対戦ダイアグラム9:1
「焔の剣だと……!」
焔を維持したままの近接に移行しようとするウリエルに対し、冷静に距離を取るフラック。
「見かけ倒しよコウ。まどわされてはダメ。いいわねフラック」
「ありがとうアシアお姉ちゃん! ……じゃなかったアシア様!」
「アシアお姉ちゃんでいいからね!」
お姉ちゃんと言われて気を良くしているアシアに、コウは質問する。
「見かけ倒しとは?」
「相手の装甲を溶かせるほどのプラズマを纏えるなら、刀身が持たないわ。あくまで機械的に刀身からプラズマをまとっているだけ。高周波ブレードも高周波電熱ブレードの強化版の類いと思って。あの系統の武器も脆いから受けには使えないでしょ?」
「それもそうか」
コウは五番機の武器として最初に大剣を選んだ理由を思い出した。折れやすく、受けに使えない。コウもこの理由で使わないほどだ。
高周波ブレードは伸縮可能かつ軽量で威力がある予備武器としては普及しているが、複雑な機構のためウィスを通していても折れやすく、堅実な質量武器よりは使い勝手が悪い。
「孤月のような電孤刀が特殊すぎるのよ。アルゲースの本気恐ろしいわ」
孤月のような一瞬だけプラズマを発する方式の刀。しかも機械的なギミックは存在しない。アシアから見ても手間暇がかかる製法なのだろう。
「接近戦が得意なアンティーク・シルエットか」
アーサーは近づけさせない。
弧を描くように相手の背後や上方に位置取りし、確実にカリボールの砲弾を直撃させている。
あまりの移動速度にウリエルもついていけないようだ。羽根型スラスターを駆使し右に左にその場でぐるぐる回っているようにも見える。
「どれだけの差なんだ」
アーサーは近付かない。慎重に距離を取る。
「コウにわかりやすく例えるなら…… 対戦ダイアグラム9:1ってところかな。もしくは10:0」
エメと一体化が長いアシアが格闘ゲームのキャラ性能比で例えた。
「どっちが9なんだ」
「もちろんアーサー。そのまま見た通りね。ウリエルが超インファイトの吸い込み系のパワー系投げキャラなら、アーサーは地上と空中から連射可能な飛び道具を持ち大技も飛び道具。一発逆転の超必も持っている。ついでにいえばHPゲージ五本ぐらいある高タフネス型万能高性能キャラよ」
「……死ぬしかないな。ウリエルは」
「それでも1の可能性があるだけでウリエルのポテンシャルは凄まじいものがあるということなんだけどね。本当に10:0だっておかしくない。インファイト次第で、勝ち筋を見いだすかどうか」
「関節技は無理だろう?」
おそらくラニウスやバスク・カタなど装甲筋肉採用機ならば、幻想兵器となれば関節技も行えるだろう。フェンネルOSは体幹さえ再現できる。
しかしアナザーレベル・シルエットやアンティーク・シルエットはあまりに工業製品として完成されすぎていた。
人間に近い動きが可能とはいえ、可動域は限られている。戦闘や作業にそこまでの可動域は必要ないという判断だったのだろう。
「極たり締めたりは無理ね。いや、今のウリエルなら可能な技はありそうかな。タックルしたり、掴む、投げる、引き倒す、押さえ込むなどのフォール技はシルエットでも可能よ」
コウはアシアの意見に頷く。
「フォール技? そうか。レスリングか!」
自分の無知に気付いたコウ。アシアから具体的な技を挙げられ、ようやく辿り着く。
天使とレスリングがなかなか結びつかなかったのだ。
「レスリングこそシュメール文明を起源に、古代ギリシャから伝わる格闘技。ギリシャ由来の超AIが開発した創造物とは相性良いと思うな」
「納得だ」
コウはじっとアーサーとフラックの戦いを見守っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「全軍に通達。火車とケット・シーがエキドナがいる封印区画を占拠。アーサーとリュビアは最深部に到達とのことです」
歓声が各地から上がる。
『油断はなりません。敵は先にこちらの制圧に乗り出すでしょう。現在も大型幻想兵器がセトたちと交戦中です。テラスであるコルキスドラゴンとラドン。そして新たにてテュポーン配下最強の一画、デルピュネまで確認しました』
最後の幻想兵器の名を聞いた衣川は貌を曇らせる。
「デルピュネ、か。かのゼウスを封じた洞窟の門番である半人半龍。つまりゼウスを監視するに足る能力を持つということにもなる」
クー・シーと零式を指揮するエリが悲鳴に似た声をあげた。
「まだいるのね! ただでさえ大量の爬虫類型テラスに、アンティークのエンジェル級がもとの四脚型キメラとスフィンクス。正面にはオルトロス。さすがにセトとガルーダだけじゃ辛いですね!」
「待って。こちらにはアイドロンのバステトとバハムートもいる。決して戦力は負けていないよ」
苛立ちを隠せないエリに、エメが冷静に戦力を告げる。
『これだけの戦力を焦って出す以上、アーサーとリュビア様の勝利は目前ということ。凌げば我々の勝ちです』
「でもコウがいない以上、バステトもそんなに無茶はできない。せめて目の前まできたオルトロスを足止めできたら……」
援護射撃も幻想兵器にはさして効果はない。
地面を蹂躙しながら歩くオルトロスはまさに悪夢だ。ケルベロスを処理できただけ僥倖ともいえる。
『お待ちなさい。あなたたち。何をするの』
『決まっている! 足止めでいいならね? 倒すのは無理さぁ! あたいたちに任せなよ!』
オルトロスを迎え撃つため、ローラースケートのようにロケット噴射で推進する糸車に乗った七機のクリプトス。ハベトロットが駆けだした。
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