閉所に強い兵器は二種

「ケルベロスが吹き飛んだ? アーテーならわかるが宇宙艦だろう。溶解するとは思えないが」

「前回はヴォイたちが深く掘ってくれたから溶鉱炉みたいに溶けたけど、ケルベロスは宇宙まで吹き飛んだんじゃないかな」

「そんなことがあるかな?」

「地球で初めて宇宙に進出した人類の人工物は、地下核実験場地表にあったマンホールの蓋という説もあるよ。どれだけの電子励起爆薬を使ったかは知らないけど。ねえ答えてモルガン・ル・フェ」


 モーガンからの回答はなかった。


『いいではないか。ケルベロスを倒したのだ。被害も少ない』


 惑星管理者である二人の怒りを感じ、アーサーがフォローに回った。


「そういう問題ではなかろう。私はマルジン殿……というより英国由来の発想が恐ろしい」


 リュビアが音を上げた。惑星に何かあれば、後始末は彼女の仕事になる。


「私なんてパンジャンドラムに地殻津波を起こされたんだからね! 本当に大変だったのよ、あのあと惑星そのものが!」


 いささか憤慨しつつアシアがリュビアに自分の境遇を訴えた。まさにリュビアしか真の理解者はいないであろう。


「そうだった……」


 思い出すリュビア。あれは姉の惑星ながら同情したものだ。我が身となるとは思わなかったのだ。


「今だからいえるけど、ほんのちょっと地軸の修正が必要だったんだから! 聞いてる? アストライア」


 思わぬ流れ弾がアストライアを襲う。

 アストライアも無言を貫き通している。


「改めて考えると恐ろしいな。ウーティス殿とマルジン殿は。惑星リュビアではほどほどで頼む。生態系にも影響がでそうだ」


 リュビアの嘆願に対し言葉を濁すしかないコウ。

 様々な生物多様性を実現した惑星リュビアにおける大爆発。放射能が出なければ良いというものではないのだ。


「あ、ああ……」


 五番機に強制介入の通信が入った。アシアが後部座席にいる以上、そんなことが可能な人物は一人しかいない。


「ぼくからもお願いしますよ。さすがにこの爆発は本体が目覚めるレベルですよ」


 アリマだ。珍しく怒っているようだ。

 封印されている場所の地表で電子励起爆発による地雷が炸裂されているのだ。当然目覚めても不思議ではないだろう。


「ああ。きつくいっておく」

「あなたもです」


 アリマもにべもなく告げる。


「……わかった」


 反論はせず、改めて自らも戒めることにしたコウであった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



『なんじゃあれは……』


 超兵器を搭載している幻想兵器を数々生み出したエキドナさえ蒼白になるレベルの爆発であった。


『ヴリトラを葬ったブラックホールなど惑星上では使えまい。核でもない。――電子励起爆薬か』


 巨体であるケルベロスを宇宙空間に打ち上げる威力を持つ爆発は、それしか考えられない。


『電子励起爆薬を使うのはよい。しかし加減をしろといいたい。あれはリュビアさえも』


 炎柱はまだ上がったままだ。

 あれでは護衛の小型テラスも吹き飛んだであろう。


『わらわ相手にあれは使うまい。リュビアを破壊することになるからな。そろそろウーティスたちも潜入する頃合いじゃ。わらわが施した防衛網、果たして打ち破れるかのぅ』


 コウたちが最初にヨナルデパズトーリと戦ったときと異なりエキドナがいる封印区画に通じる地下施設には、防衛隊としてテラスが配備されている。

 その多くは爬虫類型テラス。 ヨナルデパズトーリの配下だったワニ型テラスのシパクトリとテルキネス型上位機のアラストル。


『狭い通路に安定性の高い爬虫類型テラス。さぞや難儀であろう……』


 そう嘯いたエキドナの声が止む。


『エキドナ様。エキドナ様ァ!』

『た、助け……』

『磨り潰され……ギャア!』


 各地で緊急通信がエキドナに届き、各機の信号停止を確認する。


『各通路の映像を!』


 慌てて彼らを配置した通路の映像を確認するエキドナ。


『なんじゃあれは』


 巨大な糸車が爬虫類型テラスたちに衝突。そのまま轢き、破壊していた。


『磨り潰せぇ!』

 

 糸車が絶叫し、テラスに突進していく。

 あるシパクトリは壁に挟まれ車輪で磨り潰されている。


『次から次へと。あれは…… 地上自走爆雷を元にしたクリプトス火車ではないか!』


 火車が通路に飛び込んでいく。封印区画といっても無人機の幻想兵器には意味がない。

 邪魔する爬虫類型テラスにP-MAXを発動しながら突進する。


『死に晒せぇ!』


 絶叫する火車の表情はまさに怒りの貌。

 逃げおおせたところで別の火車が待ち構えている。悲惨な個体は挟み撃ちにあったものだ。巨大な車輪で前後から磨り潰されて破壊されていた。


『どれほどの火車を投入しておるのだ。ウーティスは!』


 コウに対して恨み節のエキドナ。

 通路に配置した兵器は大量の火車によってほぼ無力化されたようなものだった。


『他兵器も侵入してきておる。ええい。火車の対応だけで精一杯じゃ!』


 火車に射撃したところで、構造が単純な分意味がない。

 閉所に強い爬虫類型テラスだったが、アクティブトラップともいえる火車には無力だった。


『人間用の通路を開放する。避難するのじゃ』


 人間用といっても横幅はある。巨大な火車では通ることはできまいと判断したエキドナであった。

 射撃武器もろくに通じず無意味に破壊されかねないと判断した爬虫類型テラスは一斉に身を屈めトカゲのように人間用通路を用い、やり過ごすことに成功した。


『これで助か……』


 言い終えることはできなかった。

 

『馬鹿な! あの通路を!』

『ぎゃあ!』


 再び蹂躙され破壊される爬虫類型テラスたち。

 エキドナのもとに停止信号が届く。


『何が起きておる!』


 火車は通ることは不可能。他にも小型の幻想兵器がいたということも考えられる。


 映し出された映像をみたエキドナは絶句した。


『にゃ』


 巨大な猫の顔。アイドロンだ。


『迂闊! 閉所に強い兵器は二種。こやつらもか!』


 己の指示が失敗だと瞬時に悟るエキドナ。


 液体のように細い通路をあっさりと通過するケット・シーたちが、爬虫類型テラスの頭部をおもちゃのように咥えていたのだった。

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