グロ担当

「黒瀬。お前はヒュドラを頼む。零式部隊に告ぐ。ガルーダを援護せよ」


無情にも衣川が黒瀬に再び、テラス母艦の撃破を命じた。


「また俺ですかい!」

「もう慣れただろう」

「グロ担当は勘弁してくださいよ」


 黒瀬がげんなりして言う。

 本当に精神汚染を受けそうなほどグロいのだ。


「周りに敵がいねえから、乱射できていいじゃねえか」


 ハイノは不敵な笑みを浮かべている。気兼ねなく倒せる敵はいいものだと思っていた。


「わん!」


 ハヤタロウが吼えた。


「ガウ?」


 狼身型ファミリアのハイノが答える。犬科同士なので意思疎通はある程度可能だ。


「ワンワン!」

「ウォーン!」


 ハイノが吼えた。


「どうした?」


 黒瀬もハイノの異様な興奮に気付いた。


「アナライズ・アーマーに変形するぜ。俺付きでな! 通訳はいるだろ?」

「何かあるのか!」

「ああ。ハヤタロウが一緒に戦ってくれるそうだぜ! 今から戦闘形態に変形するらしいぜ! こっちも負けてはいられないな!」


 白い山犬は確かに変形する。

 シルエットに酷似した、巨大な四つ足。金属のイヌ型兵器と化した。これがハヤタロウの戦闘形態なのだろう。


「なんだと! おう。こちらも変形だ!」


 二人が搭乗しているドラゴンスレイヤーはシルエットのアラマサと戦闘機のアコルスで構成されている。

 この機体をアナライズ・アーマーとして使用することで、重武装のシルエットとなるのだ。

 

「そのまま背に乗るといい!」

「おっしゃあ!」


 五番機がネコに乗って戦っているように、黒瀬もイヌに乗って戦闘可能になったのだ。通訳はハイノがいる。

 もはや隙がない状態となるドラゴンスレイヤー。


「ズルいぞ黒瀬! 私も乗せろ!」


 ハヤタロウに乗って戦うという機会を逸し、今にも歯軋りしそうな衣川であった。


「残念だったな衣川さん! そんな時間はないぜ!」


 ここぞとばかり自慢げに断る黒瀬。グロ担当にされた恨みも少しばかりある。


「おのれ黒瀬!」


 心底悔しがる衣川。こうしてハヤタロウに乗る機会を奪われたのだった。


 ドラゴンスレイヤーはハヤタロウにまたがった。


「うぉ!」


 ハヤタロウの背面の機械構造が作動し、アラマサの脚が吸い込まれた。

 

「これも幻想合体か!」

「シルエット連携を想定された幻想兵器だな。人類と一緒に進化した犬科ならではだ!」


 ハイノが解説する。


「クアトロ・シルエットの能力にドラゴンスレイヤーの火力だ。あのヒュドラも敵じゃないぜ」

「そうだな。いくぞハヤタロウ!」

「ワン!」


 一人と二匹が一緒になって、巨大なヒュドラに立ち向かう。

 その後にクー・シーと零式が援護に続いた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「みんな。遅れてすまない」


 住民たちの安全を確認したリュビアがアストライアにようやく戻ってきて、謝罪した。


「そしてこのカオスのような状況はなんだ?」


 迫り来るグロテスクな兵器群に立ち向かう、巨大な犬と猫と複葉機とパンジャンドラムの群れ。

 イヌの胴体に上半身がトライレーム艦隊のシルエットという兵器。


 カオスとしか言い様がない戦場であった。


 トライレーム艦隊は今回の遠征ではシルエットと可変機が中心だ。

 彼らも戦っているが、要所の防戦任務が主である。


『貴女が創り出した状況です』

「うぅ……」


 リュビアとしても認めたくない事実ではあった。


『何をもってフィクションの神話体系まで取り入れたのか心当たりはありますか?』

「生物多様性が広がるかなって……」


 心当たりはあったらしい。


「古生代の生き物や深海生物っぽいまで空を飛んできているよ?!」


 アシアが思わず介入し、苦言を呈する。


『問題の根幹は確かに介入したテュポーンにあります。ですが、本来の参照されるべき神話や伝説。そのデータベースの範囲を広げすぎです』

「それはストーンズの裏をかくためだぞ!」


 リュビアは弁明する。


『パンジャンドラムと猫が合体していますが』

「なんだそれは?」


 画像に映し出される魔道火車。鳴きながらプラズマを操る猫と、雄叫びを上げる火車がカコダイモーンに体当たりしている。

 リュビアの想像を超えた映像に絶句する。


「そんな……」


 少なくともリュビアが知っている神話や幻想生物にそんな存在はいなかった。


『もう一つ。こちらを』


 形容しがたい巨大な半魚人と、その群れが映し出される。

 周囲には影響を受けたであろう、グロテスクなカコダイモーンが無数に湧いていた。


 まさに悪夢の軍団としか言えぬ光景。目を背けたくなる映像だった。


『無差別な伝承収集が生み出した結果です』

「……反省する」


 ようやく声を絞り出すリュビア。


『よろしい』


 納得したアストライアは本題に入る。


『これよりコウとバステトによるフェンリル攻略。ドラゴンスレイヤーとハヤタロウによるヒュドラ攻略を同時に行います。空中の機動性では生物形態を持つセトに、トライレーム艦隊では太刀打ちできないでしょう。我々はガルーダとアガトダイモーンの支援に入ります』

「戦力を集中させてはどうですか?」


 エリがアストライアに問いかける。


『通常の戦闘とは異なります。積極的に協力してくれているアイドロンたちを無理矢理統制しようとしてもうまくいくとは思いません』

「俺もそう思うアストライア。ケット・シーと火車たちでこのままフェンリルを倒したいが……」

『どうしましたか?』

「周囲の温度が急速に低下している! 五番機は真空対応だから問題ないが猫たちが……!」

『落ち着いてくださいコウ。猫ではありません』

「……そうだったな」


 外見ですっかり猫と同じ扱いをしていたコウが我に返る。


「すまないアストライア」

『猫から離れられないのは仕方ありません。しかし気象さえ操るとは』


 極めて限定的ながら、フェンリルの周囲が極寒の地となっていた。


「くそ。相手は元気があるのに」

 

 フェンリルの眷属たるハティたちは元気だ。彼らはテラスだけあって、金属の肉体を持つ、凶悪な外見。心なしかシベリアンハスキーに似ている気さえする。

 ケット・シーたちでも弱個体であろう小型のものは、集まって丸まっていた。


「どうするか……」


 極寒の地で苦戦の予感がするコウだった。

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