英国先人の知恵
「こちらエンタープライズ。オーバード・フォースでパイロクロア大陸にいるユースティティアに対し、最寄りの軍艦はグレイシャス・クィーンのみ。我々からも支援したい。戦闘機は飛ばせるか?」
「こちら海上のグレイシャス・クィーン。任せたまえ。いささか距離はあるが、なんとかしてみせよう」
エンタープライズのロビンより、グレイシャス・クィーンのジョージのもとへ緊急の依頼が入ったのだ。
「わかった。頼むぞ」
艦長であるジョージ提督は作戦図を確認する。
「ふむ。我々がいるこのエリアからだと金属水素貯蔵炉だとちと辛いが…… 先人の知恵を借りるとしよう」
「大丈夫かね……」
英国先人の知恵。ジョージが聞いても恐ろしい響きだ。
「大丈夫だ。任せたまえ。英国系企業としての矜持にかけて一撃を見舞ってくれよう」
「わ、わかった。矜持のためなら信頼できる」
後にジョージは思い出す。
英国が矜持のために行った奇想天外な作戦のことを。
「レッドスプライト隊、バザード隊。準備を」
ジョージの指示のもと、作戦は決行される。
「ここから御統や五行の要塞エリアに向かうと、迂回ルートになってしまう。直線で現地に向かうぞ」
「はっ!」
レッドスプライト隊の隊長であるソマリ型ファミリアが敬礼し応える。
「レッドスプライトはシルエットが搭乗するだけの推力がある。しかし今回はこれでも足りん。そこで増槽に全振り。常にバザード隊に随伴し、燃料を提供しながらの飛行を任務とする!」
「はっ! しかし理論上可能ですが、かなり無茶振りですね」
「そうとも。だがかつて我が地球の祖国は成し遂げた。我々とて可能だろう?」
「もちろんです。というか実例があるのですね……」
「ああ。当時の海域は大西洋。目標地点は6000キロだ。太平洋と違って島が少なく、敵飛行場の爆撃は困難だった。真の目的は敵飛行場を無力化することではなく、一発でもお見舞いして自国領土を護るための尊厳の作戦だった。たった二機の爆撃機のために老朽化した爆撃機を改良した給油機11機を随伴させてな」
「えぇ。燃料補給のための燃料補給のための燃料補給機ですか。我々も今からやるんですね! その作戦を!」
「その通りだ! 理解が早いね!」
「紅茶美味しい」
猫耳を伏せて紅茶を飲み始めたソマリ型ファミリアだった。
「そうとも。紅茶がないと戦争なんぞやってられん。今回はその状況より遙かに楽だとも。現地にさえ到着すればシルエットに変形したバザードは金属水素の補給を受けられるからね」
「そうですね! 五機のバザードを送り届けるために二十機のレッドスプライトで空中給油するんですね!」
半ばやけくそ気味のようにも見えるソマリ型。
「あのジョージ提督。提言を一つだけよろしいでしょうか」
「良いとも! 小言は勘弁な!」
「金属水素生成炉の機体を、一機でいいから作りましょう!」
「辛辣な提言だな……」
ジョージは思わず耳を塞ぐ。購入認可が下りているにも関わらず、万年金欠病で金属水素生成炉のシルエットがないBAS社であった。
「バザード隊。出撃する!」
「こちらレッドスプライト補給隊。出撃します!」
グレイシャス・クィーンから発進する戦闘機群。
巡航速度限界まで加速し、L451防衛ドームに直進する。
レッドスプライトはまず別のレッドスプライトに空中給油を開始する。原則として増槽の燃料はレッドスプライトに使わない。
リレーのようにレッドスプライトを飛ばし続け、最後に帰還できるだけの燃料を残し、最後の五機がバザードに空中給油を行うのだ。
作戦は成功し、一機が空中給油中にトラブルが生じ帰還したものの、四機ものの可変機バザードが現地の戦闘に参加した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「エメ。ユースティティアの指揮を頼む。シルエット、全機出撃!」
先行する五番機と零式小隊。地形を利用し、低空飛行中だ。
コウがMCS内から指示する。
「はい。L451防衛ドームの防衛に対し遊軍としてユースティティアを動かします」
『敵部隊は11時の方向に展開中です』
「5時の方向からL451要塞エリアを迂回し、側面から攻撃を加えてください」
ユースティティアからエポスやラニウス隊は出撃していない。
接敵後展開予定だ。
「前進速度200キロを維持。敵部隊と交戦開始したあと、戦闘速度を変更します」
『承知いたしました』
ユースティティアが土埃を上げながら陸上を進行する。
「敵部隊発見。旗艦は陸上巡洋艦P150ゲシュペンストだな」
先行していたコウから連絡が入る。敵機を確認後、いったん地面に着地し零式も続いた。
「構成ラインからみてアルゴアーミーにはアルベルト系統の兵器を融通したか」
エーバーⅠやⅡはアルベルトが構築した戦車。陸上巡洋艦もP150ゲシュペンストも彼の手によるもの。
護衛するかのように多数のアルゴナウタイシルエットが確認できる。
『大量生産するならT-04のほうが優秀ではありますが、少数部隊による紛争介入では性能を取ったというところでしょうか。むしろまだ確認されないアルゴアーミー主力はヴァーシャ系統で数を用意しているはずです』
「カザークとその指揮官機までいるな。手下の防衛ドームには余剰兵器を回して自軍は高性能機で揃えている、か」
アストライアが敵部隊の分析を開始した。
「哨戒部隊接近。奇襲して、こちらから仕掛ける。L451防衛ドームからニソスに注意を惹きつける」
「囮になるの?」
「囮になるかな。メガレウスと同等の装甲にAカーバンクル。そして火をもたらした者と破壊の化身お墨付きの兵装だからな」
コウが珍しく冗談を言う。
くすっとエメは笑い応じた。
「そうだね。余裕」
陸上巡洋艦はどんなに装甲が厚くてもAスピネルのリアクター。ユースティティアの装甲の厚さ、そしてウィスの出力とは比べものにならない。
「行くぞ。零式部隊のみんな!」
「はい!」
コウを戦闘に突進し、カザーク三機で構成された敵の哨戒部隊を襲撃する。
五番機は孤月を振り抜きMCSごと水平に両断した。
「て、てきしゅ……」
言い終える間もなく、零式のコールドブレードが閃く。超軽量機による近接戦での奇襲。これはカザークも相手が悪かったといえよう。装甲筋肉は斬撃よりは射撃から防御するための働きが主だ。
残り二機も瞬殺され、無残な姿で転がるカザーク。MCSに止めは差さず、引き抜いて放置する。
「とりあえず始末したが、通信が途絶えるんだ。時間の問題だな」
「仕掛は済んだってことだね」
「あとはユースティティアでひっかき回す。オーバードフォースも増援が来るだろう。頼んだエメ」
「はい」
エメは頷いた。彼女は決して慢心しない。
コウが積極的に彼女を頼ってくれることを内心嬉しく思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます