本当の意味での構築(ブリコラージュ)
「まず幻想兵器の分布を確認しよう。テラスは七割、クリプトスは一割。アイドロンが二割。地域によって違ってくるが、惑星全域でみればテラス優勢だ。これは仕方ない。毒をもって毒を制す。そうでもしなければストーンズに対抗できなかったんだろう」
「クリプトスやアイドロンが妙に少ないと思ったが、そこまで差が……」
「そしてテラスは――資源でもある」
「喪われた技術を再現している個体か」
「そう。彼らは補給を受けることができない以上は光学兵器中心になるし、再現できるように設計されている。つまり撃破したテラスの武装や機関部は、そのまま資源だ。回収したミアズマもリュビアのクレイになる。これは新たな通貨のような扱いになるだろう。運用はオケアノスに押しつけたらいい」
「さりげにひどいよねプロメテウス」
『発案するだけで実務は丸投げにするヤツだからなプロメテウスは』
冷ややかなアシアとリュビア。オケアノスが知らないところで丸投げするプロメテウスである。
「タルタロスに拘束されていなければもう少し自分でやるよ?!」
自らの沽券のため、慌てて言い張るプロメテウス。封印されている身では実際に実務は不可能だ。
「もう少し、か」
全部やるとは言っていないことを見抜いたコウの言葉をスルーし、プロメテウスは続ける。
「クレイはどのみち回収しなければいけない。テラスを倒し続ける必要があるということか」
「副産物もある。クリプトスたちが復興させた農耕は、嗜好品としては破格だ。培養肉や合成肉のアシアではね。アシアが落ち着いたら考えればいい。つまり、今後も大いに惑星リュビアとの往復は利益になるとトライレームに提示できるということだ!」
「継続的な支援ではなく、取り引き、資源回収のための遠征ということですね! クリプトスたちが見張っているので植民地になることもないでしょう」
アベルが即座に意図を理解し、賛同する。
「現在は小康状態。また溜まったマグマが噴き出すように、双方激突する機会が生じるだろう。その時のためにも、ね。時間はないぞコウ」
「やっぱりそうなるか。わかった」
アシア大戦、そして尊厳戦争終了後からストーンズの動きはない。
双方、来るべき日に向け戦力を蓄えていると見るプロメテウスに同意するコウ。
「簡単には行かないけどね。主戦場はアシアだ。だからトライレームに力をつけてもらわねばならない。そこで、リュビアの肉体ともなる話だ」
「本題、か」
「君たちは海溝の奥底に向かうといい。そこには宇宙艦の墓場ともいうべき場所や、開拓時代の遺跡もある。リュビアの肉体になりそうなものはあるだろう」
「まだミアズマやヒュレースコリアに干渉されていない、と」
「クレイだからね。深海を探索する傾向はあるが、海溝ほどの深度までいくことは困難だと思われる」
『宇宙船の墓場、古代遺跡。ああ、確かにリュビアにはそのような場所はある』
プロメテウスは惑星リュビアの海図を取り出し、ある部分を指し示す。
「リュビアの肉体を手に入れた時こそ、コウ。君の惑星リュビアにおける第一目標、超AIリュビアの救出は果たされる。そこで初めてアーサーと起点とする人類の拠点レルムは完成するだろう」
「深海。しかも海溝の最深部ですか。トライレームの宇宙艦でも可能ですが、安全とは言い難いですね。ですが理論値では可能です」
宇宙艦は潜水艦機能を兼ねているものがほとんどだが、海溝を潜るほどの機能は想定していない。
真空の宇宙と高圧力の負荷がかかる海底では必要とする能力が異なる。
「バハムートに頼めばいいじゃないか。彼は海流を司る幻想兵器だ。きっと力になってくれるだろう」
「シルエットを搭載可能なの?」
こともなげにもいうプロメテウスに、アシアが驚いて問い返す。
「ヴリトラだってシルエット型幻想兵器を搭載していただろう。バハムートに海底へ連れていってもらおう。彼は人なつっこく優しく、そして強いから安心できるよ」
「そうだね。知っている」
エメと会話していた、おどおどした巨大ななまずを思い出しアシアが微笑んだ。
「意志疎通が猫語でいいのは解せないけどね!」
「私たちなら余裕」
「師匠がいるなら当然そうだろうね」
プロメテウスが頷いて、再び見上げる。
『ネコ語? そうかキャットフィッシュね。それなら私でも会話可能か』
リュビアも即座に飲み込んだ。
「今度は深海か」
「ビッグボス。かつて地球において海溝は宇宙よりも遠い場所と言われていました。くれぐれもご注意を」
「ありがとう。マルジン」
深海探索。次の目標が定まった。
「方針は固まったね。ではアストライア。本題の宇宙戦艦については君がやってくれ」
「私ですか!」
「他に誰がいるんだい? ぼくは今日しかいることはできないよ。今後、継続してコウを支えることができるのは君だ。アシアは兵器開発AIではない」
「そ、それはそうですが……」
「ぼくたちに気兼ねする必要はありませんよ。アストライア。仲良く技術談義をしましょう。プロメテウス同様、この場にいるAIは技術封印されている身ですが、得ることは多々あります」
「もちろんです」
「それに。本題はあれだ。君が常々コウに言っていた言葉。今回は本当の意味でそうなる」
「俺に言っていた言葉?」
コウが首を傾げる。
「そうですね。ありがとうございます。あなたのことを誤解していたようです。プロメテウス」
「ぼくはよく誤解されるからね! 気にしていない」
「ではいきますか」
アストライアが常々言っていた言葉。それは――
「コウ。あなたがやることは宇宙戦艦を本当の意味での
「了解した。でも五行に怒られないかな」
本来は五行重工業の計画。この場にいるAIたちの力を集結する。その言葉の重みに耐えかねつい口走ったコウであった。
――臆するな
心の声が彼を叱咤する。
ふと我に返る。
「いや、やる。やりきってみせる」
そう思ったところで意外なところから助け船が出された。
「いや、コウだけでは戦艦の知識に乏しい。五行の構築技士とキヌカワも呼ぼう! 日本人同士、理解もしやすいはずだ」
「賛成ですな。エイレネ、すぐに五行重工業と連絡を取ってください。ヒラカワ氏とホリキリ氏を」
プロメテウスの提案に、即座に同意したマルジン。この場での指名した二人にプロメテウスは頷き、反論はなく承認される。
この状況での道連れは一人でも多いほうがいい。そう思う英国紳士の機転であった。
「すぐ呼んでくるね!」
エイレネが消え、助かったと安堵するコウ。コウとマルジン二人だけでは確かに荷が重い難物である。
「パンジャンドラム戦艦もみたかったですね」
笑いながらアリマが、皆が恐れて口にしなかった事実を指摘する。
「それぐらい空気読むよね、二人とも?」
『主兵装に〔吊られた男〕系のパンジャンドラムがつくのは確実だ』
「四輪戦艦はバイク戦艦の可能性も」
『そんな発想は存在が許されない』
「バイク戦艦の発想はフィクションだけど地球にあるって聞いたことがあるよ!」
『なんだと……』
アシアとリュビアにはしごを外される二人であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
五行重工業の艦船担当の構築技士ヒラカワ・ジョーと零式などシルエット及び航空機担当のホリキリ・ゴローもエイレネに呼ばれ惑星アシアから会議に参加した。
二人の表情も虚ろであった。彼らにはアリマの正体以外、通達されている。
「ビッグボス。宇宙戦艦復活計画の承認ありがとうございます」
声が出ない二人に変わり、エイレネが朗らかに告げる。気まずさのあまり代理を買ってでたのだ。
引き攣っているのは同じくキヌカワ・エイジであった。
「それでは揃いましたね。メガレウスはかつての私が設計し、データはあります。アクトール級の基本設計から説明していきましょう」
アストライアはやる気に満ちている。いわば前任者たちに相当する超AIたち相手に、まごついてはいられないのだ。
彼女はかつての自分が行った設計に関して、胸を張らなければいけない。
もう存在しない、本体のためにも。今与えられた時間は彼女の晴れ舞台でもあるのだ。
「宇宙戦艦の前に一つ。惑星間戦争時代のかつての本体。――いいえ。私の話をさせていただきましょう。ネメシス星系壊滅の原因は間違いなく私にあったのですから」
沈黙が続く。彼女の言葉に口を挟むものはいなかった。
「ネメシス星系は開拓時代。そして惑星間戦争時代とそれぞれ事情が異なります。開拓時代は割愛しましょう。三十五世紀の技術は、人間の手に負えるものではなかったというだけ」
アシアとプロメテウス、二人が頷いた。
「開拓時代の宇宙艦は海上のような空母打撃群を形成することは困難かつ無意味。超高速域での戦闘になるからです。ゆえに単艦の戦闘力が求められました。艦の大型化によって面積は大きく、ウィスによって装甲は厚く、光学兵器中心なので命中率は高くて当然。機動力は作戦目標達成に必要でしたが、防御として回避行動としては効果が薄いのです」
「秒速数十キロから数百キロの世界。艦砲は全てレーザーや荷電粒子砲。光速なら秒速で約三十万キロの世界。レールガンでの弾速では遅すぎたんだ」
プロメテウスが補足する。アストライアは頷いた。
「宇宙空間とシルエットでは戦闘能力も違います。宇宙空間戦闘にシルエットの推力は小さすぎたのです。護衛に出撃させたところで宇宙艦に追いつけず宇宙の迷子がせいぜいでしょう。必然的に艦隊による砲撃戦。シルエットは海兵隊としての敵艦乗艦要員ですが、そも易々と侵入が許されるはずもありません。必然的に艦には装甲と火力が求められ、多数の勢力が入り交じった時代にこのアクトール級戦艦が建造されそれぞれの勢力に引き渡されました。性能が同じ兵器を運用する以上、天秤の女神をモチーフとしたアストライアは各勢力がどのように使いこなすかで、人を見極めようとしたのです」
「しかし、それは失敗だった……」
アシアが力無く呟いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いつもお読みいただきありがとうございます!
今日は宇宙戦闘の基礎です。
艦隊での行動にはなりますが、それぞれ単艦での戦闘力が求められました。
宇宙空間である以上、シルエットと宇宙艦の推力が桁が違うからです。艦載兵器と宇宙艦の関係性は多くのSF作品も同様ですね。
もちろん宇宙空間だけ想定していては本土上陸、拠点制圧はできませんので、ここらの詳しい話は次回。
パンジャンドラム戦艦?はさすがにないので…… 兵装としてはもう用意されているのですが、そろそろオケアノスに怒られそうなので艤装できていないのが現状です。
さていよいよ次回、宇宙戦艦ミカサ〔仮〕を運用する上で分析、そして目指す方向が判明します。
材料は惑星リュビアにあるのです。
いよいよ明日9月17日(金)『ネメシス戦域の強襲巨兵③ アシア大戦前篇・巨大兵器包囲網を打ち破れ!』発売です!
アシア大戦に突入します! 完走できるよう、書籍版も是非応援よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます