聖域の闘技場
死なばもろとも
『由々しき事態です』
「私の因子が入っているはずの五番機にアクセスできないなんてどういうこと?!」
「もうそんな状態はオケアノスかプロメテウス以外、原因究明できないのでは」
ユースティティア艦内は軽くパニックに陥っていた。
コウとヴォイがハルモニアで出撃した。――アストライアが割り出した目的地の座標はペグマタイト半島のI908要塞エリア。
「ハルモニアならすでに現地かな」
『しかし解せませんね。アンフィシアターのシルエット大会の参加券はアシアのエメ所有。IDもないコウが私達を経由せずに入手するなど困難です。あてもなく飛び立つほど浅慮ではないと信じたいですが、あてがあったとすれば、別の問題がでてきます』
「そこだね。憶測だけど、I908要塞エリアから五番機へ直接送付された可能性はあるかな」
『五番機のIDなど、トライレームでも秘中の秘。知る者は上層部のみかと』
「解析できる存在なんて完全体の惑星管理超AIかオケアノス、プロメテウス、そしてヘルメスぐらいじゃないかな……」
にゃん汰とアキも蒼白になる。そのレベルの超AIが関与しているということだ。
「しかし我々ユースティティアが入場できないとなると、コウが何をやらかすかわからないにゃ」
「闇試合で命を落とすことになりかねないですね」
コウの性格だ。一対一の対決ときいて、いてもたってもいられなかくなったに違いない。
「ヴォイもお説教にゃ」
「コウの頼みだとすればヴォイだって断れないですよ」
ヴォイも優しい性格のクマだ。おそらく反対したのだろうが、コウの勢いに飲まれただろうことは容易に想像できる。
「それもそうだにゃあ……」
戦闘指揮所にマールから通信が入る。格納庫から五番機関連のパーツをチェックしていたのだ。
「こちらマール。五番機の装備を確認。Dライフルの弾倉及びA型擬装用パーツが無くなっています。つまり現時点ではDライフル装備のC強襲飛行型。現地でA1型に偽装するものだと思われます」
「ヴォイがいればある程度の整備もできるか。うーん」
思わぬ助け船が入った。フユキだ。
「まずは陸路変更。パイロクロア大陸を横断し、コウを追いかけましょう。そのためのニソスとユースティティアです」
「フユキ!」
「入場は交渉しますよ。――このあとすぐ。アシアのエメ。念のため闘技会のチケットを私のIDに」
「わかったわ! お願いねフユキ」
「当然です。――しかし動きが不穏ですね。コウ君をピンポイントで呼び出し、アシアが五番機に干渉できないとは」
フユキもまた内心頭を抱えていた。
お目付役のつもりでいたが、コウにはまだまだ無鉄砲な部分がある。
『アシアのエメ。エメ提督宛にTAKABA社長から緊急連絡が入っています』
「コウがヒョウエに相談するっていってたもんね。――いいよ。このまま対応するから」
二人の意識境界線は存在しない。アシアでもエメで〔自分〕だと認識するからだ。
「川影社長。お久しぶりです」
「エメ提督ですか。お久しぶりです。――うちの会長そっちへいってませんか?」
「え?」
「うちの会長が〔俺も闘技大会参に加するぜ!〕 と言い残してラニウスC型で飛び出したのです」
「なんてこと! 誰も彼も、まったくもう! TAKABAからだとハルモニアを使ったのですか?」
「それが海路を使って単機で…… 途中でニソスのユースティティアに寄ったのではと思ったのですが違ったみたいですね」
スフェーン大陸とペグマタイト諸島の距離は相当離れている。通常のシルエットならばそれだけでも移動は困難だ。
ツインリアクターに換装されたラニウスC強襲飛行型ならまったく問題はないだろう。
「いくら金属水素精製炉があるからといって、無茶をするねヒョウエさん…… 海上だと捜索も難しいでしょう。ヒョウエさんのラニウス、マリンブルーですし」
「いやはや。そもそもですが、シルエットの闘技大会とは何なのでしょう」
「私達も昨日それを知り調査中だったのです。わかりました川影社長。ヒョウエさんの詳細が判明次第、連絡いたします」
「お願いします。こちらからも報告しますので」
戦闘指揮所は不気味な沈黙が降りた。
アストライアもビジョン化している。
「ゆゆしき事態ではありますが。まずは本人たちの意識が問題です」
冷たい声でアストライアがいった。
「そうね」
アシアのエメも思わず嘆息するほどの事態だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アシアのエメ。相談があるの」
ブルーが昏い顔で戦闘指揮所に入室した。
「どうしたの? コウ以外のことで何かあったの?!」
「うん。えぇ…… まあ……」
言葉を濁すブルー。とても言いづらそうにしている。
「本当に大丈夫? ブルー。無理しなくていいよ。コウのことはなんとかするから」
「コウは関係ないというか、あるというか…… とりあえずコウを一発狙撃ちたくて撃ちたくて震えるの」
「落ち着いてね?!」
ブルーが軽く混乱状態にあることは見て取れた。
「カナリーのIDにね。宛先人不明のメールがきていたの」
「カナリーに? ある意味五番機よりも厳戒態勢が敷かれているよね」
有名人のブルーのIDが割れようものなら全アシアからメールが殺到するだろう。
その意味でブルーやカナリーのIDはコウ以上に慎重な取り扱いがされている。
「そして内容が……」
思わずブルーが両手で顔を押さえる。観られたくないようだ。
「内容が?」
「内容は、口にしたくない。映像で。アストライア、カナリーから転送したから表示してください」
「わかりました」
メールの内容が一同に公開された。
――スカイブルーに輝く海、穏やかな気候の島、極上のリゾート地でグラビア撮影と巨大ホールでのコンサートをどうぞ! 我々I908要塞エリアはフェアリー・ブルーとユースティティア一同の入場をお待ちしております! ※なおグラビア撮影とコンサート受諾の場合のみ入場を許可します。
メールの内容に絶句するクルーたち。
とくに補足が目を引く。本文より大きく記載されているのだ。
「これは拒否権が発生しようがない事態にゃ。というか明らかに昨夜の放送を意識してるにゃ、補足が曖昧な態度を許さない、毅然な態度を示しているにゃ……」
「コウはこのための人質かもしれないですね」
「なんて条件なの。裏で糸を引いているのはディオニソスかパン?」
にゃん汰とアキが絶句し、アシアのエメが思わず呆然とする内容であった。
超AIディオニソスとパンが言いがかりに近い風評被害を受けているが、誰も気付かない。
「ユースティティアごと入るチャンスだけど! なんで私のグラビアとコンサートが条件なの? 酷すぎない?! 私はスナイパーであって、芸能人ではないのに」
「ブルーは惑星アシアのアイドルだから?」
「それはあなた、アシア自身です」
顔を覆いながらいやいやをしていたブルーだったが、動きが停止する。顔を上げてきっと虚空を見詰めた。
「私も覚悟を決めました。受けて立ちましょう」
「その意気にゃ。フェアリー・ブルー!」
「そのかわりグラビアとコンサートは、アキとにゃん汰も一緒で! エメはコウが絶対ダメって言うから諦める!」
「私達を巻き込むのはやめるにゃー!」
「嫌ですよ?! 需要ないですから!」
目を反らしながら笑うブルー。
「死なばもろとも……」
「お願い。落ち着いてブルー! 敵はI908エリアの支配者ですよ!」
「ではあなたたち、コウがどうなってもいいと言うの? ここは一蓮托生でいきましょう?」
「ブルーまでとんでもないことを言い出したにゃ?!」
ユースティティア艦内は混乱の極みに陥っていた。
「アストライア。進路はこのままI908要塞エリアで」
『承知いたしました。フユキ』
交渉する必要がなくなったフユキと他人事のアストライアが、冷静にことを運んでいるのであった。
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いつもお読みいただきありがとうございます!
予想通り、飛び出したコウ。お母さんにたっぷりと怒られるヤツですね!
そして戦慄のブルー! 意味が違いますけどね! むしろ戦慄しているのはにゃん汰とアキです。
次回よりコウ視点になります!
そして告知です!
【ネメシス戦域の強襲巨兵④ ~アシア大戦中篇・軌道エレベーター攻防戦】
皆様が応援していただいたおかげで、四巻発売日が1/28に決定しました! 改めまして皆様、関係者様に御礼申し上げます。
アシア大戦まではせめて完走したいなあという思いです!
三巻の壁を越えることをできたのも、本当に皆様の応援のおかげです! ありがとうございます!
表紙は小山英二先生です! TSW-R1Cラニウス高機動型の抜刀シーンです!
小山先生もメカデザインに参加されているデモンエクスマキナが1/28、ネメシス戦域の発売日と同日にPCのゲームストア『XSEED Games』で期間限定無料ダウンロードされます!
遂にメインヒロインであるアシアもあのん先生によってイラスト化です! 巻末にはデザイナーズノートとしてアシアのラフ画も掲載しております!
もちろんアークザラッドシリーズやアークザラッドRを担当されている【マグマスタジオ】様によるシェーライト大陸戦略図も用意。どの地点で何が出現したか、どの戦闘があったかなどわかりやすいようにしております!
四巻も書き下ろしエピソードも当然用意しております!
読者の皆様にご報告ということで、書籍版も良ければ手に取っていただけると幸いです!
今後とも応援よろしくお願いします。
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