7(セブン)・P
レルムを襲撃するエキドナ配下のテラスは、底知れぬ物量であった。
「これほどまでの数とは」
圧巻の光景。先日行われた人類の居住区への攻撃を行ったテラスなど比べものにならない。
「レルムへ人類の居住が進んでいないからな。気兼ねなく襲えるというのもあるのだろう」
リュビアがテラスの動向を分析する。
『その通りですリュビア様。かつては彼らと手に取り合い、ストーンズどもを鏖殺したのですが。敵となれば手強い」
アウラールが恭しくリュビアの意見を肯定する。
「ヘルメス配下には本当に容赦ないね」
アシアも改めて実感する敵意の高さだ。
「ちくしょう! 俺達はなんて無力なんだ……」
周囲を警戒する火車たちが打ちひしがれる。
「どうした火車!」
ただならぬ様子に焦る衣川。
「飛んでいる敵にも、遠距離の敵にもあまりにも無力なんだ」
火車の嘆きに固まる艦内の一同。
「それはまあ……」
「性質上や得意分野の違いだ。空は俺達に任せろ」
零式のパイロットが慰めるように声をかける。五行や御統のパイロットと火車たちは日本語が通じることもあり、かなり相性が良い。
「空は任せた……! せめて地表だけは俺っちたちが守らないと」
『グリーンナイトもいます。火車たちは無理はしないように』
モーガンも割って入り、指示をだす。
「己の無力さを噛みしめつつ体当たりするぜ!」
火車たちは気を取り直し、自分の任務を果たすため転がり始める。
『大丈夫です。新たな人工クリプトスはたくさんいます。ここはBASのアヴァロン支社でもあるのです』
「また英国由来のようk……妖精なのね。グリーンナイトがいるということは円卓の騎士はいないのでしょうか」
『アーサーを忘れずに。エリ』
「ア、アーサーは忘れてませんから!」
豆戦車や複葉機型のアガトダイモーンで数の差は埋めているが火力差は少ない。
かといってまともに戦えるアウラールなどのクリプトスは少ない。アイドロンが加勢してくれなければあっという間に侵略されていただろう。
『空の敵は俺達が捕捉する』
蜘蛛型のクリプトス、アナンシが現れた。
『モーガンが俺の同類を作ってくれた。糸使いが増えたんだぜ』
『なんと! 糸使いが増えたとは』
『地球の工兵フユキが使ったという必殺技もフラックに伝授してもらった。こいつぁすげえ』
アナンシはテルキネスの上位機であるアラストルを鋼線で出来たネットで捕縛し、そのまま爆発させた。
デトネーションコードによる破壊だった。
『しかしキメラが!』
『キメラ相手には新しい仲間が助けてくれるよ』
アナンシが焦るアウラールを制した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『セブンだ』
『ああ。七たる我々の出番のようじゃな』
『そうとも。我ら七機。伝承のように人々を護らなければ』
モーガンのレルムに通じる秘密通路から七つの機影が飛び出した。
散開し、それぞれの敵に迫る。
『ワイヤートラップを張る。飛んでいるキメラは地上に叩き落とせ』
『了解!』
七つの機影は地上から飛んでいるキメラにミサイルを放つ。
ミサイルは着弾前に爆発し、ネットとなってキメラを捕縛し地上に叩き落とす。
キメラは新たな敵に対し、レーザー砲で攻撃を行うがスロラームしながら回避する機影たち。
「あれが新しいクリプトス。エリ艦長。私はどうしたらいいのでしょうか」
「ノーコメントを貫きましょう」
エリとエメがその光景を呆然と眺めていた。
「パンジャンドラムに乗っているシルエットが遂に現れてしまったのね……」
にゃん汰が諦念に満ちた目で眺めていた。
本来直径三メートルサイズのパンジャンドラムだが、この幻想兵器が装備しているものはそれぞれ大きさが違っていた。
「姉さん。マルジンが作ったマーリンがありましたよ」
「マーリンは盾も兼ねてたじゃない。なんで七つものパンジャンドラムを装備してるの、あれ」
その異様な機影。頭部はシルエットが元だろうが嘴のような装飾がついており、しかもひん曲がっている。その両脚部のかかとにはめるゆに滑車として小型のパンジャンドラム。両腕と両肩にも同様の糸車型の兵装。背中にとりわけ巨大なパンジャンドラムを背負っている。七つのパンジャンドラムを備えてそれぞれコードを巻いている。
接近用武器にはワイヤーを巻き付けた糸巻き棒をドリル代わりに装備している。
新型のクリプトスはテラスに対してワイヤーを用いパンジャンドラムを振り回し殴打、そしてドリルをもって穿ち貫いていた。
『なんという……』
アウラールも驚く戦闘力。技術解放後、新しい技術をもって作られたクリプトスに違いない。
「七つものパンジャンドラムを装備している幻想兵器。どのような伝承か想像もつきません。アストライア。解説をお願いします」
いつも味方に驚かせるエリだったが、今回も英国絡みであることは容易に想像がついた。
『マルジンが提案したという糸車を用いた妖精の伝承でしょう。モーガンが詳しいはずです』
アストライアはモーガンにパスした。
『彼女の名はハベトロット。口がひん曲がった老婆の容姿。
「結局英国由来の糸車なんですね!」
『未婚の乙女たる者。良縁を結び花嫁の結婚後の重労働を軽くする妖精ですよ?』
「良縁と花嫁の守護者ってとても素敵な伝承だと思います! 詳しく!」
妙齢のエリをはじめ、希望に満ちた眼差しをハベトロットに向ける妙齢の女性クルー一同。
『伝承の話でしょうか。遙か昔から紡績、そして糸車は女性の家内労働の代名詞。昔々。遊び歩いていて糸仕事をしない乙女がいました。仕事ができない女性は良縁に恵まれないので母親の小言が耐えません。その時たまたま知り合った謎のお婆さんハヘドロット相談したのです。ハヘドロットは内緒という条件で乙女のため美しい糸をに紡ぎ、七個の糸束を用意しました。驚いた母親は七を叫べ続け、そして領主が聞きつけ美しい糸を紡ぐ乙女女と結婚することになったのです』
「ちょっと待ってください。乙女が紡いだわけではないですよね? 偽装結婚ではないですか」
『そうです。結婚後、領主の前にハベドロットは訪問しました。花嫁に対し自分のように糸巻きのしすぎで口が曲がらないように領主に忠告を行いました。その後その領内で採取された麻は全てハヘドロットを含む七人の姉妹に贈られ、乙女は紡績仕事をせずに済み、ハヘドロットは仕事を得たのです』
「それってお節介仲人で仕事ゲットをしただけ……。妖精というより妖怪遣り手婆さんなのでは?」
『身も蓋もない言い方ですが、お節介な仲介役というのはいつの時代にもいるものです。そういう人々をもとに生まれた伝承なのでしょう』
『古来より糸車と糸巻き棒は運命を紡ぐ女神のもの。北欧にもギリシャ神話にも過去現在未来を紡ぐ女神の伝承はあります。しかし花嫁の守護者とはずいぶん身近な存在ですね』
『妖精の地ですから』
幻想兵器と英国の伝承は相性がいいはずであると思うアストライアだったが、口にはださない。
『他二も祝福されずに無くなった子供が埋葬された土地には呪いがかかっています。その呪いを解くためにはハベトロットが織った布が必要ともいわれ、呪いの治癒者ともいわれております。イングランドからみても善性の妖精といえるでしょう』
「でもなんかパンジャンドラムをキメラにぶつけたり、乗って滑走したりで物凄く強いんですが、それは……」
『素体となったシルエットはカレドニア・クロウ。ひん曲がった口は嘴を摸したものを曲げた形になったのです。それでも守護者たる役割を持ったクリプトス。人々を守る意思は相当強いですよ。呪う伝承は少ないです』
「だからパンジャンドラムと糸巻き棒をドリルとして転用したクリプトスに」
『紡績と糸を使うハベトロットの伝承とデトネーションコードやドリルを用いる戦闘工兵機としてのカレドニア・クロウが非常に相性が良かったのでしょう』
敵からの爆撃をパンジャンドラムに乗ってスロラームで回避するハベトロットたちの活躍。
確かに戦意は高く、コードを使うことで対象を的確に狙っている。誤爆の危険性も少ない安定した戦い方だ。
『マルジン殿より伝授された英国による幻想兵器はまだまだあります。ご安心ください』
「何を安心するの?」
『強力な四脚戦車です。幻想生物由来ですね。名は【ワイルドハギス】。左右非対称の四脚生物です。スコットランド名物料理ハギスの元となった生物と言われており――』
「ま、不味いぞ!」
伝統料理ハギスを食べたことがある衣川が蒼白になって絶叫するのであった。
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