女神の抱擁
六番機のMCSにいるフランは左右、そして上を見渡す。
「何が起きたの?」
なんと作業用クレーンが六番機を吊り上げている。
「下ろしてくれ。このままでは私のミスで仲間が!」
作業用クレーンは言うことを聞いてくれなかった。
「俺は大丈夫だぜ。すまなかったフラン」
防衛隊の一人から通信が入る。それは先ほど助けに入ろうとしたベアだった。
「そうなの? 良かった……」
「ファミリアが助けてくれたよ」
「ファミリア?」
L451防衛ドームにはファミリアは少ない。
「ああフラン! 大勢いるぞ!」
フランの帰投を待ち構えている整備兵が説明してくれた。
呆然とするフラン。宙に浮いている六番機の足元を大量の半装軌装甲車が走り抜けていく。
「あんなに…… どうして」
何か異質なことが起きている。クレーンはそのまま六番機を格納庫に放り投げる。
待機していた三機のワーカーが六番機を受け止める。
「取り急ぎ補給だぞフラン」
「あの半装軌車の大軍は?」
「わからん! パイロットは全員ファミリアだ!」
「……」
何か得体の知れないことが起きていることは確実だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
装甲車に乗り込もうとしたL451防衛ドームを見知らぬ犬型ファミリアが妨害する。
「皆さんは避難を! ここはぼく達が戦います!」
言っている傍からファミリアが意気揚々と装甲車に乗り込んでいく。
騒ぎを聞きつけたネイトが駆けつけた。
「君たちはどこからきたんだ」
「この防衛ドームですよ。昨日生まれたんです。ぼくたちはアシアによって皆さんを守るという使命をもって生まれました」
「アシアだと!」
「昨日?! この防衛ドームにファミリア生産機能はないし、創造意識体の製造はアシアの許可が必要なはずだが」
「あの方々の言うとおりだ…… アシアは我々を見捨ててはいなかったのだ……」
衝撃的な言葉を宣告するファミリアに、住人に衝撃が走る。
セリアンスロープたちは感動に打ち震えている。
「ええ。昨日コウさんがアシアにお願いしてくれたんですよ。ぼく達が戦います。皆さんは避難を」
「あの男はそんなことまで出来るのか!」
「アシアの騎士様が……」
小声で畏れるように呟くセリアンスロープの青年。その囁くような言葉はネイトの耳には届かなかった。
ネイトは背後を振り返り、何が起きているかわからない防衛ドームの住人に向かって言った。
「みんなの気持ちはありがたい。本当にアシアは我々を見捨てはしなかったようだ。――まずは避難してくれ。ファミリアを信じよう」
「わ、わかった」
「生まれたばかりのファミリアだって戦うってのに、俺達は何もできねーのかよ?」
「そうよ! せめて私達だって何かしたいわ!」
「ワーカーに乗って補給作業を頼む。シルエットも新造されているが、そちらは人手が足りないんだ」
「早くいえよ! いってくる!」
「私も!」
避難するものとシルエットに搭乗する者たちを選別し、ネイトはコントロールタワーに戻る。
「どうなっているんだ」
『はじめまして。私はアシア。あなたがネイトね』
コントロールタワーのモニタに銀髪の少女、アシアの画像が映し出される。
「ア、アシア……」
驚愕のあまり絶句するネイト。まさかこんな僻地にアシアが介入するとは夢にも思わなかったのだ。
『見捨てるつもりなんてなかったよ? ただ本当に……手が回らなくて。言い訳にしかならないね。ごめんね』
「いいや。我々人類こそあなたに何もしなかった。こちらこそいつか謝罪したいと思っていたんだ」
『お互い様ということね。ふふ。ありがと。今は防衛しましょう。コウがね。直接この防衛ドームにみんなを守ってくれないかとお願いしてくれたんだ。防衛ドームもあなたたちが好きみたいね。喜んで協力するといってたわ』
「防衛ドームが? 俺達を?」
『ええ。最後まで見捨てず、ここを守る決意をして戦っていた貴方たちを防衛ドーム、そしてその施設たちはいつも見ていた。でも戦うための権限がなかった。ともに戦うことをコウが許可したから、今はこの防衛ドームがトライゼンやアルゴアーミーと戦ってくれる。これはあなたたちがこの防衛ドームを愛した成果よ』
「……は、はは。何が起きているかわかんねえや。ありがとう、L451防衛ドーム……」
『そうなるよね。コウったら何も説明しないんだから。もう』
「コウがあなたを呼んだのですか?」
『そうよ! 私を助け出してくれた人だから……ってこれは内緒ね』
悪戯っぽく笑い人差し指を口に当てるアシア。
ネイトは絶句する。
――やはりあの男がウーティス!
アシアを助け出した者。アシアの所有を宣言した男。蒼い髪の大仰な軍服はただの偽装であることは明白だ。
『ファミリアたちにも防衛指示は出した。防衛ドームの力を借りたら市街地戦はこちらが若干有利。気を引き締めていきましょう』
「はい!」
ネイトは通信を全軍につなぎ、号令をかける。
「防衛隊隊長ネイトだ。皆に告ぐ。アシアがここにきてくれた。我々とともに戦ってくれる。――勝つぞ、グライゼンに!」
護り抜くから勝利へ。
指揮官の言葉の変化に住人たちはその言葉が真実だと知った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アシアが、本当に?」
フランにも通信は届いている。信じられない思いだった。
【ニソス】が――五番機が来訪してから奇跡が起き続けている。
「でも早く出撃しないと。アベレーションアームズに、エーバー1やアルマジロの大軍がいるんだ。油断はできない」
『気が逸っているわね。そこは平常心だよフラン』
画面に映し出された映像は銀髪に褐色肌の少女。
「アシア!」
『はじめましてフラン。そしてあなたが六番機ね。よろしくね』
アシアはフランとともに六番機にも語りかけたようだ。
「わ、わかりました」
『六番機の追加装甲。私にとっても思い出深いものなの。その装備をしているコウが私を助け出してくれたのだから。きっとあなたも、あなたの防衛ドームも守ってくれる』
「アシアを助けた?」
『ええ。その追加装甲をまとった五番機とメタルアイリスがストーンズに囚われた私を解き放ってくれた。それが二年前だよ』
絶句するフラン。そんな歴史のある装備だとは思いもしなかったのだ。
『その装備は燃費が最悪。金属水素が技術封印されているさなか、コウが腐心して造り上げた追加装甲。今の六番機とも相性がいいはずよ』
「金属水素がない状態で……」
高性能機を駆使するコウ。
恵まれた存在だと思っていた。彼女はただ、己を恥じる。
『そんなに意外? コウなんて転移直後は廃墟に放り出されて死にかけで。廃棄されていた五番機に乗り込んで命からがらの逃亡生活。持っていたものは五番機と貴女と同じ試製大剣、お供のファミリア一人。ライフル一つ装備していなかった。それでも私を助けると約束して、その約束を果たしてくれたの』
「あの人がそんな……」
『彼は水とレーションだけで生き延びた。決して最初から力を持っていたわけではないの。これも内緒ね?』
「アシアにとっても大切な話を私なんかにしていいのですか?」
『その追加装甲をコウが託した貴女にだから知ってもらいたかった、かな?』
「この追加装甲、重い代物ですね……」
『そう。重いの。だから戦場ではよく考えて。必ず生き延びること」
「はい!」
フランの返事を聞いてアシアはにっこり笑い、通信を終えた。
補給作業はもうすぐ終わる。再出撃の時間が迫る。
「どうしよう六番機。本当にこれ、重い装備だ。負けるわけには決していかないよ」
その時だった。フランは思わず震える。――再び流れた音声によって。
『私達は託された。その意味を考えることだフラン』
六番機の思いもよらぬ返答に、フランは大きく目を見開いた。
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