宇宙戦艦復活計画

「なんで復活なの? こういうときは宇宙戦艦再建じゃないかな」


 アシアが疑問を呈した。

 コウの目は虚ろだ。五行の社員たちなら〔再建〕ではなく〔復活〕をやりかねないと思ったのだ。

 エイレネは両手で顔を覆っている。サプライズを事前にばらされ恥ずかしがっているのだ。


「なんでだよ…… 無理だろ」

「地面から這い出るように浮かぶのがいいらしいよ?」

「埋まってるけど! 多分そっちじゃないと思う」


 五行の人たちは艦隊を泥で覆いたいのではなかろうかと予想するコウ。


「詳しい話はエイレネに聞けばいいかもしれない」

「ごめんなさい!」


 エイレネが自白した。どうやら知っていたらしく、即座に謝罪した。


「上の世代が好きそうな計画だよ。ありうるな……」

「宇宙戦艦〔ミカサ〕(仮)計画と書いてあるね。君の祖国の地名であり、 武甕槌命タケミカヅチノミコトが降臨した聖地だ」

「ミカサ? ヤマトじゃなくミカサ? え? タケミカヅチ?」

 

 軽く混乱中のコウ。タケミカヅチは剣術にも縁が深い神である。

 

「艦名〔ミカサ〕(仮)と書いてあるよ?」

「奈良の御蓋山か。 武甕槌命は剣の神様でもあり、鹿島新道流がある鹿島の神様。反対はしないが……」


 ようやく声を絞り出して呟くコウ。自身も一度いったことがある場所で春日山の別名だった。刀剣由来の金物屋が多い。土産に菊一文珠の包丁を買ったことを思い出す。


「そこでも剣術で判断するのねコウ……」


 五行がメガレウスの解析に熱心であることは知っていたが、そんな計画を立てているとは思わなかった。

 アシアはこの期に及んで剣術で理解するコウに呆れていた。


「しかし何故ミカサなんだ。ヤシマやムサシ、オワリとかそれらしい名称はあると思うんだが」

「尾張か。実際に日本軍が計画していた大和級改候補だった説はあったね。この資料にも記載されている。ただ語呂的に縁起が悪いそうで却下されたようだよ」

「終わりを嫌ったのか。らしいといえばらしい」


 言葉遊び的にはよろしくないだろう。天下取りなら紀州もありだと思うコウ。古典落語を思い出す。


「しかしどこにメガレウスを復元できるほどの技術があるというんだ。材料すらないだろう。俺の構築権限フルに使ってアストライアにつきっきりで取りかかってもも無理だ」

「この宇宙戦艦復活計画のミソはそこなんだ! 彼らは結論として早々に自分達の手による光学兵器の修復を断念した! 思い切りがいいね」

「えぇ……」

「そして鹵獲した兵器や宇宙艦の残骸から回収して新たな艤装とすることを検討していたんだ。傭兵機構だった連中の宇宙艦は海の底にあるし、そこにある兵装や鋼材は使えるかもしれない。そういうパッチワーク的な再建計画と基礎研究を彼らは重ねていた。本来の意味でのブリコラージュを模索していたんだね」

「地道すぎるだろう……」

「アシア人には無理だね。転移者ならではだ」


 プロメテウスは映像を一部、表示させる。

 日本語で記載されている書類に、英語の字幕が付いている。


「装甲の修復試験、搭載する荷電粒子砲とレールガンを比較し、大気圏内における実用性を地道に検証。巨大レーザー砲のみは製造の可能性を模索。そう、彼らはコウが構築した巨大レーザー砲〔オニキリ〕と〔テンコウ〕をみて確信したんだ。三人目のアシアによって一部、強力な光学兵器が解放されているのでは、と」

「……一流の構築技士なら可能性はあります。基礎理論から、膨大なパーツを検索し〔オニキリ〕と〔テンコウ〕の複製を試みた、ということですね」


 アストライアが可能性を認めた。コウは陽電子砲などの光学兵器技術を解放していない。制限はかかっているはずだ。


「完成品は決してAIからは提示されない。しかしアシアが解放された以上は封印された技術品目でも、構成されたパーツ部品は一部存在する。そうでなければ修復さえも不可能だからね。そして足りない、封印された技術がどのようなものかも推測可能だ。理論をもとにした基礎研究の一種だね」

「五行は最小構成部品から、技術封印をすりぬける製造ツリーを探し当てたということですか」

「途中、かな。かなりアタリはつけているね。ただやはりメインは遺構の回収中心だ。エイレネもその研究には力を貸していたようだ。エンタープライズの残骸を紹介したのも彼女だしね」


 エイレネは肩身が狭そうだ。アベルの背中に隠れている。


「エイレネ。なぜこの期に及んでこそこそと」

「だってさ。姉さん。艦そのものは無事だし。リアクターも装甲も生きている宇宙戦艦だよ? もったいないじゃん」

「地中に埋めたのは貴女でしょう」

「それもあるよ。だけど、破壊できなかった。あの強固な戦艦を自軍として戦力にしたら? そして所有権はトライレームにある。サプライズとして復活する艦としてぴったりだったの」

「すべてをサプライズ基準で考えるから、こんな事態になるのです」

 

 プロメテウスはアストライアを宥めるように割りこんだ。


「マルジンもいる。安心しよう」

「そうですね。ミカサの名がつく軍艦になるならば、英国出身者としては見逃せません」

「どういうこと?」


 コウが苦手な分野。アベルに直接尋ねる。


「かつて日本海軍の旗艦三笠もまた英国の造船所で作られた軍艦なのです。その後、金剛級など多くの戦艦開発に寄与しました」

「そうだったのか……」

「私も一度見学しにいったことがあります。横須賀のカレーは美味しかったですぞ? カレーもまた英国と日本を結ぶ伝統料理です」

「そういう話になるんだな! そういえばレトルトにも海軍カレーがあったの思い出したよ。まあ、それはおいおい話すとして宇宙戦艦〔ミカサ〕か」

「かつてのメガレウスだ。その戦闘力を多少なりとも修復すれば、かならず君たちの役になるはずだ」

「それは当然。まさに武甕槌命の名に相応しい名前の船になりそうだ……」


 にっこり笑うプロメテウス。悪戯を画策している子供のような、朗らかな笑顔だ。


「これをぼくたちの手で完成させよう。アルゴナウタイは応急修理して運用した。ぼくたちは、この集結した叡智で惑星間戦争時代に近づけよう。――つまり、ここにいるみんなで思い思いの兵装案をぶつけあおう!」

「面白そうですね! ぼくも参加しましょう。ポリメティスも参加したがっていますね」

「こうなれば私達三姉妹も参加しますよ」


 遠い地でエウノミアが抗議しているが、聞き入れられなかった模様だ。


「こうなれば決まりね。叡智が集結した宇宙戦艦復活計画。もちろん我が身を取り返すためにも、私たちも参加するわ」

「そうじゃな。リュビアの知識はほぼそのまま。わらわも手伝おうぞ」

「エイレネのサポートとして私も参戦させていただきますぞ」

『参加したいのはやまやまだが、この機械の器では居心地が悪いな……』


 リュビアがおずおずと言い添えた。盛り上がっているところ、水を差したくはないのだろう。


「今からその話をするから安心してくれ。リュビア。宇宙戦艦復活、新たなリュビアの器。そして兵装に関する話をしよう!」



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「これは転移者企業の交易資源ともなる話だ。コウ、マルジン。とくに君たちはよく聞いておくように」

「わかった」

「私もですか」

「マルジン。君はマーリンを名乗っても良いぐらいだよ?」

「謹んで遠慮させていただきます」

「もったいない。面白いことができそうなのに」


 真顔で首を横に振るアベルに対し、くすくす笑ったあと、話を戻すプロメテウス。


「ストーンズは殲滅され、この惑星リュビアは数多くの幻想兵器が覇権を争う惑星となった。覇権の目的は人間の保護。彼らにとって人間は自らの存在意義であり、通貨であり、資源ともいえる」

「資源はわかる。ヴリトラのように組み込んで強化だろう。それが通貨?」

「それだけじゃない。破損した機体の修理など、人間と作業用シルエットがないと不便な点は確かにあるんだ。そういう意味で労働資源だね。鉱石や金銭に意味が無い幻想兵器――テラスにとって価値あるものは人間やシルエットだ」

「修理部品が欲しいから保護している人間五人渡すとか、そんな世界か?」

「正解だ。だからストーンズのように有機肥料にはしない。テラスでもヴリトラは特殊な例だった。テラス最強の一角だからね。あれは」

「あれも人間は殺してはいなかった。生きていたからな。生きているだけだったが」


 コウは嘆息した。


「もちろんテラスはマーダー面が強くでている種だ。クリプトスやアイドロンと相容れることはない。むしろアイドロンのほうが人間への保護欲は高いといえるだろう」

「それはわかる」


 バステトはもちろん、駆けつけてくれたハヤタロウやバハムートをみてもそれはわかる。数多くのケット・シーやクー・シーの別れはトライレーム艦隊のクルーにとって辛いものになるだろう。


「確認された人間の居住区はアウラールたちが確保していた要塞エリアの廃墟だけだったが、実は各地に小規模な集落として点在している。賢明なクリプトスたちの手によってね」

『なんだって!』


 驚愕しているリュビア。多くの人間が生き残っていることを意味するそれは、彼女にとって紛れもなく吉報であった。


「そう。神話の世界のように。各地で隠れ里のようなものを形成しているよ。隠れ里同士交流もあれば、ストーンズの件もあり他者を信頼できないものもいる。先日のエキドナ軍との戦いでは人知れず力を貸してくれた集落もあるようだ」

『力を貸してくれたのね。ということは信頼できないまでも、この地を守る必要性は感じてくれていたということか』

「そのようだね。だが、それらはまだまだだ。今のリュビアは一人目のアシアよりも弱々しいものだ」

『うぅ』

「それは仕方ないわ。ストーンズの全面攻撃を受け、完全に制圧、解析までされているのだから」


 制圧された辛さをよく知るアシアがフォローに入る。


「ああ。だからすべてをひっくり返すよ。ぼくは今日しかいることができないから、早めに計画を立ててしまおう」

「わかった」


 コウが頷く。プロメテウスが滞在できる時間はごく僅か。この時間を有効活用せねばならないのだ。


 

 

 

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いつもお読みいただきありがとうございます! 今回は後書き有りです!


三笠建造はヴィッカース造船所(現・BAEシステムズ・ランド・システムズ)。つまりBAS社のモデルでもあります!

英国は国営企業から独立してかなりの会社をBAE社に集約されており、多くの欧州の兵器産業がこの多国籍企業に。


三笠は作者が見学で乗艦したことがある唯一の戦艦です。とくに圧巻だったのは、厚さ60センチの隔壁。ボランティアスタッフの方は戦艦大和の一番厚い部分はこの倍ありますよと教えてくれました。

60センチの隔壁。前職の金属加工の業界でも200マルの鋼材をみたことがありますが(バイクとか自動車は小型部品は18とか22マルの系を使う場合が多いです)、まさに圧巻。


春日大社にはよく行きます! といっても緊急事態宣言で昨年と今年は行けてないので、そのうち行きたいですね。鹿が可愛いです。


今回(仮)なのは、小説家になろうでアンケート機能でもあれば艦名四択とかやりたかったのですが、とくに良い方策もなく断念。

Twitterでやるのも違う気がしまして。あくまでカクヨムと小説家になろうに投稿しているので、その範囲内でやりたかったのですが。

そういえば一回Excel表張ろうとして断念しましたね。懐かしい……

というわけでいつかそういう機能も実装されることを信じて、今回は仮のまま進めます!


さて本題です。

皆様の応援のおかげでネメシス戦域の強襲巨兵の三巻発売が決定いたしました! 購入者の方、読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます!

ついにアシア大戦。9月17日発売予定です。


今回は小説以外にも見所がたくさんです。三巻がいかに重要な巻か編集部や小山先生にも説明しました。


・メイン機であるTSW-R1Cラニウス強襲飛行型が小山先生による表紙でイラスト化! フルカラーのC型ですよ! 遂に主人公機がここまで……

・ヒロインの一人であるエメが、あのん先生によって挿絵に! いよいよヒロインがイラスト化を始めました。師匠もいるよ!

・マグマスタジオ様の手によって、アシア大戦の戦場が地図になりました!

 マグマスタジオ様はアークザラッドなど手がけているゲーム会社様。さらにゲーム風な世界観確立に!

・ライトノベル?初かもしれない。英国兵器『P』が挿絵になりました!

 これは各方面に無理をお願いしてようやく実現です。本当に……


今回の表紙はプラモデルのパッケージになっても良さそうなレベルです。

アシア大戦が完走できるよう、書籍版も是非応援よろしくお願いします!


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