英国妖精伝説
フェアリー・パックとフェアリー・レプラコーンが空飛ぶキメラと対決する。
しかし、多勢に無勢。ニ機だけでは数の差は埋めようがない。
アウラールに搭乗したサラが加勢しようとしたその瞬間、大量のパックとレプラコーンが現れ、戦闘を開始する。
『どうやら量産されているようだな』
「なら安心だね。うるさいけど」
ヘリコプターと比べても噴流が生み出す騒音は激しい。シルフィウムOSの機能を使い雑音を遮断するサラ。
アストライアはその光景をみて、モーガンに問いかける。
『空飛ぶパンジャンドラムで間違っていなかったようですが。何か意見は』
『車輪で飛ぶわけではありませんし……』
力無く言い訳を口にするモーガン。
「ねえ。どうして作ってしまったの。モルガン・ル・フェ」
アストライアとアシアに詰問ならぬツッコミめいた指摘を受け辛そうなモーガンだった。
『このようなときだけ古英語でのフルネームで呼ぶのはおやめください。アシア様』
『いいえ。これは確認するべきでしょう。モーガン・ル・ファイ。伝承からすると、あの二種の幻想兵器はあなたの眷属では?』
アストライアが容赦なく畳みかける。今度は現代英語による発音。あえての違いは意図的であった。
『そうですとも。かのフェアリー社のキワモノ航空機と妖精属性である私の伝承と製造能力が噛み合い、あの二種は容易にクリプトスになりました。私の眷属となります』
開き直ったモーガンが胸を張る。
『マルジンもエイレネも貴女とは相性良さそうでなによりです。しかし、いささか騒音が激しいですね』
『フェアリーというのは騒がしいものでしょう?』
「そういう解釈なのね。さすがはたるマーゴット」
『アシア様。今度はフランス語で妖精…… 毎回言う必要はありませんよ?』
「なんとなくね! フェアリーの語原と近いから貴女と相性は良いに決まっているわ」
悪戯っぽく笑うアシア。
『それをいうなら妖精という言葉はネレウスが語原。ネレイスを除くすべてのニンフがそのカテゴリーに入りますよ』
「それはネレイスたちのためにも言わないほうがいいね」
火車が猫の妖怪だと知った猫型セリアンスロープたちも軽くショックを受けていた。
ネレイスもあのジャイロダインと同種と思いたくないだろう。
『アシア様たちの英国に対する印象があまり良くないですね?』
「そんなことはないよ!」
『ええ。そんなことはありません』
否定するアシアとアストライアの歯切れは悪い。
「うん。そんなことはない」
コウも目を逸らしながら二人に同意する。
『英国といっても各国の個性があります。応じた個性の幻想兵器が生まれました』
「なんてことを……」
アシアが絶句した。
コウはその理由を聞こうとしたが、すぐに判明することになった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
虫を摸したケーレスは海には強くない。
しかし例外がある。蛇人間をイメージして作られたテルキネスだ。
異変に気付いたのは零式のパイロット。
「ん? 見慣れないテルキネスがクー・シーに襲いかかっている。援護だ!」
重武装を施したテルキネスがいた。
改良されたテルキネスもいたのだ。
『人間どもめ。我をテルキネスと思って侮ったか。我が名はアラストル。侮るな!』
アーサーのコックピットのなかで顔をしかめるリュビア。
「まずいぞ。アラストルはテルキネスの悪魔化したもの。テルキネスの後継機を作るようストーンズに命じられた私本体が作り出した最新鋭のケーレス……の予定だった。ケーレスの限界を超えるために悪魔要素を組み込んだのだ」
『それは最初の過ちということですね? テルキネスを魔改造とは。しかしアラストルとはテルキネスの別名でもあり――復讐者という意味ではありませんか』
「そうだアストライア。もともと彼らに離反させるつもりで作ったのだ。悪魔要素を組み込んだので暴走した最初の幻想兵器でもある。エキドナの配下になっていたのだな」
『ゼウスの異名でもありますね。名前の由来からしても惑星リュビアにもっとも相応しい幻想兵器でしょう。ゼウス由来もあるということはテュポーンは嫌うはず』
「強そうだよアレ!」
「性能は技術開放後のシルエット程度にはあるはずだ」
『確かにまずいですね。複葉機とジャイロダインで対抗できる相手ではありません。いわば水陸両用機。トリトン型は惑星リュビアには運搬しておりません』
水陸両用シルエットであるトリトン型はセリアンスロープとネレイス、ともに搭乗できる優秀な機体。
しかし下半身がイルカ型であり、場所を取るので惑星リュビアには持ち込まなかったのだった。
『敵大型機体も確認。これは……ヒュドラ型? まだいるのですか!』
「別個体だ。どこぞの神話体系にも複数のヒュドラがいる。海からの侵攻もあるとは……」
リュビアが歯噛みする。海中勢力はそこまで想定していなかったのだ。
『ヒュドラ型がいるということは、ディープワンもいるのでしょう。この数はクー・シーたちや豆戦車では手にあまります』
アストライアが敵の数を確認する。
大型艦のテラスは、前回戦ったものよりさらに大型だ。
『心配には及びません。海もまた私の領域』
モーガンが厳かに告げた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ディープワンがぞろぞろと海から這い出るように現れる。
その群れを見つめる、不気味な光。
それはモノアイだった。
『キシァ!』
不気味な叫び声を上げ、大きく跳ね上がるモノアイ型兵器。
のそりと動くディープワンは空を見上げた。
空中にはクアトロ・シルエット――否。ケンタウロス型の幻想兵器。
不気味に赤く光るモノアイ。大きな口のようなものが付いている形状のフェイス。
全身がヘドロのようなもので覆われ、たてがみに似た装飾が施されている。
「エメ。みちゃいけません!」
アキがエメを思わず抱きしめる不気味な機体が、ディープワンを無造作になぎ倒す。
おぞましさはディープワンを超える外観であった。
別方面から進むアラストルを、森の陰から躍り出るシルエットが破壊する。
正当派の西洋甲冑を身につけたような重武装のシルエットは、全身が緑色であり、巨大な大斧を装備していた。
「な……に……アレ……」
モノアイを装備した不気味な幻想兵器に絶句するアシア。
「ごめん。アレのほうは俺も絡んでいる……」
コウが申し訳なさそうに後ろにいるアシアに謝罪した。
『一つ目。ケンタウロス型。推測は容易です。あれは世界でもっとも醜い妖精の一つ。スコットランドの妖精ナックラヴィーですね』
『さすがはアストライア様。その通りでございます』
『しかしあれは
「海坊主の一種だとアベルさんから聞いたんだよ。それで協力した」
『ウミボウズとは。――データ照合完。モーガン。あなたは九人の湖の妖精、その長姉がモチーフですよね? いつのまに海の精に』
『モーガンの名は古ウェールズ語よりモルゲン。大いなる女王という有名ですが海生まれという意味もございます』
「そして幻想兵器として英国由来の伝承が作用してあんなテラスを作ってしまったのね」
『クリプトスです。アシア様。なにげにひどいですね。そしてもう一機のシルエットは――』
「グリーンナイトでしょ。それは知ってる。ガウェイン卿と緑の騎士にでてくる、モーガンの手による魔法の騎士」
説明しようとするモーガンを遮ってアシアが先に回答を出した。グリーンナイトは有名だし変な逸話もない。幻想兵器では控えめといえる個性で、どうでもいいのだ。
それよりもモノアイ型のクリプトスナックラヴィーが重要なのだ。
「もうあんなクリプトス作ってないよね?」
『ウーティス様。どのように回答すれば良いでしょう』
「ア……マルジンが面白いように英国由来の伝承引っ張ってきたから…… 俺もよくわからない」
『アベルで構いませんよ。まず回答を。アベルとの会話で名前の挙がった妖精の名をいいなさい!』
アストライアが珍しく怒気を込めてコウに詰問する。
「え、えと。名前ド忘れしたけど……糸車に乗った妖精とか?」
『おおもう』
思わず額を抑えるアストライア。糸車と聞いただけで、どんな形状の幻想兵器になるか、説明されなくても理解してしまったアストライア。
糸車に対する偏見が酷いと内心思うコウであった。
『車輪や糸車の妖怪やら妖精から離れませんか。なんでそんなに色々でてくるのです』
「そんなのもうPに乗った何かしかいないよね。さすが英国。存在そのものが妖精の魔窟みたいなもんだよね」
『英国でひとくくりにするのはどうかと。
『妖精郷の支配者はモーガンかマヴでしたね。七年に一度地獄に恋人を捧げる儀式があるという伝承もあります。恐ろしい』
『恐ろしいとは。古今東西あらゆるモンスターの原型。そして冥府の根源たるギリシャ神話由来の方々にだけは言われたくないですね』
モーガンが湖の精由来代表として軽く抗議する。
『ギリシャとてヘパイトス様の三輪車や
「直接的なアレはないよ! 日本や英国がおかしいんだよ!」
「ちょっと待て。日本の妖怪はそれほど変な外見のものは…… いやなんでもない」
一反木綿や塗り壁、傘化けを思い出し、抗議をやめたコウであった。
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遂に二巻の表紙ができました!
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