極光展開
「任せてといってみたものの、宇宙艦の装甲を貫通できるほどの威力がある武器なんて……」
コウの前でつい張り切ってしまったフラックだったが、冷静さを取り戻した。
『ん? どうしてそう思う?』
少年の疑問にアーザーがたずねる。
「幻想兵器は宇宙艦がもとなんでしょ。あの装甲を一撃で貫通できるほどの威力を持つ武器があるなら、惑星間戦争時代に宇宙戦など存在しないかなって」
『聡明な少年だ。だが手はあるぞ。私とウーティスならできる』
「本当?!」
『もちろんだとも。私のマルミアドワーズならね。正面から貫通できるぞ』
「どういう原理で? コウ兄ちゃんの構築でも無理じゃないかな」
『案ずるな少年。偉大なる鍛冶神の名を冠した超AIと惑星アシアを救った構築技士による合作。究極の光。そう、いわば極光だ!』
断言するアーサーにフラックも思わず鵜呑みにしてしまう。
「凄そうだ…… 信じるよ。出力最大。リアクターの位置は不明だけど、正面か真後ろを貫通させるようにして……」
『どこに心臓であるリアクターがあるか不明だ。それなら一番被害が大きくなるように正面か背後から、船体を貫通するようにするか。――それでいこう、少年』
「うん!」
隣に五番機がフラックを守る様に戦っている。高度二千メートルを超す上空で、シルエット状態ではラニウスC型を含め、数えられる程度だろう。
「コウ兄ちゃん。真正面に回る。援護してね」
「了解だ。真正面だな」
コウが返答しながらマリードを斬り伏せる。通常ならシルエットなど戦闘機の的だが、この惑星リュビアでは友軍しか航空機は存在しない。
アーサーがマルミアドワーズの砲身を展開したとき、アシアが気付いた。
「ちょっと待ってコウ! 確かにあれなら破壊できるほど!」
「マルミアドワーズを使うのか! フラック、出力を――」
「全開でいくよ!」
「待て!」
制止する間もなかった。マリードとカコダイモーンの攻撃を舞うように回避するアーサー。
五番機を遙かに凌駕する加速である。
「いっけえ!」
『いくぞ! 極光展開!』
セトの眼前に踊りでたアーサーが照準を合わせる。
一瞬、フラックはセトと視線があった気がした。自然と恐怖は湧かなかった。
『悪しき邪神を屠る!』
引き金を引く。レーザーにも見える攻撃は可視化できた。赤い閃光が走ったのだ。
その瞬間セトの強固な頭部にぽつんと小さな孔が空いた。
「え?」
見えない弾道の軌跡は輝けるオーロラとなって周囲を包む。
徐々に広がるオーロラは幻想的な光景だった。
紫から青、そして緑色の光が広がっていく。
『ばかな』
セトが呻いた瞬間、内部から連鎖的に爆発が起きた。
痛覚がないとはいえ、内部からの爆発には耐えきれない。
『その攻撃は……』
セトが体勢を崩し、地表に落下しそうになる。
『まずい!』
その瞬間、ガルーダが体当たりを行い、落下するセトを離れた場所へ弾き飛ばした。
「あ!」
フラックが声を上げる。
マルミアドワーズの砲身が爆発したのだ。
「ごめん、壊しちゃった……」
『セトを倒し人々を守ることが先決だった。問題ない』
アーサーは頭から落下していた。
「問題あるよね?!」
『応急処置で最大全力を出した結果だ。いちかばちかだったが』
すかさず五番機がアーサーをつかまえる。
「アーサー。当分修復はなしだ」
『そんな殺生な』
ぼやくその姿にコウは呆れる。
「シルエットからそんな言葉を聞くとはな…… 物理的に無理だぞ。レルムにはもう部品の予備はないんだ」
『そういうことか!』
「そうだ。リュビアのためにも協力はするが、どうしたものか……」
ポリメティスのテクノロジーとレルムに残存していた部品をありったけ使って再構築したものが現在のアーサーだ。
むろんコウの知識が及ばないものは構築することは不可能。規格をあわせ、現時点で応用できる技術を使っただけだ。
「コウどうしよ。いきなりアストライアにばれたんだけど」
ごまかしようがない兵装ではあるが、実際にここまでの威力を目の当たりにしてアシアも首をふる。
あまりにも危険すぎる代物だ。
「……仕方ない。フラックが無事だったんだ」
コウは肩をすくめ、軽く嘆息した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「セト、無力化を確認」
アキの声が虚ろに響いた。
ガンスミスである彼女の、理解を超えた攻撃だった。
上空にはオーロラが発生している。
「まだ多少稼働はできる模様。油断は禁物です…… にゃ」
とってつけたような語尾を呟くにゃん汰。ワイルドキャットである彼女は様々な光学兵器を研究してきた。
シルエットで搭載可能な武器ではない。艦載砲ですらあの威力を再現することが可能かどうか疑わしかった。
『この件についてはコウに確認します。極力コウへの確認は控えてください』
アストライアの言葉に、艦内クルーが頷いた。
「アストライア。少し質問をいいかね」
ヒヨウから衣川より通信が入る。秘匿通信だった。
『構いません』
「あのような武器は可能なのか。爆発する可視レーザーなど」
『いいえキヌカワ。あれはレーザー砲ではありません。反物質砲、あれこそが陽電子砲です』
「なんと! むしろ道理で、というべきか」
奇妙な現象に、シルエットサイズではありえない超兵器。
『降下電子を観測しました。本来は極域電離圏における攪乱現象です』
「降下電子。またの名をオーロラ電子だね」
衣川も聞き覚えのある現象であった。
極域電離圏は地球の北極や南極上空に発生する高密度プラズマがオーロラを引き起こす。
不可思議なことに北極や南極自体ではオーロラは見ることは少なく、このプラズマはオーロラ帯と呼称される両極付近を覆う楕円形の地域上空を通過するときに発生する。
『あのシルエットこそネメシス星系初期。オリンポス十二神を摸した超AIたちが創り出したアナザーレベル・シルエット。惑星間戦争時代、どの勢力も欲した戦略用兵器です』
「別次元のシルエットか…… あの砲の原理を聞いてもいいかね?」
『発光にみえたあのレーザーは陽電子の通り道。高熱によって時間差で白色化したので可視できた時点で照射は終了しています。陽電子をいわば液体炸薬で構成された水を使ったウォーターカッターのように打ち込み、対消滅反応を起こしながら貫通。レーザーが創り出した弾道上の装甲を含めた物質そのものを対消滅エネルギーで爆破するのです』
「可視レーザーは熱現象による軌跡に過ぎず、あのオーロラのような現象は大気と反物質が衝突したことによるプラズマということだね。反物質を防ぐことは出来ないか」
『減衰は可能でしょう。しかし今の幻想兵器にその対抗手段はありません。大気現象におけるプラズマ。雷に反物質である陽電子が含まれ対消滅が起きていることは二十一世紀にも解明されております」
アストライアの説明にキヌカワは納得した。
「太陽系で例えるなら太陽が起こしたフレアが地球に到達したときに起きる現象だね。天体規模の事象ということになる」
『そのようです。太陽から放射された荷電粒子が大気と衝突して生まれる現象こそオーロラ。この衝突時に反陽子も検出されています。反物質が量子レベルの残滓として大気と反応した現象です』
「
『そうです。かつての私でも創り出すことができないシルエット。それがアナザーレベル・シルエットなのです』
「しかし、君とコウ君は…… いいや。言うまでもないか」
『その推測通りです。私たちなら可能ではありますが、シルエット搭載サイズの小型化は到底不可能です』
「ではあの武器が壊れた今、再現は不可能ということか。いいや。アストライア。完全再現は不可能にしておいたほうがいい。君からもよく伝えておいてくれ」
『やはり鋭い人間は恐ろしいですね。今後もコウのことをよろしくお願いします』
「もちろんだとも」
コウが為したことの理解者がいる。それはアストライアにとっても僥倖なことだ。
「また三人で話し合う必要もあるだろうな」
『間違いなく。コウはまだ自覚していません』
アストライアは懸念を隠そうともしなかった。
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