ネコと騎士。信じるべきは?
『クロセとハヤタロウもヒュドラ撃破に成功しました』
ヒュドラの内部に侵入した黒瀬とハヤタロウが、中枢であるリアクターを破壊したところだった。
「ラニウス隊の一部がクー・シーにまたがっていますね」
アイドロンとシルエットも連携可能な兵種が存在するのだろう。
ファミリアという通訳さえいればという条件付きだが、協力な運用となる。
「テラスが撤退するにゃ」
にゃん汰が画像を見ながら報告する。
カコダイモーンは戦闘を継続しているが、残存しているハティやディープワンは戦線を後退させていた。
『撤退する点においてマーダーとは違いますね。だからこそ手強い。カコダイモーンはマーダーよりの性質ですね』
マーダーは破壊されるまで戦闘を行う。彼らに撤退はない。
幻想兵器といえど、撤退を持つということは修理も可能であるということだろう。
「どうやって修理するのでしょうか」
『おそらくですが部材とミアズマさえあれば修理は可能でしょう。エキドナが担当しているのかもしれません』
「兵器の残骸を再構築できる素材であれば、修理に応用も可能なんでしょうね」
アキも納得した。あの異様な形状の兵器を再構築する物質だ。
むしろ修理に応用したほうが適切かもしれない。
「問題は今からですね」
『そうです。セトが残っています。通常なら破壊して終わりですが、何やらバステトとアーサーの意見が割れているようです』
墜落したセトの付近に降り立つ五番機とアーサーが映し出される。
背後にはガルーダが見守るように降り立った。
『私はアーサーの意見に賛成です。しかしコウはバステトと信頼関係を築いています。何か考えがあるならば、コウの意思を尊重するべきでしょう』
「そうにゃ。ネコ派のコウでも私情は交えないにゃ。……おそらく」
「コウをイヌ派にしてしまえばいいのです」
アキが真顔で言う。
『アキこそ私情が交ざっていますよ。今は彼らの結論を待ちましょう』
戦闘指揮所内にアーサーとコウの会話が流れ始めた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
セトは完全に活動を停止しているようだ。
五番機とアーサーを守るようにガルーダが翼を広げ、彼らを護っている。何かあったとき、覆うことができるようにだった。
『ウーティス。内部のリアクターを完全に破壊しよう。現在は損傷しているだけだ。いつ再稼働するか不明だ』
「待ってくれアーサー」
コウは実行に移すことができない。
バステトがアストライアの方面から鳴いているのだ。
「バステトが破壊に反対している」
「理由をきいてもらっていいか師匠」
「ああ。今確認している。――ーふるぅ。にゃあ」
師匠が優しい鳴き声を真似し、ネコ語でバステトと会話している。
「にゃにゃ。んんにゃあ。おあーん」
ひときわ甲高くおあーんと鳴く。これは強い要求があるときのネコがよく発する鳴き声に似ているとコウは思う。
「……彼が目覚めるらしいと訴えている。連動していると。しかし今は停止状態に過ぎないとも言っているね」
師匠がいつになく険しい顔で呟く。エメの姿なので、より一層危機感を覚えるコウ。
「彼とはテュポーンか!」
セトはかの存在の別名を持つ存在。
連動していてもおかしくはないだろうと推測する。
「セトを破壊するということはテュポーンと敵対する意思ありと見做される怖れはあるね」
アシアも即答できない問題のようだ。
「テュポーンと敵対する意思はないぞ。人間を襲うテラスは排除するが……」
超AI破壊兵器を目覚めさせたくはない点に関してはコウも同様だ。
『ネコと私。どちらを信じるというのだ!』
「ネコでしょ」
アシアが即答した。
コウも同じ返答が喉から出かかっていたが、落ち着いて考える。
「ネコといいたいところだが、危険なのもわかる。復元も完全に終わっていないのにフラックをたぶらかして試射した幻想兵器と、バステトではやはり……」
バステトはただ人間の居住地を守るために走っていた。打算はない。
アーサーとモーガンはまだ何かコウに隠しているものがあるような気がする。アシアなどは声に出していっているほどだ。
「ただしセトは悪神なんだろ。放置してよいはずがない。封印する手段はないだろうか」
『ウーティス。セトの封印は容易ではありませんよ』
ガルーダも危惧している。
「だろうな」
『しかし伝承によればセトは純粋な悪神ではありません。英雄神の側面ももつのです』
「そうだったね。セトは冥界の神オシリスを殺害し、その息子ホルスに倒された。しかし太陽神ラーの航海を、邪悪の化身アペプから守ることができる唯一の神でもあったの。だからキャラバンの守護者としての側面は持つわ」
「邪悪の化身、か」
「そう。光と秩序であるマアトと対極の存在。混沌と悪の蛇アペプ。でもね、その邪悪さからセトと習合されて同一視もされているわ。アペプはあのヴリトラと同じギリシャ語の
「またギリシャの蛇由来からくる同根語か。しかし英雄神の側面を持つとしても悪神アペプとしての面が強いのだろう。テラスとして再生された以上はそうだろうな」
コウは思案し、何か閃いたようだ。
急いでアストライアと通信んを繋ぐ。
「アストライア。さきほどの会話で確認したい。テラスが修理とするならミアズマを使うという予測だな?」
『彼らに再生工場などありません。ならばクレイトロニクスを用いるはずです』
「そうか。ならこの修理をリュビアが創ったヒュレースコリアで再構築するのはどうだろうか」
『ヒュレースコリアでクリプトスとして再創造し、英雄神としての側面を引き出すということですか?』
「そういうことになるか。洗脳するみたいで気は引けるが……」
『そのような気遣いは無用です。兵器運用は遣い手次第。我々がともに活動可能な善性を持つならば、破壊する必要もなくなります』
「それもそうか」
「ウーティス。再創造後のセトは私が説得しよう。どこまで会話が通じるかはわからないが」
リュビアも気にしてはいるようだ。
幸いコウもその方針で依頼するつもりだった。
「本来の創造主であり惑星リュビアの管理者自らの言葉なら、話が通じると思う。試してみる価値はあるか」
『どうするつもりだウーティス』
「レルムに運んでヒュレースコリア漬けにする」
『どうやって運ぶのだ。ここで破壊したほうがいい』
破壊にこだわるアーサーに、再びコウは若干の違和感を感じる。
『運ぶぐらいできるよ』
アーサーの疑問にガルーダが応じた。
『私としてはレルムを危険に晒したくないのだが』
アーサーとしても拠点に凶悪なテラスを入れたくはない。コウとしても同感だ。
だがテュポーンとの連動と敵対化も相当なリスクである。
「対処法は考えた」
コウはため息をつき、妥協案を出した。
「セト対策のためにもアーサーの修理を優先する。それでいいだろ。残った部品の寄せ集めしかないがそこは我慢してくれ」
アーサーが望むのは自らの完全修復だ。その件を駆け引きには使いたくないが、ここはアーサーの説得を優先することにする。
どのみちアーサーの修理は必要なのだ。
『よかろう! 寄せ集めの部品を構築することこそが構築技士の本領だろう。期待している』
そしてあっさりとアーサーはセトのレルム移送案に応じたのだった。
「フラックもしばらくアーサーのパイロットにする。すまないフラック」
「大丈夫だよ! 任せて!」
少年もアーサーと行動をともにすることは期待するところ。コウの願いは渡りに船だった。
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