あなたの未来とともにまっすぐ進む

『L451防衛ドームの皆様! はじめまして。ダンクバスターの時間です。パーソナリティは私、ブルーがお送りいたします!』


 突如L451防衛ドーム内のユースティティア内からフェアリー・ブルーによるラジオ放送が始まった。透き通るような高い声はラジオからでもよく伝わる。

 驚愕する住人たち。そして近隣の防衛ドームは相当の衝撃を受けた。


 彼女はアーテーを一撃で破壊したともいわれる狙撃手。アルゴフォースのスナイパー部隊をラジオ放送中に単機で退けた逸話もある。

 その儚げな容姿からフェアリー・ブルーといわれているのだ。


 そんな彼女がこんな僻地の、しかも小さな防衛ドームにいる。

 パイロクロア大陸に激震が走ったことはいうまでもない。


『L451防衛ドームの皆様、リクエストをお待ちしております。最初のナンバーは~』


 噂は瞬く間に広がり、傍受できる回線を慌てて開く者が続出した。

 L451防衛ドームでは放送室の光景がユースティティアによって空間投影されている。

 サポートはにゃん汰であった。


『二曲目の前にここで皆様にお知らせとCMです。トライレームはL451防衛ドームに流通拠点を配置します! トライレームに所属する転移者企業のシルエットをはじめとする各種兵器はL451防衛ドームからでもを通して入手できるようになります』


 一曲目に長めの曲を入れ、二曲目の前に宣伝する。これはフユキの考えた放送プログラムだ。


『皆様が聞いていただいているラジオスポンサーをご紹介いたします。クルト・マシネンバウ社、スカンク・テクノロジー、御統重工業、王城工業集団公司、TAKABA、ゼネラルアームズ、五行重工業、BAS……』


 トライレームの主要企業の名をテンポよく読み上げるブルー。抜群の滑舌の良さである。

 つまり、L451防衛ドームではこのスポンサー企業の商品を購入できるということが、おのずと知れ渡るのだ。

 ラジオ放送中にスポンサー企業を読み上げることは不自然ではない。


『それでは二曲目に入ります。リクエストはL451防衛ドームにお住まいのラジオネーム〔ダブルチーズバーガーパティ抜きで〕さんから。そのダブルに意味はあるのでしょうか! それでは……』


 ユースティティアが出発準備に入る。

 ブルーがラジオ放送を開始した情報はあっという間に広っているだろう。アルゴアーミーの動きを攪乱するためだ。


『リクエストは受付中です。私が乗っている艦は今からL451防衛ドームを出発しますが、放送は継続。今日は三時間スペシャルでお送りいたします! アシスタントのにゃん汰さん、何ですか?』

『アシスタントのにゃん汰です。皆様よろしくお願いします。リクエストにフェアリー・ブルーの生歌が殺到していますので、リスナーの皆様に報告します』

『歌いませんからね!』

『ラストまで聴いて下さいということですね? ではリクエストを読み上げます。L451防衛ドームお住まいのラジオネーム〔フェアリー・ブルーのグラビアはいつですか?〕さんより。――フェアリー・ブルー。グラビア撮影はどの時期に?』


 ぐいぐいと絡みを入れるにゃん汰、本気のアシスタントであった。


『グラビアはしません! ……たぶん、きっと……』

『今日はそこらの事情をわたくし、アシスタントのにゃん汰が真相解明に迫りたいと思います! マネージャーのジェニー様よりコメントを貰っていますので――』

『何してんの! まじで!』


 ブルーが悲鳴に近い叫び声をあげ、にゃん汰が不敵に笑い応戦するラジオトークが始まろうとしていた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



『グラビアは本気で困りますから。えっとCMいったん入ります! 艦が全速移動するとのことなので! しばしお待ちを!』


 無慈悲にCMに入るブルー。明らかにハプニング状態であった。

 来月撮影の準備に入りたいというジェニーのコメントが寄せられたことが原因だ。


「ノリノリだな。にゃん汰」


 コウとフユキが今後の方針について話している最中であった。

 ユースティティアは偽りなく全速離脱する。ラジオではスポンサーCMが流れ始めた。


『――あなたの未来とともにまっすぐ進む夢の爆雷。大陸横断パンジャンドラム〔メロス〕はBAS社より……』


 そのCMを聴いていたコウとフユキがげんなりする。


「何故パンジャンドラムをCMするんだ、BAS社は…… いや、それよりもメロス市販してたのか。爆雷だから市販していてもおかしくはないが……」

「BAS社でアピールするならハザードなりラモラックだと思うんですけどね。ハードばかりみるのではなく、消耗品の利益も大事です。そこを狙ったのでしょう。ラジオ広告はほら、CM料も安いのです」

「メロスはまっすぐに進むし、いいか」

「そういう問題ではないと思いますが。BAS社の各種パンジャンドラムはアルゴナウタイ用にそこそこ売れてるみたいですよ」

「嫌がらせにしかならないと思う。いや、それでいいのか。うーん……」


 コウは適当な相槌を打ちながら、フユキから受け取った報告書を目に通している。


「手続きミスによる始末書の可否? ……ふーん」


 コウはその部分を消去した。


「必要ないよ」

「しかしそこは私の発言が原因でして。書類は現物のやりとりよりも時には重要。報告は必要です」

「破壊したアルゴアーミーの部品をL451防衛ドームに全て置いてきた、という件についてかな。俺も似たようなことを考えてたし、問題ない」

「そういっていただけると助かります」


 コウがふっと笑った。フユキの狙いはわかりやすい。

 鹵獲兵器に詳しく、精査しないと伝わらないものだろう。


「捕獲した残骸のなかにあった、金属水素生成炉搭載の可変機バイヴォーイ・オホートニク。こいつはMCSを抜いただけでパワーパックは無傷。鹵獲兵器を一つ一つ残骸を精査して譲渡となるとさすがにストップになるよな」

「そうですね」

「――つまりL451防衛ドームは無限の金属水素供給装置を一つ手に入れたことになる。フユキが戦闘工兵が縁の下の力持ちってのは理解するけど、嫌われ者にまでなる必要はないよ。俺の権限で許可、L451防衛ドームに使い方を指示する」


 すっかり考えを見抜かれたフユキは満足げに笑う。小規模な油田を一つ譲渡するに等しい行為だからだ。

 そこまでやった甲斐があったというものだ。


「ありがとうございます。当面、金属水素供給需要可能施設になるだけでも、結構な利益になるでしょう。ですが一機分のパワーパックでは大部隊の運用までは無理。これを足がかりにどう成長するかは彼ら次第です」

「そうだな。今できることはこれぐらいだ。それでも十分だろう。六番機なりのA1やB型になっていく様は個人的に楽しみだしね」


 L451防衛ドームが豊かになれば、その分敵に狙われやすくもなる。

 しかし六番機の強化に繋がるのだ。彼女はいずれ自力でB型やC型に辿り着くだろう。その時こそ彼女なりの六番機に応じたスタイルの追加装甲を用意したいと思う。

 

 その日が来ることを心待ちにするコウだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 フユキとの話も終わったコウは五番機に戻り、五番機の調整と六番機の戦闘データを確認していた。

 さきほどの戦闘での損傷はすでに整備終了している。マールとフラックは手際が良い。


「六番機の戦闘記録をみると、虎のような戦い方だな。猫か。身を潜めて尻尾を振りながらタイミングを見計らう。そんな猫だ」


 コウは昔飼っていた猫を思い出し、苦笑する。猫のような少女だと思った。


「さすがに剣術や剣道を教えるのは可哀想だからな。今のフランにあわせた強化プランを練らないと。うん。六番機の強化は本当に俺の趣味だな」


 一人呟きながら作業を入ると、フランから御礼のメールが入っていた。


「はは。律儀だなあ」


 朴念仁っぷりを発揮し、簡素な短文で返信をするコウ。


「ん? 宛先不明のメールだ。五番機のIDをピンポイントでわかるヤツなんてそういないだろう……」


 そのメールをみたコウの顔が見る見る真顔になる。


「ヴォイー! おい。ヴォイ。ちょっときてくれ!」

「どうしたコウ。珍しい。何があった!」


 のそのそと五番機に近付くヴォイ。コウは五番機から慌てて降りると、ヴォイに話を始めるのだった。

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