奇妙な要塞エリア
「I908要塞エリアはどのような特徴があるのでしょうか?」
フユキは情報として、確認することにした。危険な場所ならコウを止めることも可能だろう。
「それがパイロクロア大陸南西部、正確にはペグマタイト半島という場所にありまして。比較的戦闘が少ない区域だということです。我々にも関係することなのですが、とある噂もありまして」
「というと?」
「私達夫婦はL451防衛ドームの戦災孤児を養っております。L451防衛ドームは大陸と繋がっておらず、そのエリア長も戦災孤児を集めていると聞いております。実際に我々が保護している孤児のなかに、I908要塞エリアへ行かないか誘われた者もいるようです。つまりパイロクロア大陸全域に目をかけているのでしょう」
「ほう。ではその孤児たちを養っている要塞エリアと」
「ええ。ですがその後孤児たちがどうなったか不明ですし、また要塞エリアのエリア長も不在という扱いなのです」
「エリア長が不在? オケアノスが任命していないということですか」
「そうなりますね」
コウと視線が合う。戦災孤児の扱いが気になるだろう。
要塞エリアのエリア長がいないという点もおかしいが、まずは子供達の安否は気にしたい。
「これは行くしかないんじゃないか」
「ダメです。まずはトライレームで情報を集めましょう」
「フユキの言う通りだよ、コウ。それ以上言うと、わかっているよね?」
アシアのエメの瞳があやしく光る。
「フラン。いっておくわ。コウはね、あなたに負けず劣らず無鉄砲なところがあるのよ」
「え? そうなんですか!」
「いやあ…… まあ……」
ばつが悪そうに顔を背けるコウ。
まずは意識を反らすことに成功したアシアのエメであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
会談も終わり、L451防衛ドームの三人はユースティティアを離れようとした。
ネイトは課せられた大きな課題に緊張し、妻のズージはほくほく顔。
フランはというと、相も変わらず無表情であった。ユースティティアから降りることが名残惜しいのだ。
「フラン」
その時コウから呼び止められたフランはびっくりして振り替える。
「はい?!」
思わず声が上ずり噛みそうなほど驚いている。
コウはそんなフランをみて微笑んだ。恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にするフラン。
「俺はIDをもっていないから、連絡用の五番機IDを六番機に送っておく。六番機の状況はこちらでもチェックしておくよ」
「そ、そんな。コウみたいな大物が私なんかにIDを送っちゃってもいいんですか!」
「大物? いや。違うよ。俺は誰でもないよ。ただのコウだ」
コウはふっと笑う。もうウーティスは死んで伝説になったのだ。
そんなものは虚像に過ぎない。
「どうしてここまで六番機に色々してくれるのでしょうか」
「うん。まあ。あれだ。趣味みたいなものだ」
理由はさしてない。フランと六番機が気になる。それだけのことだ。
「六番機はしばらくは人工筋肉のままがいいだろう。L451防衛ドームの設備が充実したら、その時こそA1型なりに改装すればいい」
「ありがとうございます。その…… なんていうか。今回六番機に装備してもらった追加装甲が思いの外使いやすくて」
「戦闘記録は確認した。一撃離脱戦法が性に合っているみたいだな。今後、それ用に調整する方向でこちらも考える」
「……お言葉に甘えさせていただきます」
「それでいい。――じゃあ、またな」
コウはそれだけいって後ろを振り向いた。
「はい。また会いましょう!」
フランが元気いっぱいに叫んだ。
コウは振り返り、珍しくにっこり笑うと手を振って立ち去った。五番機のもとへ向かうのだろう。
ただ、今起きたことが信じられず呆然と立ち尽くすフランがその場に残された。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「コウが女の子を口説いてた。AIたらしだと思ったけど、パイロットたらしでもあったのね」
アシアのエメが呟く。目が据わっている。
コウにとってはもはや言いがかりに近い。
「大丈夫ですよ。きっと。フランが一緒に行動するわけではありませんから。きっと……」
「きっとってところが自信がない現れにゃー。私もそう思うにゃ。きっと……」
自信なさげなユースティティアの女性陣。
『それよりもアンフィシアターです。どうするんですか。検討といっていましたが本人は行く気に満ちています。行かせますか?』
アストライアは本題を切り出す。同行しないものにそこまで敵愾心を燃やさなくても、とある意味の余裕さえある。
「とんでもないにゃ!」
「場所は先ほどネイトから説明のあったパイロクロア大陸の南西部I908要塞エリア。ペグマタイト半島は近隣の諸島に囲まれたような
アシアのエメが顔を上げていった。
「みんなに伝えるべきことがあるの。コウがいるとややこしくなるから、今話しておくわ」
アンフィシアターに行きたいコウと反対する女性陣では立場が異なる。
アシアの判断は当然といえた。
「アンフィシアターがあるというI908要塞エリア。この場所がおかしい」
「おかしい? あやしいではなくて? どういうことでしょうか」
「まず私がアクセスできない。ストーンズ勢力の要塞エリアだったから当然として。今はストーンズの勢力下ではないの」
「ストーンズが支配していない要塞エリアということですか?」
「そういうことになるね。無人の要塞アリア扱い。これは奇妙だわ。この要塞エリアがおかしい点は、現時点ではどこの勢力下でもないの。ストーンズはもちろんのこと、トライレームは当然絡んでないし、新生傭兵管理機構も絡んでいない。それなのに私でもアクセス不可能なの」
「今や完全な無所属? ストーンズ勢力下だった場所が? 完全中立ということでしょうか」
「客観的にみてそうとしか思えないのね。おかしいよ。中立といってもある程度、それぞれの勢力の思惑、軍事力が介入されることが常。こんなおかしいところにコウを行かせることはできない」
「ストーンズが奪還に動いていない点も不審だにゃ」
「五番機みたいなC型がいったら目立つに決まってますしね」
アシアの説明ににゃん汰が疑念を、アキは潜入捜査に向いていない点を指摘する。
「まったく。あんな高級機に乗っている人間はまだ十人前後。すぐに身元が特定されてしまうよ」
アシアはため息をついた。
「でも参加証は私が持っているから、安心かな。簡単に発行できないものみたいだし。チケットに付随した説明によるとお金が欲しい傭兵向け。抽選制のようね」
「参加証がないとどうなるのですか?」
「I908要塞エリアに入場できないみたい。フユキとアストライアが機転を利かして私を呼んでくれて助かったわ」
『私だって、
「ありがとうにゃアストライア……」
「ええ。アストライアがいて本当に良かった。コウは止めても絶対行く。下手したらニソスから脱走してでも……」
にゃん汰とアキがしみじみとアストライアに謝辞を述べる。
言い出したらコウは引かない。また彼女もそこまでやる気になったコウを止める自信はないのだ。
「そこは大丈夫。コウはトライレーム勢力下でしか行動できないもの。――コウはIDないし」
『そうですね。コウは私達がいないと移動もままなりません』
コウはアシア大戦時にIDを消去している。
個人では防衛ドーム入場もままならない。つまりアシアの勢力下でしか動けないことを意味する。
「ひとまず安心は……できないにゃあ」
にゃん汰のぼやきが皆の胸の内を代弁していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます