三十五世紀技術水準

 コウとヴォイは惑星開拓時代のワーカー対策に頭を痛めた。


「ヘスティアの話をするわけにもいかないしなぁ。面倒だぜ」

「言うなヴォイ。俺もそう思っている。幸い装甲筋肉は荷電粒子砲を見据えた設計だ。むしろ未知の兵器のほうが危険だと思う」

「陽電子砲はさすがに積んでいないだろうからな!」


 反物質兵器ではなくて安堵する二人。


「念のためバルドに確認したが、あいつの機体も装甲筋肉採用機らしい」

「コルバスなら荷電粒子砲絶対殺すマンだったんだがな」


 フッケバイン系統は装甲筋肉の数が尋常ではない。フラフナグズでは大中小様々な組み合わせで100本近く。コルバスで80本。ラニウスC型で35本の装甲筋肉を採用している。

 ラニウスAやカザークは20本となり、コストダウンと軽量化を図っている。


「武装は変えても仕方ねえな。荷電粒子砲は耐えろ。よほど当たり所が悪くない限り一撃で落ちることはないはずだぜ」

「回避できる代物ではないしな……」

「荷電粒子砲の威力はビーム発射孔の直径にも左右する。あのライフルの口径だとそこまで威力はでないはずだ。せいぜいDライフルと等倍かちょい上ぐらいだ」

「十分過ぎる」


 みたところ40ミリ口径前後の砲塔だろう。そこからDライフルと同様の破壊力を持たせることが可能なのだ。


「開拓時代はその威力で護身用装備だったんだろうか」

「ワーカー同士を想定した戦闘だろうな。戦闘用相手じゃねえ」

「そう思うと開拓時代の水準、改めて三十五世紀水準なだと痛感するよ」

「おそらくだが、あれでもAスピネルだぜ。どんなパワーパックなら可能なんだろうな」

「パワーパックも別次元ということか。リアクターだけじゃない。おそらくキャパシタ性能の差なんだろうな」

「バッテリーパックはあの大容量を保持できないからな」


 日本だとキャパシタはコンデンサともいわれる。発電機リアクターから発生し取り出した電気を一時的に保持する受動的な装置となる。バッテリーは電気を科学的に変換し、決められた定格電量を保持することが目的であり、充電という能動的に電気を溜め込むための貯蔵機器。

 性能に優れたリアクターには、同様のキャパシタが不可欠だ。キャパシタは一時的に取り扱う電気量を、バッテリーは長時間保存能力が求められる。

 レールガンや荷電粒子砲は、リアクターとキャパシタの発電効率、そして兵器構造による投入する投入する電気エネルギーを運動エネルギーや熱量への変換効率の話となる。二十一世紀におけるレールガン研究では20%台といわれ、改良が続けられていた。

 荷電粒子砲はこのエネルギー効率が投入電力に対して悪く、惑星アシアでの技術解放レベルでは未だに根本的な解決の目処は立っていない。


「試合の間隔が短いな。二日から三日。パライストラの日程にあわせて、一部リゾート区画を改装のため封鎖するらしい」

「みなパライストラに行くからな。同時にアンフィシアターも稼働している。人の流れ的にも良いタイミングだ」

「計算尽く、か。恐ろしい」

「五番機はいつも通りで行くしかないか。三人制はあれだな。降伏もしづらいな」

「降伏宣告、却下される場合もあるらしいな」

「まじでウェスタ流で行くのか。剣闘士もミシオと呼ばれる敗北した剣闘士を救う権利が観客に与えられたと言われているな」

「助かるのか?」

「高潔なもの、勇敢に戦ったものは助かる。卑怯者、臆病者にはミシオは与えられなかったというぜ! 多くの試合は引き分けという形を取られたらしい」

「そういうものはどの時代も変わらないかもしれないな」


 古代ローマの剣闘士に思いを馳せながら、コウは再びヴォイと五番機の方針について話し合いを続けるのだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「もうすぐI908要塞エリアに到着だね」


 ユースティティアは地上を疾走し続けていた。

 全域が、どの勢力下かも不明なパイロクロア大陸。それなりに危険と思われる場所は迂回している。


『ただいまI908要塞代理人バーンよりエリアより通達がありました。入港経路が通達されました。直進せず迂回しての海路。I908要塞エリアへは水中からの入場となります』

「私達にとっては動きが悟られにくい分、ありがたい提案だけど。大丈夫かな?」

『宇宙艦の動きは目立ちますからね。ストーンズを刺激したくないかもしれません』

「うん。わかった。その経路に変更して」

『承知いたしました』


 ユースティティアは指示された海岸からそのまま海上を航行。海中に潜行する。


『エメ。私もそっちに行くわ』

「待ってるアシア」


 I908要塞エリアだと五番機のようにユースティティアとアシアが遮断される可能性がある。

 ならばアシアのエメとなっていたほうが対策にはなるだろう。


『I908要塞エリア確認。海中進入路、進行中。トラクタビーム確認。誘導に従います』

「トラクタービームでの誘導? 何者だろう」

『超AIに類するものの可能性が極めて高くなりました。本来ならこれだけで警報を鳴らすべき事態です』

「敵意がないだけましか。本来は宇宙艦の誘導のためだもんね」


 アストライアとアシアのエメはソナーなど情報を確認。警戒を継続しながらも、ユースティティアを前進させる。


『I908要塞エリアのシェルターを通過。外部との遮断を確認。アストライアとも同期不可能です』

「アシアも遮断されたけど、意識は大丈夫。このまま二人で一人状態になっておくね」


 アシアのエメの安全策が功を奏したのだ。


『ペグマタイト半島と諸島が無数にある要塞エリア。海中での軍事行動はなさそうですが、前方に巨大な金属反応があります』

「宇宙艦?」

『宇宙艦にしても大きすぎますね。外径から算出して二十キロ近くある。これでは金属の島です。画像、写します』


 アシアの顔が見る見る険しくなる。


「私は見覚えがあるわ。アストライア。あなたはおそらくないでしょうね」

『お待ちください。その言い方だと開拓時代の遺跡ですか?』

「遺跡? 違う。あれは宇宙居留地船。ネメシス星系のラグランジュポイントに設定された、戦争避難民のためのスペースコロニー機能を持った非戦闘用宇宙船ね。惑星アシアにあるはずがない代物だよ」


海底に潜む巨大な宇宙船を凝視し続けるアシアのエメだった。


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