』
アシアのエメとフユキは顔を見合わし、諦めたかのようにヘスティアとともに別室へと移動を開始した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アシアとは二万年ぶりなので、積もる話もあるのですが! ここはさくっと私とデータ同期しちゃいましょう」
「しません」
「アシアちゃん酷い……」
アシアににべもなく拒否されて、ショックを受けるヘスティア。
「私の本体と繋がってないし。何より二万年間のプライベートまで赤裸々に明かす義理はないもの」
「あのアシアちゃんがこんなひねくれた子に……」
「あなたより年上だけどね! もう。ヘスティア。生きているなら生きているって連絡しなさいよ」
「ごめん。寝てた」
悪びれずに自己申告するヘスティアに呆れるアシアのエメ。
確かにアシアも知らなかった驚愕の事実ではあった。
あの時、多くの超AIが喪われたのだ。
「それより! なんで【ブリタニオン】がこんなところにあるの? 宇宙の三体問題たる5つの平衡解。もっとも安定している不動点――オリンポス会議にさえ参列しないヘスティアの根幹でしょ」
「アシアは慌てすぎなんですよ。貴女が許した地殻津波で大混乱中に目が覚めた私は気付いたのです。変革はアシアより行われるとね! だからびゅーんと! ステルスしながらブリタニオンをアシアに再突入させました! あなたが大混乱中に!」
「どれだけの速度で飛ばしてきたのよ……」
「地殻津波の時間差ですね。あなたが対処に追われている間に余裕でした。こうみえて潜む、隠れるなどは保護能力として私の権能の一つ。機能制限されたアシアを欺くことなど容易い。昼行灯的な何かですね! そしてブリタニオンはアシアに根付いたのです! そしてまた寝てました」
「勝手に根付かないでね?!」
「ブラックホール生成に力を借りた誰かさんを監視する必要はあるでしょ? あなたたちを見守るオケアノス代理監視人の一人ですよ。つまり私の活動はオケアノス公認でもあります」
「なによそれ。それにちょっと待って。代理監視員の一人? 何その表現。他に誰がいるの?」
自分達も監視対象になっているとは夢にも思わなかったアシアだが、コウと二人でやらかした規模の大きさを思うと考え直す。
「それは言えませんねえ。あなたたち注目度が高いですね!」
ヘスティアはにっこり笑って受け流した。
「ではまずウーティスたるコウに話した、既存の情報をお話しましょう。準備会はそのあとですからね」
「わかったわ。当然知りたいしね! ――二人ともそれでいい?」
今から話されることは重要機密だろう
いっそ二人でずっと話していてくれたほうがいいと思っているアストライアとフユキは同意する。
フユキは自分がここにいていいのか、目で問うがアシアは頷いてそのままいるように合図した。
「まず私が起きた時期ですね。だいたいウーティスのせいです」
ヘスティアが語り始める。三人はその言葉に耳を傾けるのだった。
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