エクスカリボール
一同は機動工廠プラットフォーム<アストライア>の戦闘指揮所に戻り、話し合った。
この場にはモーガンも参加している。今回はビジョンの状態となっている。アストライアも同様だ。
「モーガン。優先順位はセトの再幻想兵器化に伴い、抑止としてアーサーを修復。専用武器を作る。その後幻想兵器の強化やリュビアの人々を移住。彼らの戦闘兵器を作りたい。それでいいか」
「問題ありません。我が意を汲んでいただきありがとうございます!」
モーガンの声が弾んでいた。やはりアーサー優先と明言されたことが嬉しいのだろう。
「セト再幻想兵器化などという無茶な実験を依頼したんだ。施設所有者の意思は優先するさ」
「アーサーもレルムも所有者はウーティスですよ」
「な……」
一瞬絶句するコウ。すぐに首を横に振る。
「いやそうなるのか。過去遺跡の第一発見者が所有者。オケアノスが定めた法だ」
「左様でございます、アーサーの元になったシルエットを安置した組織も、今やこの世にありません」
「わかった。ならば所有者は俺で構わない。その次に権限を持つ者はそうだな。リュビアとアベルさんにしておいてくれ」
「承知いたしました。問題ありません」
モーガンは艶然と微笑んだ。アーサーがいる余裕だからであろうか。リュビアとアベルなら代理人としても適切な人事だ。
「体制作りが先決だ。俺達も長いこと惑星リュビアに滞在できるわけではないしな……」
「エイレネ様を通じて連絡可能です。問題はないでしょう」
「根本的な解決になっていない。リュビアの本隊を取り返さないといけない。エキドナか……」
「我々の滞在時間は短く、短期間では厳しいかもしれませんね。第二陣も派遣されますし、長期的な戦力構築が重要です」
アストライアがコウに助言する。
「そうだな。焦ってもすぐに状況は好転しないか」
「今回の遠征で人類側も拠点を持つことになりました。テラス最強の一角ヴリトラまで撃破したのです。十分な戦果でしょう」
「ウーティス様の来訪がなければこのレルムも無人のまま。迫り来るテラスの襲来にも対応は不可能だったでしょう。何よりアーサーの再稼働もあり得ませんでした。そしてセトを鹵獲しクリプトスへ変性させる作業という試み。もはや偉業です」
「セトはアーサーの手柄だ」
コウは苦笑した。五番機がセトを撃破したわけではない。
しかしながら状況を改善できたことは喜ぶべきなのだろう。
「リュビアはいいのか?」
「溢れるほどの感謝はあっても不満は一切ないぞ。我が民たちと今ともに歩んでいる。lここまでしてもらっておいて何をいえばいいのだ」
本心でそう思っているようだ。
「そういうことか。気象管理だけは厄介だが……」
「テラスにも人類は必要です。人類生存可能環境を悪化させることはないでしょう。ストーンズとの違いはそこですね」
マーダーは無差別に殺す。あろうことかファミリアやセリアンスロープを優先して殺害する。
テラスが構築技士や人間を狙う理由は意思剥奪し共生すること。そして性能向上のためだ。目的は違う。
「エニュオなどの大型マーダーがテラスとして生産されていることが危険なぐらいでしょうか」
「大型マーダーはリュビアから送られていたんだったな」
「束になってもアウラール殿の敵ではありませんけどね。所詮は技術制限下でも製造可能な旧式兵器がもとです」
「シルエットサイズでも惑星間戦争時代のテラスは強力ということだな」
「数もテラスのほうが圧倒的に多い理由があるのです。エキドナの支配下に惑星間戦争時代の廃棄場があるからです」
「そういうことか…… テラスを作成するには素材はたくさんあると」
「はい。我々は一刻も早くアーサーを完全体に戻し、エキドナを倒す必要があるわけです」
「そうか。わかった。まずは再稼働状態に戻し、その後武器だな」
コウは頷いた。
アーサー優先がモーガンの行動原理。協力しておいたほうがより友好的に物事を進めることになるだろうという方針はアストライアとアシアの三人で決めておいたことだ。
「予想以上に我が意を汲んでいただけますね。怖いぐらいです」
「幻想兵器の行動原理が伝承に基づくものならばモーガンとアーサー、そしてレルムの成り立ちを考慮すると当然の結果だ。かのアーサー王の名を持つ存在ならなおさらだ。フラックのこともあるからな」
「ありがとうございます。さすがはプロメテウス様が信を置く方ですね」
やはりプロメテウスのことは承知かと、内心コウは舌を巻く。
「アーサーはポリメティスの力を借りて手は尽くすよ。幸いエネルギー出力は凄まじい。現行はテラスから回収した部品を用い携行荷電粒子砲であるエクスカリボールを作成する」
「ほう。何故かつてガウェイン卿へ貸与されていたという剣名なのですか?」
「アーサーに変な武器は持たせられないだろ。仮のエクスカリバーという日本語の仮とカリを引っかけた名称だ」
「そういう意味でしたか。承知いたしました。由来は大切なもの。仮の兵装でもちゃんと意味付けされているなら問題ありません」
「ポリメティスに聞いてもらえばわかるがシルエット搭載サイズの陽電子砲はもう不可能だ。開拓時代の部品がない」
「では制式兵装は?」
「戦艦並の威力を持つ荷電粒子砲エクスカリバーだな。納得しなけければカリバーンなりコールブランドなりの仮の名を付ける」
エクスカリバーの別名称は山ほどある。ウェールズ語、コーニッシュ語やラテン語やラテン語の転写ミス、フランス語など発音の違いに過ぎないが、これらの詳細はアベルに確認していた。
「やはり荷電粒子砲……それらに落ち着くのですね」
若干気落ちしているモーガン。アーサーには何がなんでも最強でいて欲しいらしいことは手に取るようにわかる。
「モーガン。もしコウが構築可能になるということは陽電子砲を使うテラスがいるということに他なりません。アーサー損壊の危機も高まります」
「そうですね。浅慮でした。申し訳ございませんウーティス」
モーガンも怖れるところは同じ。コウがヘソを曲げたらアーサー修復は不可能となる。人類最大限級の権限を持ち、彼女たちに協力的な人間であることは間違いない。
コウは手を振って応じる。
「あの威力はまた欲しくなるのは理解するさ。いつか部品が手に入った時だな」
危険であることも理解するが、とそっと個々の中で付け加える。
勢力間のバランスなど気にしたことはないが、陽電子砲がネメシス星系の均衡を大きく揺るがすものであることは疑いようがない。
力関係など考えるなどはコウの仕事ではないが、そうも言っていられない。
「はい」
モーガンは頷いた。その時がきたら惑星アシアからコウが指示できるのだろうか。
それは誰にもわからなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
レルムは広大な工廠のため、移動するにもシルエットが必須だ。
コウは五番機に乗り、レルム工廠中枢へ移動する。
『待ちくたびれたぞ。ウーティス。新たな武器エクスカリボールを早く!』
アーサーが鎮座していた。早速急かしてくる。
「その前にアーサーを行動可能な状態にまで戻さないとな。セトはもうドックに移動したのか?」
『ガルーダが運んでくれた。今はヒュレースコリア漬けだな』
「わかった。良い結果になるといいが、その前にお前の修理だ」
『頼んだぞ。私自身が抑止となるしかない』
その時コウに通信が入った。
「コウ兄ちゃん。シルエットってこんなにおしゃべりなんだね」
「シルエットは会話可能だぞ。ただアーサーは別格だな」
「皮肉の効いた言い回しとか毒があるときあるんだけど。本当に騎士たちの王様由来なの?」
「そのはずなんだが……」
そこはコウも若干疑わしいと内心感じていた。
『フラック。私のなかで私の悪口はやめたまえ』
「事実を指摘しているだけです。痛いところを突かれたと思うなら、自覚ありなんだね」
コウは思わず笑ってしまった。フラックのほうがよほどしっかりしている。
アーサーのパイロットにはこのまっすぐな少年が相応しいかもしれない。
「アーサーが黙った。やるなフラック。――手伝ってくれ。今からステロペスのもとへいく。アルゲースもいるはずだ。アーサー修復は二人の力が必要だからな」
「そうだ! アルゲースとステロペスは数万年ぶりの再開なんだね」
アーサーから降りたフラックは、ふと思い出してコウに話し掛けた。
「ねえコウ兄ちゃん。リュビアでできた友達なんだけど、コウ兄ちゃんと話したいって。用事が終わったらいいかな」
「もう友達ができたのか。構わないよ」
「ありがとう!」
子供は馴染むのが早いと思いつつ、何を話せばいいのかわからないコウだった。
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