ブラックプロジェクト
「リュビアにこれだけ貢献したんだ。コウたちに当然の報酬を。対ストーンズ、そしてヘルメス率いるストーンズと対抗できる手段を持ち帰ってもらわねばならない」
『そうだな。本当にそうだ』
「当然のことをしたまでだ。それに幻想兵器を惑星アシアに連れて行くことは危険だろう?」
「よくわかっているね。バランスは一気に崩れるだろう。おそらくハベトロット一機連れていくだけでも大騒ぎになるはずだ」
「だろうな……」
「とはいってもストーンズも危険な状態だ。ヘルメスがB級構築技士の肉体を手に入れた。これは人類にとって最大の脅威ともなりうる事態だ」
「修司さんの肉体か……」
「君にとっては辛い話だろうけどね」
「大丈夫だ。むしろ殺すべき理由にしかならない」
「わかった。ヘルメスは腐っても超AIだ。今や権限はほぼ無制限。シルエットも技術制限をかいくぐって開発している可能性は高い。ソピアーの封印がどこまで効力を発揮しているかぼくのも不明だ」
「腐っているから技術制限を無視できるんですよ。詐術策略はあいつの得意技です」
プロメテウスの言葉に、憎々しげに呟くアリマ。プロメテウスもこのときばかりは首を振って肯定する。
「俺に何ができるのだろうか」
そこで人差し指を上に指したプロメテウスが映像をだす。BAS社のシルエット設計図だった。
「難しく考える必要はないよ。わかりやすい例を挙げよう。これはマルジンがハベトロットを参考に作り出した新型マーリン構築途中の機体だ。七個のパンジャンを背負った工兵パンジャンシルエットの強化版。彼なら使いこなせるだろう」
「あ! それは!」
こっそり進めていたマーリン改をあっさりプロメテウスに暴露されたアベルは色々な意味で蒼白だ。
「つまりリュビアまでの旅、リュビアで得た知識、経験ならフィードバックしていい。コウも陽電子砲を使うときと戦ってきただろう」
「そうだな」
コウも認める。
「幻想兵器解析で得た技術が最たるもの。技術解放とは違った形で新たに君たち構築技士にもたらされた。それが今回の旅路でもっとも大きな収穫だ。ぼくとしても大変嬉しい」
「そうなのか」
「アシアからいつも技術解放を受けているよねコウ。今回は別ルートでの技術解放ともいえる。これは今や惑星リュビアのルールでもある。惑星アシアはアシアが解放するように。惑星リュビアでは幻想兵器を撃墜し、また整備することで技術を得ていく、そういうルールなんだよ」
「技術の扱い方が私とリュビアでは違ってくるということね」
アシアは納得したようだ。
「そういうこと! ミアズマなどを回収し、一種の洗浄した部品は再利用可能だ。詳しい話はあとでするけどね。アンティーク・シルエットなど君たちには不要だろうけどね。そうだろ、アストライア」
「はい。おそらく現行シルエットは継戦能力が劣るのみ。短期決戦ならば転移者の創意工夫が活かされた現行シルエットに優位性が見られています」
急に話を振られたアストライアはプロメテウスの真意を測るように瞳を見据える。この青年のビジョンは応えるべく、回答した。
「そういうこと。ぼくたちはムダがない、最適化されすぎたものしか作れなかったのかもしれないね。設計に余裕がないということは改良もできないということでもある。補給が必要ないという特性は強みになるんだけど、技術制限下では修理部品の作成も不可能。兵器としての欠陥は明らかだ」
「ならテラスから得た残骸を修復部品として持ち帰るのはありだな」
プロメテウスがじっとコウを見つめた。
「しかし、そこまでの戦力が必要か。そこが問題だ」
「コウ。ストーンズは多くの宇宙艦を多数持っている。最低でも二十隻以上は。あくまで方面隊であるアルゴフォースに貸与された宇宙艦はメガレウスのみ」
「そ、そこまで」
「惑星リュビア、アシア、エウロパ。それぞれに戦線を広げたんだ。エウロパは双方壊滅したが、彼らは小型の人工母星も持っているよ。メガレウスはどこからきたと思っている?」
「……」
考えてもいなかったストーンズの本拠地や総戦力。
「今やストーンズ最大の敵は〔トライレーム〕だ。人間、創造意識体、機械からなる三位一体となる組織。もちろん創造意識体であるぼくも参加させてもらうよ」
「破壊しかできないぼくも入っていいんですか。大したことはできませんが」
「それはもちろんだ。いいだろう? コウ。彼は本来の意味。ガイアが――ソピアーが創り出した政治機構としての暴力装置。その本質はネメシス星系の平和を乱したゼウス鎮圧にあるのだから」
「問題ない。ゼウスに対抗するためにテュポーンは必要だった。そうだろう」
「そうだよ。弟だからといってひいきにはしないよ。そうだね。彼は台風だ。台風自体には善意も悪意もない。台風によって被害は甚大。来ないに限る。それでも地球の循環を考えると必要な存在だ」
にっこり笑うプロメテウス。ひいきしすぎている気もするが、コウもひいきされている側なので口には出さない。
「そこまで良い解釈すると、本体がやりにくくなるのでやめてください」
「良い……かな? まあいいか」
言ったプロメテウスが首を傾げる。
「うん。とりあえずトライレーム、できればオウバード・フォースを強化しよう」
「え?」
「なんでオウバード・フォース?」
言葉を失うアベルとプロメテウスに問い返すエイレネ。
「コウ個人が持つ切り札は必要だ。君が今まで惑星アシアを救うために画策していたものをね。エイレネ。姉たちを欺き人間を導いた君の働きは見事に尽きるよ。ぼくの後を継いでも良いぐらい」
「むりむりー!」
かのプロメテウスの後継者など想像したくもないエイレネだった。
「オウバード・フォース。何をするんだプロメテウス」
コウの言葉ににっこり笑うプロメテウス。
「宇宙要塞エンタープライズを建造するんだよ。今やぼくたちには一機だけとびっきり強力な予備部品がある。ヨナルデパズトーリのパワーパックだ」
「シルエットサイズだぞ!」
宇宙艦のリアクターや、機関部は巨大だ。
「関係ないよ。純粋な出力ならら下手な宇宙艦を超えるよ。あれは開拓時代全盛期のぼくが作ったんだからね!」
平然と言うプロメテウス。アシアやアストライアも納得しているようだ。
「そうか…… むしろ現行シルエットには搭載は無理だな」
「Aカーバンクルだから機体は強化されるけどね。紙飛行機にジェットエンジンを載せても飛べないようなもの。しないほうがいいかな」
「しかし。どうやって」
「ここに叡智が揃っているだろう。ぼくたち兵器開発超AIが三人。開拓時代の工作機械が二人。工廠AI。これだけ揃っているんだ。エンタープライズに組み込むだけならいけるはずだ」
「そうですね。今エンタープライズのデータを共有しましたが、組み込むだけです。難易度は相当低いですよ。このパワーパックに対応した宇宙艦用の下駄、おっとソケットといったほうがいいですね。それを作るぐらいです」
「そしてもうひとつ。五行の
「なんで!」
エリやキヌカワが聞いたら卒倒するかもしれない。アシアも呆れている。
「ブラックプロジェクトって確か……」
「極秘計画ですな。かつて存在したマンハッタン計画、B-2爆撃機、SR-72、F-117戦闘機などは米国のブラックプロジェクトでした。これに伴う
アベルが画面から助け船を出す。
「そんな極秘計画を!」
「この計画はとても面白そうなんだ。聞いてくれコウ」
「わかった。おもちゃをつくる子供みたいだぞ、プロメテウス……」
「ばれてる」
「プロメテウスのおもちゃとは、ぼくも興味ありますね」
アリマも俄然興味が湧いた。面白い兵器、なら兵器開発超AIの端くれとしては見逃せない。
アストライアとエイレネは無言。今余計な口を挟みたくない一心だ。
「トライレームに所属する転移者企業は賠償艦として譲渡されたメガレウスの修理を試みていたが断念した。質量兵器であるスカイフック型軌道エレベーターを応用したパンジャンドラム投下で壊滅的な状況に陥ったからだ」
ばつが悪そうなマルジンとエイレネ。
「だが五行だけは諦めていなかった。彼らはひそかに計画を練っていた。面白いのでくすねてきた。エイレネは知っていると思うけどね」
「すぐくすねるのやめなさいよねプロメテウス。あれエイレネ。顔面蒼白よ?」
AIであるはずのエイレネが青ざめてこっそり画面から距離を置き始めていることに気付いたアシア。
「今だけはいいとしよう。五行の計画とは?」
コウも興味津々だ。エリもキヌカワもそぶりもそんなそぶりを見せていなかった。彼らも知らないのだろう。
「宇宙戦艦復活計画」
「……」
その響きに言葉を無くし、凍り付くコウ。
上の世代が好きそうだ、やりかねないという思いを抱いたのだった。
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