トリスメギストス
『ああ、もう。一度モーガンと話し合わないと……』
「ぼくのことはアストライアたちに話してもかまいませんよ」
「言えるわけないだろ」
そんなことは一切考えていないコウ。
「この場所に辿り着いた。テュポーンとエキドナと会話した。その報告で十分だろう。アシア。データはお願いしていいか」
『それぐらいは可能。うん、そのほうがいいよね。色んな意味で』
「ん? ああ……」
三柱目の兵器開発を任務とする超AIが発覚したのだ。おそらく性能はアストライア以上。
コウとしてもアストライアをこれ以上刺激したくない。
「アストライアは星乙女が由来。惑星間戦争時代にネメシス星系を破滅させた理由はよくわかります。乙女の潔癖姓ゆえに平等たれが行きすぎたのでしょうね」
『破壊の化身に理解される星乙女とは』
「今はアリマですし。ストーンズやヘルメスがいたら豹変しますよ」
「いないから豹変しないでくれ」
本来のテュポーンが顕現されても困る。コウは慌てて言った。アリマはにっこり笑って頷いた。
憎めない破壊の化身とは実に厄介だ。
「アストライアにはどう話したものか」
『モーガンとアリマの件は内緒がいいね。ややこしくなる。この場所にテュポーンとエキドナのビジョンがいた。そしてヘルメスの野望を阻止することで合意しテュポーン本体とは共闘まではしないけど敵対もない。まずはエキドナの襲撃に備える。それでいいよね』
「そうだな。そうしよう」
「ぼくも問題ありませんよ」
コウはまとめてくれたアシアに感謝する。
「ところでアシア。最初に救出された云々って……」
『先に戻ってアストライアに説明しておく。あとはよろしくね! アリマ!』
アシアとの通信が途切れた。
あまりに急な出来事に唖然とするコウ。
「コウ。にぶいといわれませんか」
「なんのことだ……」
呆れるようなアリマに愕然とするコウ。破壊の化身のような存在ににぶいといわれたことはショックである。
「こほん。まあいいでしょう。残りのアシアを早く解放してあげないと悪墜ちしても知りませんからね」
「なんでそうなる!」
「忠告はしましたよ。半分は冗談ですが」
アリマも囚われの身であるテュポーンであるからこそ理解できるのだ。
解放された自分と、そうでない自分。同一存在だからこそ納得できないに違いない。
「しばらくはアリマとして過ごしますよ。セトの件もありますからね。コウこそぼく相手に緊張しないように。フラックに気付かれます」
「努力する」
そうして五番機はヨナルデパズトーリの残骸を担いでレルムへ帰還するのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アリマを住人が避難している区画に降ろし、アストライアに戻る五番機。
『アシアより連絡がありました。テュポーンとエキドナの接触とは。察しはついていましたが危険な真似は控えるようお願いします』
「わかったよ」
『戦利品もアナザーレベルシルエットの残骸とは…… これだけでも宇宙艦に匹敵する価値があるのですよ』
「そんなに?!」
『当然です。もっとも価値を理解するもの、存在することさえ知る者も少ない秘宝ともいうべきもの。アーサーやバステトの存在など、概念がアナザーレベルです』
「そうだったのか……」
導いてくれたアリマに感謝した。
『アシアから報告は受けました。エメとの筆談で私さえも欺くとは監視が必要のようですね』
「それは勘弁してくれ」
『冗談ですよ。隠し事はほどほどに。私も人のことはまったく言えませんので、これまでにしておきます』
アシア大戦時、コウにさえ内緒で引っぱり出したアストライアは目を逸らし若干気まずそうにする。
やはり未だ引きずっているようだ。
『テュポーンから人間相手に加減を加える言質まで取ってくるとは思いませんでした』
「運が良かったよ。共通の敵はヘルメスだ」
『オンパロス。ヘルメスにも似た時空干渉能力。石を積み重ねる者の名に相応しい野望かと』
「ヘルメスは石に縁がある神様だな」
『ヘルメスはギリシャ神話を離れ、ヘルメス・トリスメギストスという錬金術の神のもとになりました。錬金術の究極目的。不老不死である賢者の石を唯一手にした存在ともいわれています。賢者の石こそは不老不死を実現する手がかり』
「賢者の石は聞いたことがある…… それも石か。不老不死とは一種今のカレイドリトスだよな」
『はい。意識を封じ人間の肉体にアクセスできる賢者の石。カレイドリトスともいえますね。その作り手がヘルメスならば納得です』
ストーンズという名称はコウが思った以上に意味があったようだ。
『三つの存在が融合したことで三重の知恵という意味のトリスメギストスでした。なんというか…… ストーンズ、半神半人、MCSをもってして為せるヘルメスの介入を思うと偶然とは言い難いですね』
「ヘルメス本体の場所は不明な上、テュポーンが稼働すると惑星リュビアが破壊されるらしいからな。今できることはヘルメスの肉体を破壊すること。それよりもエキドナを撃破だな」
『エキドナの戦力は相当なものと推測されます。ギリシャ神話におけるあらゆる魔獣の母といっても過言ではありません』
「そこまでか」
『ギリシャ神話にでてくる魔獣はエキドナを母とする者は多いですよ。彼女が地方の地母神である性質が反映されているのでしょう』
「厳しいな」
『龍であるラドン。合成魔獣ケルベロス、オルトロス、スフィンクス、スキュラにキマイラ。これらの名を継承した幻想兵器である可能性が高いのです。味方であるケット・シーやクー・シー、火車だけでは荷が重いでしょうね』
「無理だろう」
ケット・シーやクー・シーは彼らの善意で戦ってもらっている。
火車に頼りにはなるがパンジャンドラムみたいなものだ。強力な魔獣相手には厳しい戦いが強いられる。
「対策は至急練る。 ヨナルデパズトーリの残骸はどうだ」
『現在ポリメティス、モーガン、アルゲースとステロベスが解析中です。私も参加しています。これは惑星アシアではあり得ないことですからね』
「嬉しそうだなアストライア」
『はい。これは兵器開発AIとしてもまたとない学習するチャンスでもあります。同系統ではない兵器開発AIとの共同作業も初の試みです』
「壮大な事業だな……」
『コウが思っているよりも、です。惑星間戦争時代ですら例がない事業ですよ』
アストライアが嬉しそうに微笑む。
兵器開発AIにとっては、これほどやりがいがある仕事はないのだろう。
『アーサーの復元も進みました。携行型の荷電粒子砲はなんとかといったところですね』
「荷電粒子砲も携行サイズとは感慨深いな。アーテーがあの巨体だったからか」
アシア大戦では巨大マーダーに搭載されていた兵装が荷電粒子砲だ。
弱点も多く、なんとか辛勝することはできたが被害が大きかったことを思い出す。
『他のシルエットなど持つだけの飾りです。運用は不可能です』
「だろうな。もう一つの難事業はどうだ」
『セトの件ですね。アーサーの準備が順調です。二日後には再稼働試験を始めます』
「いよいよか……」
遂にセトが動き出す。
狙い通りにいくか。そこが不安だった。
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