地域に根付いた幻想兵器

『敵テラス撤退確認。周辺地域の安全確保に成功しました』


 アストライアが告げる。


「これからが大変だな」

「そうね。今からレルムへ移る人間を募らないといけない。覆っているシェルターはすぐに復元できないけど、撃破した宇宙艦級のAカーバンクルがあれば都市生産機能は回復できる。間違いなく状況は好転したわ」


 コウの呟きにアシアが答える。


「アイドロンも敵じゃないとわかったしな」

「それは違うよコウ。人間に友好的なのはネコ科とイヌ科を摸したアイドロンだけの可能性もあるみたいよ。彼らのコンセプトは野生みたいだからね」

「熊とか狐はそうではないと?」

「熊や狐にも色々いるからね。それをいうなら虎やライオンを摸したアイドロンも危険かもしれない。ただファミリア経由でコンタクトが取ることができたら敵対的な関係は避けられると思う」

「そういうことか」


 見た目も動物なら行動パターンも動物ということだろうか。

 AIを搭載しファミリア経由で意思疎通できることが救いではあった。


「すでに惑星アシアにいる私がリュビア用のファミリアの製造に入ったわ」

「助かるアシア」

「お礼はエメにいってね。アストライアに戻るまでは私に肉体を渡してくれたから」

「わかった。二人に感謝するよ」


 アシアは気恥ずかしそうに微笑んだ。


「加勢してくれたアイドロンは今後も友好的に付き合いたいな」

「そうだね」

「何かいいアイデアないかな。鈴や首輪をつけるわけにもいかないし」

「え? それいいアイデアじゃない?」

「ん?」


 後ろにいるアシアに振り返り、目を合わす。

 やがて二人は笑い出した。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 コウとアシアは帰投し、アストライア内の戦闘指揮所に合流した。


「では私は戻るねコウ」

「ありがとうアシア」

「どういたしまして」


 そういうと金色はやがて蒼い双眸に変わり、エメに戻ったことを告げる。


「おつかれさま。エメ」

「ううん。コウとアシアと師匠と四人での旅は、とても楽しかったよ」

 

 そういうとにっこり笑った。

 エメがここまでの笑顔を見せるとは珍しい。コウも微笑んで答えた。


「そうか。よかった。またそのうち旅する機会もある」

「そうだね。楽しみ」


 コウはエメの頭にぽんと手を置いて、優しく撫でる。

 エメは嬉しそうに目を細め、されるがままだ。


 そして顔を上げ、モニタに向けて告げる。


「アストライア。色々すまなかった。お説教はあとでゆっくりと聞くことにする」

『お説教される自覚はあるのですね。覚悟しておいてください』


 普段と変わらぬ声音だが、ぞっとするような冷たさを持っているような気がした。

 思わずアキとにゃん汰が寒気を覚えたほどだ。


 コウとしてはアーサーのマルミアドワーズを製造した以上、然るべき話はする必要があると思っている。アストライアの態度は想定内だ。


「今後の方針を話そう。急務は撃破したテラスのAカーバンクルを用い都市機能を復旧。負傷者の救護と人員の避難。そののちエトナにある工廠レルムへの志願者を募る。そしてこのアストライアが優先するべきことが二つある」

『人員の避難とレルムへの志願者はマットとリュビアに一任します。工廠機能が必要なことでしょうか』

「そういうこと。まずはここでしか出来ない作業をやる。まずケット・シーとクー・シー用に敵味方識別装置IFFを組み込んだ首輪を作成し、装着させたい。破損している個体には修理対応を」

『承知いたしました』


 アストライアもクリプトスを管理する必要性は感じていた。ただちに製造を開始する。


「首輪を装着したクリプトスには金属水素の補給が受けられるよう告知しておこう」

『餌付けですね』

「燃料補給というべきなんだろうが、餌付けという表現が正しいのか」

『彼らには首輪の効果及び有効性と、人類の警護を依頼しておきましょう』

「そうだな。地域に根付いた幻想兵器だ」

「地域猫的な?」

 

 思わずエリがツッコミを入れる。


「そのようなものかな。幻想兵器を野良にするわけにもいかないだろう」

「完全に猫扱いですね。わかりました。クー・シーの首輪はこちらでやります」


 急遽アストライアでは首輪型IFF装置の量産が行われた。クー・シーやケット・シーに装着される。ケット・シーはバステトに倣った赤い首輪に黄色の鈴だ。

 クー・シーは大人しいが、ケット・シーは嫌がる個体もいた。そういう個体相手には金属水素を飲んでいる間にそっと取り付けた。


『火車と複葉機型アガトダイモーンはどのように運用するのですか』

「火車にはケット・シーと協力してもらい、周辺を警護というか常に転がってもらうことにする。アガトダイモーンはレルムとこの居住区を往復し、必要な場合はレルムで補給できるように設計してある」

『人手は不要ということですか。よろしいでしょう』


 アガトダイモーンのために人手が必要なら本末転倒だが、そこは考えていたらしい。


「手が空いているものはテラスの残骸を集めてくれ。再生された惑星間戦争時代の兵器は貴重な資源だ」

『先ほどラニウス隊に都市復旧に必要な部材の回収を依頼しました。そのまま持ち運ぶことができる残骸の回収も命じましょう』

「そうだな。部品の選別ができる技術者がいればいいんだが…… アストライア。解析できるか。これが必要なリストだそうだ」


 コウはレルムで作成したリストをアストライアに転送する。


『アナザーレベル・シルエットを稼働状態にすることが目的だと思いました。それだけではありませんね』

「アーサーの修理も目的の一つ。ただアーサーがいかに強力といえど一機だけでは惑星リュビアの人類は保護できない。アウラールたちの修理や、この惑星のシルエットを改造するために必要なんだ」

『大局は見えているようですね』


 コウはアナザーレベル・シルエットの卓越した戦闘力に魅せられてはいないようだ。

 リュビアのシルエットやクリプトスに主軸を置いている。


「遊んでいたわけじゃないさ。まずAカーバンクルを使用して都市機能の復活。だがシェルターがないこの場所をどこまで維持できるかは不明だ。レルムが適切な場所かどうかはこの惑星の人たちに決めてもらう」

『我々の目的はあくまでこの惑星が自立できるまでの支援。その方針に賛成いたします』

「ありがとうアストライア。本当は一息つきたいたいところなんだが先に話すことがある。五番機のMCSで、アシアと三人で話そう」

『あまりに物わかりがよいと私が不安になりますよコウ』


 珍しくアストライアが目を瞑って微笑んだ。答えとしては正解のようだった。

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