トライレーム旅団【二ソス】
「これからハンガーキャリアーでも援護します。――エニュオを防衛ドーム突入前に排除しましょう」
『承知いたしました。支援砲撃を開始します』
エメの宣言にアストライアは応じる。
支援砲撃の通達を行うとL451防衛ドームの防衛隊は驚愕した。
「普通、ハンガーキャリアーは戦闘しないだろう! 半径20キロ地点にはそんなものはなかった」
ハンガーキャリアーはその名の通り、シルエットの整備用移動格納庫だ。
サイズも様々あるが、多くは大型ホバークラフトやトレーラータイプ。現れたハンガーキャリアーはどの種別にも属さない。
さながら地上を走る宇宙艦のようだ。
「このハンガーキャリアーは機動力がそこそこあります。もう射程内に入りました。ご心配なく」
その輸送機は遠目からも確認できた。ネイトが絶句する。
時速300キロで移動している陸上艇らしき物体を確認したのだ。
「格納庫輸送機? 陸上空母のように見えるが!」
全容を現すハンガーキャリアー。全長二百メートルはあろうかと思わせる巨大な陸上艦が姿を現したのだ。
艦船は長方形。何故か巨大な尾輪が備え付けられている。
「ハンガーキャリアーです」
エメは無表情に強調する。
格納庫のハッチが開き、エポスに偽装したエポナが二機出撃する。にゃん汰とアキだ。
アキは接近用ランス。にゃん汰は90ミリのガトリング式の
「エポ……ス。出撃します」
「久々の出撃にゃ!」
アキがついエポナと口走りそうになり、慌てて
「同じくギャロップ社部隊。出る!」
「ラニウス隊。側面を警戒。別方向にマーダーあり」
ネレイスで構成されたラニウス隊も配備されている。三機ずつで構成された小隊だ。
選ばれた人間は羨望の眼差しを受けたことはいうまでもない。
「零式小隊、でます!」
艦載機に余裕はないので零式小隊を用意。紛争地帯にそう出番はないだろうが対空任務は彼らの仕事となる。
「やっぱりハンガーキャリアーじゃねえ。陸上空母だろ。あの搭載量!」
旅団ともいうべき部隊を搭載している。ざっと目視できるだけで三十機近い。
L451防衛ドームの防衛隊が驚嘆する。ハンガーキャリアーはせいぜいシルエットを数機運搬、整備する程度。
何やら航空機まで飛び立っているのだ。そんなハンガーキャリアーは聞いたことが無い。
「これならエニュオにも勝てるかもしれない。みんな周囲のマーダーを排除して援護を行え! 俺達の防衛ドームだ!」
戦車駆逐車両に乗ったセリアンスロープの青年が檄を飛ばす。
クアトロ・シルエットが大量にいるということは彼の同胞。必ずや力になってくれると確信があった。
「ああ!」
「こんなところで死んでられないな」
大量のマーダーに包囲されているものの、士気が上がるL451防衛部隊。
TAKABA社からの使者は圧倒的な戦力を誇ってマーダーを駆逐していった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マンティス型から放たれるレールガンをものともしないエポス。
エポスが突進し、ランスを狙い定め、穿ち抜く。マンティス型の装甲を貫きリアクターまで到達し破壊した。
たった一突きでマンティス型のリアクターを破壊したエポスを目撃し、L451防衛ドームの防衛隊にどよめきが広がる。
「死ねにゃ」
アントワーカー型やコマンダー型相手に90ミリ機関報を乱射し、無造作に撃滅していくにゃん汰。
「防衛隊は周囲を警戒してくれ。この数は異常だ。L451防衛ドームを殲滅しにきたとしか思えない」
コウはすぐさま異変に気付いた。
マーダーに撤退はない。大量のケーレスはL451防衛ドームの住人を一人残らず殲滅することが目的としか思えなかった。
「俺達が戦っていた勢力はストーンズの力を借りて建国を目指す【グライゼン】。とくにこの防衛ドームの抵抗が激しかったから、ストーンズに応援を頼んだってところだろう」
苦虫をかみ潰したかのような表情でネイトが状況を説明した。
「勢力争いにマーダーを持ってくるか。大した面の皮だ。こんな無人機で虐殺とは」
吐き捨てるコウ。無尽蔵ともいえる沸き方。アシア大戦初期を彷彿させた。
人類同士の抗争は建前に過ぎない。マーダーを手駒として使うストーンズに嫌悪感を催す。
「そんなことはさせないですけどね」
フユキがにやりと笑う。
「おうとも!」
ヴォイのドリル戦車はレールガンを用い、援護射撃を行っている。
「ああ。フユキさん。ここは護り切ろう」
五番機は蜘蛛の子を蹴散らすかのように、アントワーカー型を斬り伏せながら前進する。
「ワーカー! とにかくお前達は下がれ!」
コウは内心の動揺を隠せなかった。
作業機が武装して戦っている。アシア大戦以前ではごく当たり前の装備。
しかしそんな人類の装備を更新するために彼は技術開放を行ったのだ。作業機で戦闘を強いられていた彼らの状況にショックを受ける。
「ありがたい。いったん下がらせてもらう」
ワーカーが戦線から後退を始めた。装備はポン付けの追加装甲に、旧式の60ミリライフル。
これではアントワーカー型は破壊できても、高次元投射装甲を持つアントコマンダー型やマンティス型に対しては絶望的な能力差だろう。近接戦を仕掛けるにしてもワーカーの機動力などたかが知れている。
「それでいい。補給に移ってくれ。前線で戦闘中のベア、エレファントに告ぐ。君たちは被弾の状況を見て後方に下がり、修理を受けろ」
「わかった。ありがとうリーダーの方」
ネイトが感謝する。防衛隊の戦力を見て、リーダー格の男は的確な指揮を行っている。
「コウでいい。敵の数は多い。弾切れに注意しろ。六番機以外は敵に近付くな」
「私はいいんだね」
五番機の乗り手はシルエットの特性を相当把握しているようだ。
構築技士かもしれないとネイトは予想する。
「君は俺の傍から離れず近接戦だ。エニュオに対し支援射撃があるはずだ。その後、クアトロ・シルエットと連携し動きを止める」
「わかりました!」
フランは目を輝かせ返事をする。
これほどまでに彼女の意を汲んだ指示は今ままでなかったのだ。
しかしコウの表情は浮かない。
倒れているワーカーを、別のワーカーが二機がかりで運搬している。運搬車を運用するファミリアさえいないのだ。これではファミリア不在のアルゴフォース以下の運用しか出来ないだろう。せめて間接支援機に出来ないかと思う。
ベアが必死に援護しているが、バッテリー式で駆動しているアントワーカー型レーザーの被弾如きで装甲が削られている。
今のトライレームではありえない光景。いや、コウが知りようがなかっただけでシェーライト大陸以外は当たり前の光景なのだろう。
「これが……現実か」
誰にも聞かれないよう、コウは小声で呟いた。
技術開発の最前線にいたコウは当然自勢力から強化し、その恩恵をもたらした。しかしこぼれた者もいる。当然ではあるが、実際目にするときれい事も言っていられない。
背後には、背中を守るように応急修理された六番機がいる。しかしその損壊は隠しきれない。
「全員は救えない。そしてこの紛争地域は――人間同士の勢力争い。背後にストーンズがいるにしても、だ」
ケリーの言葉が胸に染みる。
遠目にはシェルターに空いた孔を徐々に大きくするエニュオが見えた。
このままだと蹂躙されるだろう。今までも、幾度も見てきた光景だった。
「しかしこうも言った。――-助けを求めているヤツから助けてやれと! 彼らは生まれ育った地を護る戦いをしている。ならば――」
コウもまた迷いを捨てる。
「行くぞ五番機。――エニュオを倒す。ついてこい、六番機!」
本来なら置いていくべきだろう六番機。しかしそれは違うとコウは断じた。
これは彼らの戦い。自分は手を貸すだけだ。彼らは戦わねばならない。その象徴は間違いなくこの六番機であろう。
「はい!」
フランは思わず口の端を吊り上げて歪めた。
後方に引っ込んでいろとでも言われると思っていたからだ。赤毛の少女に不敵な笑みが浮かんでいた。
「話がわかる男。五番機の乗り手とは何者かな」
六番機もまた駆け出す。自らの戦いに身を投じるために。
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