機能美を追求
「……航空戦艦か」
「これは予想外の提案ですよ。扶桑型は旧式ゆえに改装されたが……」
ヒラカワとホリキリが絶句する。むろん祖国においてかつて存在した艦種である。しかし――
「航空戦艦。成功例がない。日向は砲塔が爆発し改装の手間が省けたとされるが……」
「英国での最初の航空母艦フューリアスも改装艦でしたな 。それもまた軽巡洋艦を改装したもので、あくまで空母確立までの過渡期のもの。日本においても加賀が同様の火力を有した空母であったはず」
キヌカワとマルジンが感想を漏らす。
「皆様の不安は当然です。本来ならば戦艦改装型の装甲空母としての運用が妥当でしょう」
コウは何故航空戦艦に衝撃が走るか理解できなかった。
そう思った矢先、アストライアが説明を開始する。
「空母搭載能力と戦艦機能。かつて地球においても新規で設計されたことはない艦種。空母運用で大砲を搭載するぐらいなら搭載兵器を増したほうがよく、火力を搭載するなら形状を考慮すると飛行甲板は後方配置にせざるを得ない。航空戦艦はいわばお互いの長所を殺す設計となりましょう」
「しかしアストライア。あなたはあえて航空戦艦を提案した。21世紀の300メートル級原子力空母において全長16メートル級艦載機は75機前後。可変機やシルエット、ネメシス戦域の戦闘機とも大きな差はありません。それでいて全長二キロ級を運用することになるのです。飛行甲板と火力の両立は容易である。あなたはそう仰るのですね?」
マルジンがその結論に至った現環境を解析、推測する。
「その通りですマルジン。これは五行重工業ヒラカワが構想していた宇宙戦艦計画と相反するものではありません。彼も戦艦大和を参考に後部飛行甲板案も計画していましたね」
「十分すぎるほどのスペースはありましたので」
「洋上基地としての信濃、飛行甲板の弱点を補うべく建造された装甲空母大鳳。確かに装甲空母も検討しましたが、防御力が突出しているネメシス戦域では火力は重要です。そして今や航空戦力も」
アストライアが示す、日本海軍の歴史。終戦間際、本来の性能を発揮できなかった軍艦だった。
「そこで対艦、対地攻撃を兼ね備えた強襲揚陸機能を持つ、残存能力も高い指揮艦としての航空戦艦か。まさしく万能艦を目指す……」
壮大な計画にヒラカワが言葉を無くす。
「ご覧ください」
今度は動画が投影される。天空から降り注ぐヨーヨー型のパンジャンドラム。たった一撃で宇宙艦の艦橋は根元から吹き飛んでいく、その光景が再現された。
「再利用可能なスカイフック型ヨーヨー式パンジャンドラム〔
プロメテウスが腹を抱えて笑い、アリマも何かを堪えている。思わず噴き出しそうになったのだろう。このような発想でソピアーやオケアノスの制裁を免れたものなど存在しない。
「これは恐ろしい攻撃ですね。オケアノスもさぞ判定に苦心したことでしょう」
破壊神のお墨付きまで得てしまった〔吊られた男〕だった。
「スカイフック型軌道エレベーターの原理をヨーヨーのように利用するとは誰も思わなかっただろうね! 原理的にはただの軌道衛星からの粉砕鉄球。爆薬も汚染効果も用いていない」
プロメテウスも認める。
硬直するマルジン。ここは無言で通したほうが良さそうだと判断する英国紳士だった。
「自賛するようで痛み入りますが、さすがは宇宙戦艦といったところでしょうか。破壊できたものは唯一の可動部といっていい艦橋のみ。戦艦本体にダメージは与えられず、地中に埋め込むのみでした」
「なかにいたシルエットや人間はたまったものじゃなかっただろうけどね!」
「はい。それは悲惨な光景だったようです」
80メートルの質量兵器は、頑丈な戦艦本体ではなく、内包された搭載物や人間をシェイクして甚大な被害を与えたのだ。
アストライアはパンジャンドラムの直撃を受けた、艦橋があった破損部位を表示する。
「メガレウスは艦橋が内蔵可能なタイプの構造です。ですが不幸中の幸い。展開中の艦橋が一撃で破壊されたにも関わらず、本来格納する開閉部にダメージは少なく、艦橋を内蔵していたスペースに余裕ができております。このたびの改装は艦橋を簡易化し、このスペースを有効活用しながら航空戦艦へと改装する計画です」
「装甲空母とするより、火力を盛る方向ですか。スペースはなかなか使い所がありますね。格納庫にしてもいいし、巨大な砲を設置してもいい」
アリマも自分が改造するならどうするか検討を開始する。
「はい。そしてこの場に集った叡智によって搭載する兵器は五行重工業が想定していた各遺物を用いた光学兵器搭載艦に。そうすることによって火力を維持しつつ兵器搭載数を増やします。これが〔ミカサ〕(仮)への提案です」
「惑星間戦争時代の兵装修復とモジュール化がぼくたちの仕事となるだろう。あなたたち構築技士は、このモジュール化された兵装を適切に配置、応じてシルエットと戦闘機の開発を行うのです」
プロメテウスが言葉を継ぐ。壮大な計画に構築技士たちが絶句した。
「修復に必要なものはトライレーム艦隊の皆様がテラスからある程度回収しております。その選別作業はお任せください」
モーガンが口添えする。航空戦艦〔ミカサ〕(仮)に用いる兵装の多くがリュビア産の部品を使われることになるだろう。
「艦橋が存在した空間を何に使うかは、トライレームの構築技士にお任せいたします。構築は構築技士の仕事になりますので」
「そういうことだね。応用が利くようモジュール化はぼくたちが進めよう。アリマ。手伝ってくれるかい?」
「やりましょう。兄さん。これはポリメティスの力も借りねばなりません。現行の技術制限をみると、ソピアーの絶望具合が痛いほど伝わりますね」
「部品が目の前にあるのに、肝心な技術の根幹が封印されているからね」
おずおずと五行重工業の構築技士ヒラカワが切り出した。
「スペースは相談する時間をいただきたい。これはあくまで修理が行えるならと仮説に基づいた案でした。さすがに私達の一存では……」
「承知いたしております。本作業は我々トライレームリュビア遠征隊が戻ってきてからが本番になるでしょう」
「ありがたい。いえ、ありがとうございます」
冷や汗を拭うヒラカワ。思いもよらぬ場に立ち会ってしまったのだ。
「スペースも有効に使えば飛行甲板は一キロ確保できる。どうする?」
「八百メートルも必要ないだろう。F22ですら一キロで飛行できる。惑星アシアの技術があれば五百メートルも不要。そうだろう衣川」
「堀切のいうことはもっともだ。艦載機専用設計すら必要ない。零式などそのまま空中に飛んでいけるしな。ファミリア用の戦闘機を……」
五行重工業の構築技士とキヌカワが軽く必要な飛行甲板部分を検討する。
その間にプロメテウスとアストライアは艤装に関する話を行っていた。
「結果によって対応できるよう、様々なプランは作っておこう。総括は君に任せるよアストライア」
「承知いたしました。プロメテウス」
コウは艦船にはうとい。むしろ五行重工業の話に耳を傾けている。
「――この方向性で持ち帰りましょう。皆さんに送付いたします」
ささっと資料を作ったヒラカワがまずエイレネに送りチェックを行って全員に転送する。
「では方向性は定まりました。一度構築技士の皆様とは解散ということで」
「大変得がたい体験でした。ありがとうございますアストライア」
ホリキリも礼をいい、初期のメンバーのみに戻る。
マルジンは解放されなかった。
「では今後は私達に可能なことを行いましょう。メガレウスの現行改造はこれです。多くは破壊されております」
今度はストーンズによって改装されたメガレウスが表示される。
「ストーンズの構築技士か。結構な力業で改装しているな、これ」
「そうですね。美しくはありません。雑といってもいいでしょう。ぼくたちは機能美を追求して改装しましょう」
「機能美か。賛成だね。これはいただけない。雑だなあヘルメス」
「所詮ヘルメスですよ」
プロメテウスとアリマの解析は厳しかった。
コウはいきなりプロメテウスに手を引っ張られ、中央に立たされる。
「コウの知識範囲内と収穫した部品範囲内で構築や修復可能な光学兵器を。大型三連レールガンに対応する荷電粒子砲やレーザー砲を今から構築するよ。君がやるんだ」
「今からか!」
「時間が無い。それに、この作業が楽しいんだ。みんなが役立てることがあるんだからね」
そういわれて周囲を見回すと、確かに嫌そうなそぶりをしているものはいない。
「そうですね。では始めましょう。――これより兵装構築を開始します」
アストライアの言葉とともに、ビジョンの者たちはコウを中心に車座になって座り、各々部品のピックアップを始めた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「意外と早くリストアップできましたね」
「みんなが優秀だからだよ。技術制限のなか惑星リュビアと惑星アシアにあるものだけで、これだけのことができるとはね」
コウはかねてから気になることを口にする。
「シルエットの光学兵器まで作ることになるとは…… ここまで小型化できるんだな」
「威力はレールガンや軽ガスガンとあまり変わらないよ。惑星アシアやリュビアには十分だろ?」
にっこり笑うプロメテウス。コウが高威力光学兵器を封印したことをしっての処置だ。
むしろ継戦能力に振った兵装なのであろう。支援機用だ。
「助かるよ。――惑星エウロパは違うのかな。誰も口にしたがらない。どんな惑星か……禁忌なら聞かない」
プロメテウスは肩をすくめた。
アシアやアストライアは困惑している。
「エウロパの件か。ぼくはどうでもいい。コウはリュビアも救った。話していいかな」
どうでもいいという表現が気になるコウ。
「あなたがいいのなら。プロメテウス」
アシアはその場にいるAIたちの言葉を代弁し、伝えた。
「い、いや。聞かないほうがいいな。やっぱり」
地雷を踏んだことには間違いない。後悔するコウ。
「みんなが黙っている理由はね。実はそんなに大したことじゃないんだ」
今度はプロメテウスが惑星を表示する。
見慣れない惑星。おそらく惑星エウロパなのであろう。
「エウロパからはリュビアと違い救難信号はないはず。気になったのはどうしてだい? なんとなくかな」
「なんとなくに近いな。技術解放方式がアシアとリュビアで違うだろう? ならばエウロパもまた違うのだろうと。重工業に強いという超AIらしいから、得るものがあれば。その程度だ」
「なるほど。それは構築技士としても当然の疑問だ。技術解放の最前線にいる君は聞くべきかな」
改めて、他のAIたちに視線を送り、話すことを確認するプロメテウス。
AIたちからは反対はなかった。
「惑星エウロパ。人間が滅亡した、何の価値もない惑星だよ」
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